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一角兎とお化けカボチャ

 『さあ、もうすぐ魔物の巣ですよ』


 話しながら奥へ進むと、石造りだった景色が少し変わった。床に草が生えており、地下なのに、小さな草地が一室だけ作られていた。


 その中央付近には土を盛ったような穴がいくつもある。


「ここが一角兎の巣ですか?」


 近づく前に、穴から白い耳が一つ出た。続いて、小さな身体が顔を覗かせる。普通の兎より少し大きく、額には短い一本角が生えていた。


「……思っていたより可愛いですね」


『狩猟対象です』


 一角兎はエリシアを見ると、警戒するように後脚で立った。次の瞬間には額の角を向け、こちらへ突進してくる。


「わっ!」


 横へ避けると一角兎はそのまま壁際まで走り、慌てて方向を変えた。


『初心者向け魔物です。そこまでの脅威ではありませんよ』


「これならリナさんたちも安全に狩れそうです」


『・・・油断すると脚へ角が刺さりますので気をつけて下さい』


 そんな会話をしながらさらに第二層へ降りると、今度は雰囲気が大きく変わった。壁沿いに蔓が這い、通路の一部には葉が広がっている。


 奥の部屋には、大きなかぼちゃがいくつも転がっていた。


「これが……?」


 エリシアが一歩近づくと一つのかぼちゃがこちらを向き、表面に目と口のような裂け目が開く。


「本当にお化けみたいな見た目ですね」


 蔓が床を走ってきた。エリシアは慌てて足を引き、絡まれる前に避ける。


「思っていたより攻撃的ですよ?」


『植物型”魔物”ですから・・・』


「かぼちゃだと思って油断したら駄目ですね。・・・攻撃してくる野菜を食べるのも、少し不思議な気分ですが……」


 一角兎より動き自体は遅いし、蔓の届く範囲も限られている。戦い慣れていない住民がいきなり相手をするのは危険だろうが、狩りに慣れた猟師と一緒なら十分扱えるはずだ。


「これなら、少なくとも食料を増やす道は作れましたね」


「第三層は?」


『現在は訓練区画です。第一層と第二層より罠を増加させ、魔物の追加配置に備えています』


「いきなり入らないよう伝えないといけませんね」


『入口を権限制御できます』


「では、最初は第一層と第二層だけ開放してください。慣れてきたら第三層も」


 その下には、まだ何も配置していない階層が七つある。エリシアは迷宮図を開き、地下へ伸びていく構造を眺めた。


「昨日まで、こんなに広くなかったのですよね。なんだか不思議な気分です。・・・私がここへ来たときは、水一つ作るのにも困っていたのに」

 

 小さな泉を作るために残り少ないDPを計算し、寝る場所すらまともになかったが、今は十階層を増やしている。


 そこへ人が食べるための魔物を育て、迷路や罠まで配置している。


「随分大きくなりましたね」


 エリシアは笑い、再び地上へ戻ることにした。


     ◇ ◇ ◇


 昼過ぎ、エリシアは修道院の外庭に住民たちを集めた。まずは狩りに参加できる者と、食料管理を担当する者だけに説明するつもりだったが、地下にダンジョンがあると聞けば誰でも気になるらしく、結局かなりの人数が集まってしまった。


「では、改めて説明します」


 エリシアは地下礼拝堂の入口を示した。


「この下には、私が管理するダンジョンがあります。今日から、その一部を皆さんの狩場として開放します。」


 ざわめきが起こる。すでにバルトから聞いていた者もいれば、初耳の者もいるのだろう。


「森より安全なのですか?」


 一人の男が尋ねた。


「危険がないとは言いません。魔物がいますし、罠もあります」


「罠?」


 住民たちは何のことか分からず顔を見合わせるが、リナだけが呆れたように息を吐いた。


「怪我をしない程度の罠だそうです。初めのうちは、私かリナさんたち猟師が一緒に入ります。慣れていない方だけで入るのは禁止します」


「何を狩れるんです?」


「一角兎と、お化けかぼちゃです」


「……かぼちゃ?」


 今度は別のざわめきが起きた。


「ちゃんと食べられる魔物ですよ!安心して下さい!」


「かぼちゃが襲ってくるのか?ってことは・・・食われる前に食えってことか」


 トーマの言葉に何人かが笑う。


 ユアンが興味深そうに身を乗り出した。


「種も取れるんですか?育ててみてもいいですか?」


「もちろんです。でも、普通の畑で魔物になったら困りますから、最初は少量でお願いします」


 食料不足の話をしていた朝より、ずっと明るい顔をしている。


「一角兎の毛皮と角も残せます。狩った魔物は、必要な分を皆さんで使ってください」


 バルトが尋ねる。


「取り尽くしてしまう心配は?」


「一定数まで減ると、巣から新しく生まれます。ただ、すぐに全部戻るわけではないそうです」


「なら、獲る数も管理した方がいいですな」


「そこはバルトさんにお願いしても?」


「任せてください。食料の減りと合わせて記録します」


 リナは地下への入口を見ながら腕を組んでいた。


「今日から入れますか?入れるのなら、一度見たいです。昨日より身体は動きますし、それに、森へ出るより安全なのか自分で確認したい!」


「分かりました。では私も行きます」


「エリシアさんは休んでください・・・昨日キングウルフと戦った人が、何を言ってるんですか」


 数日前まで逃げてきたばかりだった人々が、今日の夕食のために地下へ狩りに行こうとしている。エリシアはその様子を見ながら、ほんの少し肩の力を抜いた。


 まだ家は足りないし、畑もまともにできていない。食料だって、今日やっと入手するつ方法が増えただけだ。


 それでも昨日よりは先へ進んでいる。

 

 地下に広げた十の階層も、今はほとんど空だが、いずれ新しい魔物や資源を置けるだろう。その頃には、地上も今とは違う景色になっているかもしれない。


     ◇ ◇ ◇


 夕方、一角兎を数羽と、お化けかぼちゃを三体分持ち帰ったリナたちは、修道院の外庭で早速解体を始めた。


「本当に肉だ……」


 トーマが一角兎を見ながら呟くと、


「足は速いですが、動きは読みやすい。数人で入れば危険はかなり少ないと思います」


 とリナが話す。一方、お化けかぼちゃはマルタとユアンが切り分けている。


「普通のかぼちゃみたいね」


 マルタが断面を見る。


「少し色が濃いくらいです」


 ユアンは種の方へ夢中になっていた。


「これ、本当に植えられるかもしれません・・・魔物が畑から生えてきても責任は取れませんが、そこは確かめながらやります!」


 夕食には早速、一角兎の肉とお化けかぼちゃが使われることになった。エリシアはその準備を眺めながら、地下で使ったDPを確認する。


 かなり使ったがそれでも、残量にはまだ余裕がある。


「ノア、今日は助かりました」


『管理者への補助は本来機能です』


「私だけでしたら、食料がないから森へ出るか、買いに行くかしか考えなかったと思います」


『地下資源の活用は当然の判断です』


 少し前まで、ダンジョンは地下に隠しておくものだった。コアを守るための場所であり、自分とノアが暮らす場所。


 そこへ魔物たちが増え、今度は人間まで利用するようになった。


「住民を入れることまでノアから提案されるとは思っていませんでした」


『繰り返しますが、効率の問題です』


「はい。そういうことにしておきます」


 エリシアは笑いながら、夕食の準備が進む外庭を眺めた。一角兎の肉が焼かれ、お化けかぼちゃは大鍋へ入れられている。 ニナは透明なスライムに何かを見せながら楽しそうに話していた。二体のレッドキャップは、狩りから帰ってきたリナたちの装備を興味深そうに覗いている。


 昨日までにはなかった光景だった。


「これなら、畑が育つまでの時間も稼げそうです!地下の残り七階層も、少しずつ使い方を考えましょうね」


『その点についても複数の提案があります』


「聞いたら作りたくなるので、明日にしてください」


 そういうとノアはしばらく黙っていた。普段ならDPの残量か、明日の作業予定を話し始めるところだが今回はいつもと少し雰囲気が違う。


『エリシア』


 いつもより少しだけ間を置いてから、ノアが言った。


『ここまで、お手伝いしたんです。私にもご褒美を下さい!』

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