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生活基盤を整えよう

「次は寝る場所を作りたいんです!」


『そうですか地下に生成しますので直ちにこちらに戻って下さい。』


「いえ。私は地上で暮らしたいです」


『・・・なぜそのような無駄なことをするのか理由を確認します』


「窓がありますし、陽の光も入りますから・・・地下に一晩いて分かったのですが暗くてジメジメしたところはもう嫌なのです!」


『地下にも発光苔を生成できます。ジメジメは我慢して下さい』


「ノア・・・人間は、明るければどこでも同じというわけではありません」


 少し考えるような間があった。


『理解できません。管理者は迷宮の最奥にいた方が安全です・・・。』


 昨日確認した居住部屋の中から、比較的傷みの少なかった一室を選ぶ。屋根の一部と窓枠、壁の亀裂を修復対象に指定すると、ノアがすぐ費用を算出した。


 土属性魔素を使って石壁を補強し、壊れた部分は元の資材を再利用する。窓だけは完全なガラスを生成すると高くなるため、今日は木製の雨戸で塞ぐことにした。


「ベッドもお願いします。あとできれば化粧台も・・・」


『ベッドに関しては最低規格を推奨します。化粧台は却下します。』


 目の前に簡素な寝台が表示される。


「・・・もう少し厚い寝具にはできませんか?」


『可能ですが、追加DPを消費します』


「どれくらい?」


『・・・二十二DP』


「それくらいなら――」


『不要です。本来床で眠ればゼロDPですよ?』


「・・・では最低規格でお願いします」


『賢明です』


 寝台の次は簡易調理炉だった。


 こちらは火属性魔素を提供すると、八十DPから十八DPまで下がった。ただし火属性は水や土より感覚を掴みにくく、最初に流した魔素が強すぎてノアから即座に止められた。


『出力過剰です!このままではパンクします!』


「これでも抑えているつもりなのですけれど」


『このままでは調理炉ではなく無駄に高性能な焼却設備になってしまいます!』


 何度か調整し、ようやく適正量へ収める。そうして小さな竈が厨房の壁際へ形成された頃には、エリシアもかなり疲れていた。


 最後に地下通路と地上の主要な部屋へ発光苔を配置し、崩れかけていた玄関の一部を補強する。


 修道院全体を綺麗にするには到底足りない。屋根にもまだ直す場所が多く、庭は草だらけだ。それでも昨日とは違う。水があり眠れる場所がある。そして火を使える。


 地下へも安全に行き来できる。


「……これでなんとか生活できそうですね」


 日が傾き始めていたため、今日は残した食料で簡単な夕食を作ることにした。調理炉へ火を入れ、乾燥肉と豆を小さな鍋で煮る。


 公爵邸にいた頃なら、厨房へ入って自分で料理をすることなどほとんどなかった。


 見よう見まねなので決して上手とは言えないが、それでも温かい匂いが広がると昨日まで廃墟にしか見えなかった部屋が、ほんの少しだけ生活する場所らしく感じられた。


『管理者エリシア』


「どうしました?」


『領域内魔素濃度の上昇を確認しています』


 エリシアは鍋を混ぜながら顔を上げた。


「またですか?」


 ノアの声と同時に、視界の端へ文字が現れる。


《水属性魔素――循環確認》

《土属性魔素――定着確認》

《火属性魔素――定着確認》

《聖属性魔素――微量循環》


「循環?」


『生成した泉、修復箇所、調理炉などへ属性魔素が定着し、領域内部を継続的に巡っています』


「つまり、私がノアに直接に魔力を渡し続けなくても設備を使えば魔素が補充されるということですか?」


『すぐに消失する状態ではなくなりました。領域全体が魔素を保持し始めています。少なくとも設備を維持するためだけに魔素やDPを使う必要がなくなりました。』


 エリシアは火を弱め、手を止めた。地下から響くように、低い振動が修道院全体へ伝わってくる。


《領域魔素濃度 規定値到達》

《継続維持を確認》

《コア成長条件達成:Lv.2 → Lv.3》


「……コアのレベルがまた上がったのですか?昨日Lv.2になったばかりですよね?」


 今までより少し長い沈黙のあと、ノアが答えた。


『通常であれば、ここへ到達するまで数十年を要します』


「数十年?」


 さすがのエリシアも鍋を置いた。


「二日も経っていませんけれど」


『大きな要因はあなたの無駄に大出力な魔力量のおかげです・・・ただし量だけではありません。管理者エリシアの魔素が非常に高品質であることも理由の一つでしょう。』


 ノアによれば、コアレベルはDPを大量に持っていれば上がるわけではないらしい。領域全体に一定以上の魔素が存在し、それが短時間で消えることなく循環していること。


 Lv.3へ進むには、それが重要な条件になる。


 普通のダンジョンであれば、侵入者や魔物から少しずつ魔素を蓄え、何年、何十年という時間をかけて領域へ染み込ませていく。


 ところがエリシアは水、土、火と複数の高品質な魔素を立て続けに供給し、それぞれを設備そのものへ定着させてしまった。


「私は普通に必要な物を作っただけなのですが」


『結果として、極めて効率的な魔素循環環境が形成されました』


 視界いっぱいに、新しい文字が広がった。


《コアLv.3――発展段階》


《生成可能項目を拡張

《外縁領域設定機能を解放》

《生成魔物追加》

《設備・罠・環境生成項目追加》


 今までとは比べものにならないほど長い一覧が続いていく。


「こんなに増えるのですか?」


『Lv.3は、迷宮として最低限の発展機能が揃う段階です』


「これなら修道院の周りも直せるのでしょうか?」


『外縁領域を設定すれば可能です。現在の基本領域は修道院建物と地下構造までですが、条件を満たした範囲から周辺の土地へ影響領域を拡張できます』


 エリシアは窓代わりの雨戸を少し開き、外を見た。夕暮れの向こうには、草だらけの庭と崩れた石壁がある。


 昨日見たときは、どこから手をつければいいのか分からないほど荒れ果てていた。


「もしかして!畑も作れますか?」


『・・・可能です。ひ、っじょーに効率は悪いですが。』


「倉庫や作業場も?一度鍛冶を体験してみたいと思っていたのです!」


『・・・DPがあれば』


 最後の一言だけ妙に強く聞こえた。


「分かりました。八百あったからといって、使い切らないようにします」


『非常に重要ですからね!』


「二回も念を押さなくても大丈夫です」


 エリシアは苦笑しながら、もう一度外を眺めた。昨日までは、追放先として与えられただけの荒れた修道院が水場を作り、道を通し、寝る場所と火を使える場所を整えただけで、少しずつ違って見えてくる。


 まだ、人が暮らすには不便なことばかりだ。けれど、直せないわけではない。


「ノア、明日はこの一覧を最初から確認しましょう」


『全項目ですか?』


「もちろんです。何ができるのか分からなければ、計画も立てられませんから。時間ならありますし」


 エリシアは鍋の中身を確認しながら笑った。


「これからここで暮らすのですもの。急ぐ必要はありません」


 返事が来るまで、ほんの少し間が空いた。


『了解しました』


 王都にいた頃、自分の将来はほとんど決まっていた。何を学び、誰と結婚し、どのような立場になるのかまで、ずっと前から道が用意されていた。


 ー今は何も決まっていないー


 明日何を作るかさえ、自分たちで考えなければならない。


 エリシアは出来上がったばかりの温かな夕食を器へ移すと、まだ修繕途中の部屋を見回した。


 何も決まっていないということが、こんなにも楽しみになるとは思わなかった。

もし少しでも

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それではまた次回!

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