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ダンジョン改装

『次は鉄鉱石です! ただし、第四階層よりも構造を工夫する必要がありますよ!』


「どうしてですか?」


『鉱石は岩塩よりも重く、採掘にも時間がかかります。運搬経路を確保しなければ、採掘した鉄鉱石を地上へ持ち帰るだけで大仕事になってしまいます!』


「……確かにそうですね」


 エリシアは第五階層の構造図を確認した。


 もともとは騎士団を足止めするために作った迷路状の通路が多く、荷車が通れるような場所はほとんどない。


 このまま鉱山へ変えてしまえば、採掘はできても運搬が難しくなるだろう。


「では、まず通路を広くしましょう。入口から鉱山の奥まで、荷車が通れるくらいの道を作りたいです」


『承知しました! ただし、通路を広げる分だけDPが必要になりますよ!』


「そこは仕方ありません。せっかく鉄が採れても、運び出せなければ意味がありませんから。それにここは石炭も生成しなければなりませんからね!」


 ノアと相談しながら、エリシアは第五階層を鉱山として作り替えていった。中央には広い採掘場を設け、周囲には鉄鉱石が生成される鉱脈を配置する。


 さらに、荷車が通れる幅の通路と、採掘した鉱石を一時的に保管する場所も作った。資源領域化を実行すると、岩壁のあちこちに赤茶色の鉱脈が浮かび上がり、所々黒い鉱脈も見えている。


『第五階層の資源領域化が完了しました! こちらも資源生成速度は最大です!』


「これで鉄鉱石と石炭も確保できますね」


『はい! ただし、鉄鉱石のままでは釘や道具には使えませんから、精錬するための設備が必要になります!』


「それについては、トーマさんと相談しましょう。今ある設備だけでは難しいかもしれませんし」


『そうですね! 将来的には、地上に鍛冶場を作るのもよいかもしれません!』


 エリシアはその提案に頷いた。これまでは、壊れた道具を修理することしか考えていなかった。しかし、鉄鉱石を安定して入手できるようになれば、新しい道具を作ることも可能になる。


 修道院の修繕だけでなく、農業や建築の効率も大きく改善できるだろう。


 ただし、採掘場の隅には、早くも小さな穴がいくつか生まれていた。


 ノアによると、鉱山に適応した魔物が出現した痕跡らしい。


「……こちらも、やっぱり魔物は出るのですね」


『はい! しかも、地面を掘る種類の魔物が出現する可能性があります。採掘用の通路を壊されないよう、定期的に点検した方がよいでしょうね!』


「分かりました。第五階層については、トーマさんにも安全対策を相談してみます」


     ◇


 第六階層では、これまでとはまったく異なる景色が広がることになった。


『次は繊維植物の生産です! こちらは鉱山とは違い、植物が育つ環境を整える必要があります!』


「それなら、草原のような場所がよさそうですね」


『はい! 日光の代わりとなる魔導光と、植物が育つための水分を供給できれば、地下でも問題なく栽培できます!』


 エリシアは第六階層の広間へ水属性と土属性の魔力を流し込むと、乾いていた地面が柔らかな土へ変わり、天井には淡い光を放つ魔導石が埋め込まれていく。


 そこへノアが繊維植物の生成機能を追加した。


 すると、何もなかった地面から細い芽が顔を出し、ゆっくりと成長を始めた。


「……これは、ずいぶん変わった植物ですね」


 エリシアが近づいてみると、植物の茎には白い綿毛のような繊維が絡みついていた。


『これは《糸草》という植物です! 茎から採れる繊維を加工することで、糸や布の材料にできます!』


「これなら、衣服や毛布を作るのに使えそうですね」


『はい! ただし、そのままでは布になりませんので、繊維を取り出して糸にする作業が必要です!』


「それは住民の皆さんにお願いしましょう。マルタさんなら、詳しい方をご存じかもしれませんし」


 エリシアは周囲に広がる草原を眺めると地下にいることを忘れてしまいそうなほど、穏やかな景色だった。


 天井の魔導光が柔らかな光を放ち、緑の草が風に揺れている。


 もっとも、風そのものもノアが迷宮の機能で生み出したものらしい。


『ちなみに、こちらも資源生成速度を最大にしています! 収穫後は一定の周期で新しい糸草が育ちますので、継続的に繊維を確保できますよ!』


「それは助かります。冬服だけでなく、包帯や袋などにも使えそうですね」


『はい! ただし、植物を食べる魔物が出現する可能性もありますので、収穫量には注意が必要です!』


「……ああ、そういう問題もあるのですね」


 魔物がランダムに出現するということは、植物を食べる種類が現れる可能性もある。出現する魔物が弱くても、せっかく育てた資源を食べられてしまっては困る。


「ノア、採集前に植物の状態を確認できるようにしておいてください。必要なら柵を作ることも考えましょう」


『了解しました! 資源生産階層の管理項目に追加しておきます!』


     ◇


 第七階層の改装が始まる頃には、エリシアも少し疲れを感じ始めていた。


 ここまで三つの階層を改装し、そのたびに大量の魔力を流し込んでいる。騎士団との戦いで魔力を使い果たしたときほどではないが、無理を続ければまた倒れてしまうかもしれない。


『エリシア、少し休憩しますか?』


「そうですね。少しだけ休ませてください」


 エリシアは第七階層の入口近くに用意された椅子へ腰を下ろすとノアが水を用意してくれたので、喉を潤しながら現在のDP残量を確認する。


「……思っていたより減っていますね」


『当然です! これだけの階層を改装したのですから! ただ、今のところ計画の範囲内ですよ!』


「それならよかったです」


『それに、騎士たちの訓練によってDPも少しずつ補充されています! 実に素晴らしい循環ですね!』


 以前なら、これほど大規模な改装を一度に進めることは難しかっただろう。住民たちの生活によって得られるDPだけでは、とても足りなかったはずだ。


 しかし今は、騎士たちの訓練が加わったことで、ある程度の余裕が生まれている。


 もっとも、その訓練については今でも少し心配していた。


「ノア、騎士の皆さんは今日も元気にしていますか?」


『もちろんです! 今朝も皆さん、非常に意欲的に訓練へ参加されていますよ!』


「……そうですか」


『ちなみに、最近は訓練開始前に全員でエリシアへの感謝を述べる習慣ができたようです!』


「……それ、本当に必要なのですか?」


『士気の向上には効果的だと思います!』


 エリシアはため息をつきながら立ち上がった。今は、目の前の改装を終わらせることが先決だ。


「では、第七階層に行きましょうか・・・」


『はい!第七回層は次は森林です!』


 第七階層は、広大な地下森林へ改装することになった。天井を高くし、地面には厚い土の層を作る。そこへノアが樹木の生成機能を追加すると、地面から小さな芽が次々と現れた。


 芽はゆっくりと成長し、やがて枝葉を広げ始める。


 しばらくすると、エリシアの前には若い木々が立ち並ぶ森林が広がっていた。


「……すごいですね。地下に森まで作れるなんて」


『ふふん! これぞダンジョンの力です! こちらは《再生樹林》と名付けましょう!』


「再生樹林……。確かに、木が補充されるならぴったりの名前ですね」


『はい! ただし、木材として使える大きさまで成長させるには、それなりの時間が必要です。生成速度を最大にしても、伐採した翌日に同じ大きさの木が生えるわけではありませんよ!』


「それはそうですよね」


 エリシアは近くの木へ手を触れた。


 まだ若い木だったが、しっかりとした幹を持っている。これなら、時間をかけて育てれば建築材として利用できそうだった。


「木材だけでなく、薪も確保できそうですね」


『はい! ただし、伐採したばかりの木は水分を多く含みます。薪や建築材として使うには、乾燥させる必要がありますね!』


「それなら、地上に乾燥用の場所を作りましょう。トーマさんにも相談してみます」


『よい考えです!』


 エリシアは第七階層の構造図を確認した。


 中央には広い森林があり、周囲には運搬用の通路が設けられている。


 木を伐採した後、マグマゴーレムなどに運搬を手伝ってもらえば、住民たちの負担も減らせるだろう。


 ただし、森林という環境は魔物が出現しやすそうでもあった。


「ノア。この階層には、どんな魔物が出るのでしょう?」


『それは実際に発生してみないと分かりません! ただ、森林ですから小動物型や植物型の魔物が出現する可能性が高いですね!』


「……植物型の魔物までいるのですか?」


『もちろんです! ただし、資源生成速度は最大ですから、出現したとしても一角兎と同程度の強さですよ!』


 もっとも、弱い魔物であっても、住民たちが不用意に襲われるようなことは避けたい。そのため、第七階層の入口にも、魔物の出現を確認するための監視機能を追加することにした。


     ◇


「……さて、次は第八階層ですね」


 翌日、十分に休息を取ったエリシアは、再び管理室へ向かっていた。昨日の改装によって、第四階層から第七階層までの資源領域化はひとまず完了している。


 残るのは第八階層と第九階層だった。


『第八階層は少し特殊ですよ! ここでは魔石や魔道具の材料となる鉱物を生成しようと思います!』


「魔石ですか?」


『はい! 今後、迷宮の設備を増やしていくなら、魔石は非常に重要な資源になります。商人から購入する必要がなくなれば、かなりの節約になりますよ!』


 確かに、魔石は魔道具を動かすために欠かせない。修道院でも照明や簡単な生活設備に魔石を使用しているし、今後さらに施設を増やすなら、その需要は大きくなるだろう。


 エリシアは第八階層の構造図を確認した。


「こちらも、資源生成速度を最大にすればよいのでしょうか?」


『それが、少し難しいところなのです!』


 ノアが画面を切り替えた。


『魔石は周囲の魔素を取り込みながら成長する性質があります。そのため、資源生成速度を最大にすると、生成される魔石の品質が低くなってしまうのです!』


「なるほど……。魔石を作るための魔素まで、ほかの資源生成に使ってしまうのですね」


『その通りです! ですから、第八階層については生成速度を少し落とし、魔素濃度を高めに維持することをおすすめします!』


 生成速度を落とせば、魔物が強くなる可能性がある。しかし、品質の低い魔石ばかり作っても、今後の設備には使えないかもしれない。


「では、第八階層は少し危険な場所になるのですね?」


『はい。もっとも、今回の設定であれば極端に強力な魔物が発生する可能性は低いでしょう。ただし、第四階層から第七階層までとは違い、一般の住民が気軽に入れる場所にはしない方がよいと思います!』


「分かりました。それなら、採集できる人を限定しましょう。入口にも許可がないと通れない仕組みを作ってください。」


『承知しました!』


 第八階層の改装では、天井や壁面に魔石の結晶が生成されるよう設定した。周囲には淡い青色の光が漂い、洞窟の奥には大小さまざまな結晶が並んでいる。


 第四階層の岩塩とは異なり、こちらの結晶からは微かな魔力が感じられた。


「……綺麗ですね」


『はい! ですが、こちらは資源生成速度を抑えていますので、魔物への警戒を忘れないでくださいね!』


「ええ。しばらくは私かリナさん、そして騎士の方々が同行するときだけ採集することにしましょう」


 エリシアはそう決めて最後の第九階層へ向かうことにした。


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それではまた次回!

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