↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
27/63

次の日

「……終わったのですね」


 今度こそ、外庭から息を吐く音が広がった。


「やった……のか」


 誰かが呟くとトーマがその場へ座り込んだ。


「もーう無理だ。腕が上がらん!」


「みんなお疲れ様!温かいご飯ができているよ!さあ、さっきまで元気に動いてたんだ!早く修道院の中に入りな!」


 様子をうかがいに来たマルタが修道院から出てくる。


「終わったと分かった途端に疲れるものなんだよ!もうちょっと休ませてくれ!」


 そのやり取りを聞いていた何人かから、ようやく小さな笑い声が漏れた。戦いが終わったのだと、少しずつ実感が広がっていく。


「エリシアさん。……あのゴブリンたち」


 リナは二体のレッドキャップを見ていた。一体が矢を集め、もう一体は倒れているマグマゴーレムの側で石片を拾っている。


「今はレッドキャップだそうです」


 リナは少し言いづらそうに身じろぎをした。


「あの子たちがいなかったら、正面は持ちませんでした。だから……さっきのことは謝ります」


「さっき・・・?」


「ここへ来たとき、彼らに弓を向けたことです」


 レッドキャップたちは気づいていないのか、気にしていないのか、こちらを見てもいない。


「私ではなく、二人に言ってあげてください。たぶん気持ちは伝わりますよ」


 そう言われるとリナは二体のところへ向かった。エリシアはその背中を見送ってから、倒れているマグマゴーレムへ近づく。


「ノア。直せますね?」


『修復にはDPと土・火属性魔素が必要です。かなりDPを消費しますが・・・。それに現在、大量のDP獲得処理が進行していますが――』


「でも、それでもお願いします」


 迷う理由はなかった。エリシアはマグマゴーレムの核に手を触れ、土と火の魔素をゆっくり流す。


『修復処理を開始します』


 周囲に落ちていた黒い石片が小さく震え、ゆっくりとマグマゴーレムの核に集まり始める。完全に元へ戻るには時間がかかるらしい。


 それでも核の赤い光が少し強くなったのを見て、エリシアはようやく笑った。


「良かった」


『この個体を優先して修復する判断は、DP効率のみで考えれば最良ではありません』

 

 エリシアは聞き返さず、立ち上がる。

 

 怪我人の治療、魔狼の死体の処理に壊れた柵を修復もしなければならない。戦いが終わったからといって、今すぐ眠れるわけではない。まだまだやることは残っているのだ。


     ◇ ◇ ◇


 夜もかなり更けた頃、エリシアはようやく最後の負傷者の治療を終えた。


「これで深い傷の方はいないと思います」


 マルタが濡らした布を取り上げながら告げる。


「まだ外に――」


「確かに軽傷者は外にいますが、あなた一人で全部やる必要はありませんよ。後は私達に任せて下さい」


「あ、ありがとうございます。」


 素直に頷くと、マルタも少しだけ表情を緩めた。


「それでいいんです」


 修道院の外へ出ると、倒した魔狼は一ヶ所へ集められていた。全部で何頭なのか、エリシアには数える気力も残っていない。


 黒牙魔狼だけで相当な数がいて、ダイアウルフも複数体確認できる。そして少し離れた場所には、キングウルフの巨大な身体が横たわっていた。


「ノア。これも全部DPになるのですよね」


『領域内で死亡した魔物から、すでに生命力および残留魔力の一部を吸収しています。魔石、肉体、毛皮などを残した場合、その分は資源として現物保存されます。全量をDP化することも可能です』


 エリシアは魔狼たちを見る。


「残しましょう。毛皮は防寒に使えます。肉も食べられる可能性がありますし、魔石は……何かに使えるのでしょう?」


『魔道具や生成設備の補助素材として利用できます。それに、外部での交換価値もあります。しかし、全量吸収の方が即時DP獲得量は増加します』


「今までなら迷ったかもしれませんけど、二十七人も増えましたから。」


 修道院だけで全員が暮らし続けるには無理がある。


「DPだけ増えても、皆さんの服や食料を全部迷宮で作るのは大変でしょう?なら、使えるものは残します」


『合理的です。住民増加によって資源消費予測が変化しました』


「ノアも少しずつ考え方が変わっているのですね」


『状況に合わせて計算を更新しているだけです』


 視界へ数字が表示される。

 

 刺客を倒したときより、さらに大きい。黒牙魔狼、ダイアウルフ、キングウルフのそれぞれから得られたDPと魔素が加算され、これまで見たことのない量になっていた。


「……これだけあれば、レベルも上がるのでしょうか?」


『Lv.3からLv.4への移行条件は満たしていません』


『Lv.3以降はDP量のみで決定される段階ではありません』


「では、何が必要なのですか?」


 ノアはすぐには答えなかった。


『Lv.4になるかどうかで、神からの評価が必要となります。』


「……神様?」


『現在の管理者に必要な情報ではありません。そのため、今は気にする必要はありません』


「そういうところがありますよね、あなた」


 追及したところで話す気はなさそうだと、エリシアは諦めて表示を閉じた。


「ではLv.4は後回しです。今は寝る場所の方が大事ですね」


『同意します』


「それと、お風呂も欲しいです」


『不要です。泉で十分です』


 少し離れた場所で聞いていたトーマが笑い出す。


「何がおかしいのです?」


「いや、あれだけ戦った直後に風呂の話してるのが面白くて・・・誰と喧嘩してるのかまだ見えねえのが惜しいな」


「そのうち慣れますよ」


 笑いながら話す声が、夜の外庭へ広がる。すべてが壊れた村から逃げてきた人たちが、今は明日の風呂の話をしている。


 そのことを考えると、エリシアは不思議な気持ちになった。

     ◇ ◇ ◇

 翌朝、エリシアが目を覚ましたときには、外から木を叩く音が聞こえていた。


「……何の音でしょう」


『修繕作業です』


 昨夜は治療を終えたあと、半ばマルタに追い立てられるように自室へ戻った。服も着替えず寝台へ横になったところまでは覚えている。


『住民候補二十七名のうち、行動可能な者たちが修繕作業を行っています』


 そう言われ慌てて身支度を整え、外へ出ると、朝の光の中で見る外庭は、昨夜以上に酷い状態だった。


 柵は何ヶ所も壊れ、地面には魔法で作った窪みが残っている。焦げた草もあれば、水で泥になった場所もある。


 その中を人々が動いていた。


「そっちの柱、もう少し起こせ!」


 トーマが声を張り、何人かの男たちが倒れた柵を持ち上げる。少し離れた場所ではユアンたち農民が地面の穴を埋め、リナは別の猟師と外壁周辺の足跡を確認している。


 レッドキャップの二体も木材を運んでいた。


 修復途中のマグマゴーレムは、まだ片腕が完全には戻っていない。それでも座った状態で大きな柱を支えている。


「みなさん!これはどういうことですか?」


 エリシアが声を上げると、何人かが振り返った。


「おお!エリシアさん!おはようございます」


 バルトが普通に挨拶をする。


「おはようございます、ではなくて……皆さん何をしているのですか?」


「見れば分かるでしょう。壊れたところを直しています」


「昨日あれだけ歩いて、戦ったあとなんですよ?少しは休んで下さい!」


 トーマが柱を支えながら口を挟む。


「今日放っといたら雨でも降ったとき面倒ですよ!それにこの柵、元からかなり傷んでますよ。それに嬢ちゃんも昨日散々、あのでっかい炎の魔法で柵を壊したし」


「それを言われると何も言えませんが・・・」


 近くで笑い声が起きた。昨日ここへ来たときには、皆、立っているのもやっとだったのに今は疲労こそ残っているが、自分たちで道具を持って動いている。


「マルタさんは?」


「怪我人を診ていますよ」


 バルトが答える。


「子どもたちは朝飯を食べています。ニナも母親と一緒に食べています」


 無事だと聞き、ほっとする。


「バルトさん。少しお話しても?」


 二人は作業の邪魔にならない場所まで移動するとエリシアは昨夜から考えていたことを伝える。


「魔狼の群れは退けました。森へ逃げた個体はいますが、キングウルフがいなくなった以上、すぐに同じ規模で襲われる可能性は低いそうです」


「ありがたいことです」


「それで……皆さんが望むのであれば、もう少し安全な土地まで送ることもできます」

もし少しでも

「続きが気になる!」

「面白かった!」

と思っていただけたら、

【★★★★★】や【ブックマーク】を押していただけるとめちゃくちゃ励みになります!

それではまた次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。