王を討つ焔
エリシアは両手を前へ出すと火属性を集める。
すぐに熱が膨らみ始めた。
『出力上昇が早すぎます』
「分かっています。だから今回は、撃つ前に聖なる檻で熱を閉じ込めます」
『熱を閉じ込める?』
「私が一番慣れているのは、聖属性です!聖属性は魔を閉じ込めることに最も特化しています!」
火魔法の扱い方はよく知らない。風も水も土も、ようやく簡単な使い方を覚え始めたばかりだ。だが結界なら、何年も学んできた。
火を小さくする方法が分からないのであれば、大きくなった火を外へ逃がさなければいい。
『理論上は可能ですが・・・危険すぎます!』
「私が熱を閉じ込める聖属性の術式を作ります!ノアは火属性の術式の補助を!」
火属性の魔力を右手へ集めたまま、左手で聖属性の術式を組む。普段は人を守るため、広く展開する障壁。
それを細く薄く拡げていく。火の周囲だけを囲むように、筒のように、前だけを開けて。
「……こんな使い方、先生に見られたら怒られそうですね」
『非標準的ですね。・・・こちらの術式は完成しました。威力のみを重視した設計となっています!』
右手の炎が膨らむが今回は聖属性の障壁に押さえられ、熱が圧縮されていく。
『・・・内部圧力上昇。危険水準を大幅に超えています』
「・・・それは、いい調子ですね!」
異常な魔力の高まりを感じたのかキングウルフがマグマゴーレムの身体へ牙を食い込ませた。大きな音とともに、胸部の一部が砕け落ちる。
「時間がありませんね」
エリシアは静かに狙いを定めた。ただ、真正面から撃てばゴーレムまで巻き込む。
「ゴーレムとスライムは合図で離れてください!」
反応はないけれど聞こえていると信じる。
「レッドキャップ二人は、目を狙ってください!」
「ギャ!」
「ギャギャ!」
これで最後と言うように二本の火矢が飛ぶとキングウルフが顔を振り、片方を避けるが、もう一本が眉間近くの毛へ刺さった。
「今です!」
透明なスライムが後脚から離れ、同時にマグマゴーレムも最後の力を使うようにキングウルフを前へ押し出し、自分はその反動で後ろへ倒れる。
エリシアとキングウルフの間を阻む物がなくなり、視界が開ける。
「ノア、後は方向の補助だけお願いします!」
ノアに言葉をかけると同時に火と聖属性という二つの魔力を重ねて放つ。
その瞬間、聖壁で囲まれた炎が細長い光の柱のように前方へ走った。
キングウルフの炎が胸へ突き刺さる。光の筒に押さえ込まれた熱が一点へ集中し、その巨体を包み込むような巨大な火柱があがった。
「こ、これなら流石にたおー」
『・・・っっ生命反応継続!まだ、生きています!』
驚いたようなノアの声に応えるように巨大な火柱の向こうから唸り声が聞こえた。
「嘘でしょう……!」
エリシアの腕が震える。
「エリシアさん!援護します!」
リナの声が飛び、キングウルフの側面へ矢が刺さる。
「リナさん?」
さらに一本、その後ろから別の猟師の矢も続く。外壁側を見る余裕はないが、どうやら正面の魔狼を押し返してこちらへ援護を回してくれたらしい。
「ギャアッ!」
レッドキャップが石を投げもう一体が矢を放ち、倒れたままのマグマゴーレムもの残った右腕が地面を這うように伸び、キングウルフの前脚を掴む。
「……本当に、みんな無茶ばかりしますね」
『エリシアが言う資格は低いと判断します』
エリシアはさらに魔力を流す。
火の勢いを増やし、聖属性の障壁をさらに狭くする。広がろうとする炎を細く絞り、外へ逃げようとする熱を一切の無駄なく前だけへ押し込む。
「今度こそ……!」
キングウルフの胸を覆っていた毛が燃え落ち、その下で守られていた皮膚へ熱が届くと咆哮が上がった。先ほどのように人を怯ませる力のあるものではない純粋な苦痛の声だった。
『生命反応低下』
腕の感覚が薄くなり、額から汗が流れ、目に入りそうになる。
しかしここで止めたら、キングウルフはまた立ちあがり襲いかかってくるだろう。
そうなれば同じことをもう一度できる保証はない。
「もう少しだけ……!」
キングウルフが最後に大きく身体を捻った。最後に振り絞った全力の力によってマグマゴーレムの指が外れ、土から前脚を引き抜き、エリシアへ向かって走ろうとする。
「まだ動くの!?に、逃げて下さい!」
リナが叫ぶが火を維持したままでは避けられない。
「ノア、右から風属性の魔法で私を吹き飛ばして下さい!」
『これ以上の複数属性同時制御は危険です!』
「一瞬だけです!」
『どうなっても知りませんからね!影響範囲は敢えて拡げます!できる限り特大のを行きますよ!』
ノアの叫びの意味を理解するよりも速く、右側から風がぶつかり、吹き飛ばされた先には、透明なスライムが待っていた。
身体を薄く広げ、濡れた地面へ重なる。
キングウルフの前脚が空を切ると同時に大きく体勢を崩し、肩から地面へ落ちる。
「これで、!終わりです――!」
エリシアは残っていた魔力を振り絞り、巨大な火柱に魔素をくべると炎が倒れたキングウルフの胸を貫くように集中した。
獣の身体が大きく跳ねたあと、動きが止まる。
『生命活動の極低下を確認。死亡確認中です』
「早くお願いします。もう腕が――」
『キングウルフの生命反応消失を確認しました』
その言葉を聞き、エリシアはようやく火属性への供給を止めると急に身体から力が抜け、地面へ座り込みそうになる。
「エリシアさん!」
駆け寄ってきたリナが腕を掴む。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。少し……疲れただけです。ただ、支えて下さって……ありがとうございます」
「礼はあとでいいです」
そう言いながらリナはキングウルフへ目を向ける。
「本当に死んでるんですよね?」
外壁の向こうから鳴き声が聞こえ、二人ともそちらを見ると残っていた黒牙魔狼たちが、先ほどまでとは違う動きをしていた。
隊列が崩れている。
数頭が修道院へ向かおうとし、別の数頭は森へ戻ろうとする。ダイアウルフさえ互いに違う方向へ動き、群れとしての統一がなくなっていた。
『統率行動の消失を確認』
「キングウルフがいなくなったから……」
「今なら押し返せます!」
リナはエリシアから手を離し、弓を構え直した。
外庭へ戻ると、トーマたちも状況の変化に気づいていた。
「でかいのはやったのか!」
「はい!キングウルフはもう真っ黒焦げになっています!」
「なら残りを片づけるぞ! あいつら、さっきまでみたいな動きのキレがねえ!」
二体のレッドキャップも足場へ戻り、残った魔狼へ向けて矢を放ち始める。
「ノア、マグマゴーレムはどうなっていますか?」
『生命活動継続。戦闘終了後に修復可能です』
胸の奥に入っていた力が少しだけ抜ける。
キングウルフを失った群れは、もう先ほどまでの脅威ではなかった。とはいえ、一頭一頭が危険な魔獣であることは変わらない。
逃げる個体を無理に森まで追うことはせず、修道院へ向かうものだけを確実に止める。
「左へ二頭いったぞ!!」
リナたちが矢を放つと足場のレッドキャップも同じ個体へ狙いを合わせ、一頭を転倒させる。そこへトーマたちが石壁の後ろから槍代わりの長い木材を突き出し、外庭へ入るのを阻んだ。
そうしているうちにスライムが地面を滑ってエリシアの側へ戻る。身体には泥や草が大量に付いていたが、核は無事らしい。
「よく頑張りましたね」
撫でている場合ではない。そう思ったが、ほんの一度だけ手を触れてから前を見るとダイアウルフが一頭、壊れた外壁へ向かってきた。
「エリシアさん、下がって!」
「大丈夫です。ちょっとだけ聖属性以外の属性のコツも掴んだ気がするんです!」
エリシアは土属性を地面へ流し、相手の足元だけを沈ませて、ダイアウルフが踏ん張ったところへ水を流し、泥になった地面を滑らせる。
「今です!!」
魔法の発動を見届けると同時に二本の矢が続けて突き刺さる。まだ立とうとする相手には、レッドキャップが火矢を重ねて連射していた。
最後まで修道院へ向かってきた黒牙魔狼が全て落とし穴へ落ち、猟師の矢を受けて動かなくなっても、外庭に立っている者のすぐには歓声を上げなかった。
森へ逃げた個体が戻ってこないか
まだ隠れているものがいないか
リナたちは暗い森へ弓を向けたまま、しばらく待った
「ノア。外縁領域は?」
『敵性反応を確認中です』
エリシアも息を整えながら待っているとやがてノアが答えた。
『修道院へ接近する魔物反応なし。領域内に残存している黒牙魔狼およびダイアウルフも、すべて生命反応を失っています』
もし少しでも
「続きが気になる!」
「面白かった!」
と思っていただけたら、
【★★★★★】や【ブックマーク】を押していただけるとめちゃくちゃ励みになります!
それではまた次回!




