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新たな住人

 地上へ戻った頃には、もう午後も遅くなっていた。


 修道院の中にも戦闘の跡が残っている。


 侵入時に壊された扉や踏み荒らされた部屋。外庭には、作業途中だった石材がそのまま積まれていた。エリシアはまず、壊れた場所をゴーレムと一緒に確認した。


「ここは直した方がいいですね。次に誰かが入ってきたとき、玄関から地下まで簡単に来られてしまいます」


『石扉を追加できます』


「普通の扉も残してください。来る人全員が敵とは限りませんから」


『防衛上は石扉のみの方が優秀ですが・・・』


「それじゃあ修道院なのに入口が要塞みたいになってしまいますよ!」


『何か問題がありますか?』


「あります!一応、私は修道院を管理するためにここに来たのですから!守るべき修道院がなくなったら困ります!」


 即答すると、ノアは何も言わなくなった。


 玄関には普通の扉を直し、地下へ続く場所だけ石扉を追加する。外庭から修道院までの道には、必要なときだけ起動できる簡易罠を数ヶ所設置した。


 先ほどの戦闘で実際に罠を使ったことで、どの罠が役立ち、どの位置が危険なのかも分かってきた。


「この落とし穴、もう少し手前の方がよくありませんか?」


『理由を確認します』


「今回の位置だと、相手が地下まで入ってから使うことになります。地上で止められるなら、その方が中の皆が危険になりません」


『合理的です。変更します』


「それから、完全に落とすのではなく足を止める程度にできます?」


『可能です。しかし殺傷力が低下しますが・・・』


「それでお願いします。」


『敵が突破する可能性は上がります』


「必要なら次の罠を使えばいいでしょう?」


 話しながら作業を進めていくうちに、荒れていた庭にも少しずつ形が生まれてきた。


 ゴブリンたちは休ませるつもりだったが、どうしても手伝うと言って聞かなかったため、危険のない範囲で石や木材の整理だけ任せている。


 水色のスライムはまだ地下で休ませ、透明なスライムも途中からフェアリーに連れ戻された。


「フェアリーの方がしっかりしていますね」


『管理者より休息判断が適切な可能性があります』


「私も休んでいますよ」


『本日、戦闘終了後から継続して作業しています。・・・少しでも休んだほうがいいと判断します。』


「……これを直したら休みます」


『・・・先ほども同様の発言を確認しました』


「はいはい。では本当に、これで最後にします」


 玄関横の崩れた石壁へ土属性の魔素を流す。以前より加減の仕方を練習していたおかげもあって魔素を流すことがずっと上手になってきた。


 ノアから”過剰です”と止められることも減っている。


 崩れていた石が動き始め、壁の隙間へゆっくり収まっていったところで、ノアの声が途切れた。エリシアはその変化に気づき、手を止める。


「どうしました?」


『・・・外縁領域の外から、複数の生命反応が接近しています。状況からして敵の可能性が高いです。』


 少し前までなら、その一言だけで身体が強張ったかもしれない。エリシアは魔素の供給を止めると、まず周囲の住人たちを確認した。


「数はわかりますか?」


『既に索敵できているだけでも二十を超えています』


「……多いですね。武装していますか?」


『一部に武器らしき反応があります。・・・ただし、先ほどの侵入者とは移動速度が大きく異なります』


「どう違うのでしょう?」


『・・・非常に遅いのです。しかも集団もまとまっていません』


 エリシアは修道院の門へ向かった。二体のゴブリンが後ろからついて来ようとしたため、手で待つよう伝える。


「まだ誰か分かりません。皆さんは玄関の近くにいてください」


 門まで出ると、森の向こうから人影が見え始めていた。今度も人数は多い。ただ、先ほどの刺客とは明らかに様子が違う。


 先頭を歩く男は棒のようなものを杖代わりにしており、その後ろには肩を貸し合う者たちがいる。荷物を背負った老人らしき姿も見え、小さな子どもを抱えている者まで混じっていた。


「……少なくとも盗賊、ではなさそうですね」


『断定は推奨しません。弱った振りをして襲ってくる算段である可能性もあります。』


「・・・ええ。分かっています。もし敵対するなら今度こそ容赦はしません。」


 エリシアは門の前から動かず、その集団が近づいてくるのを待った。敵ではないと決めつけるつもりはない。だからといって、武器を持っているというだけで追い返すつもりもなかった。数時間前とは違う種類の人々が、同じ修道院を目指して歩いてきているだけの可能性もあるのだから。


 やがてその中から、誰かの掠れた声が聞こえた。


「……人が、いる……お願いこの子をー」


「お、おい!大丈夫か?しっかりしろ!」


 エリシアが返事をするより先に、子どもを抱いた女性の身体が大きく揺れた。その場で倒れそうになる女性を隣の男が慌てて支える。


 エリシアは門へ掛けていた手を離し、表情を変えた。


 今度、この場所へ来た者たちが求めているものは、少なくともエリシアの命ではなさそうだった。

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