洋館にて
お待たせしました、第4話です。
さて、今回から前書きには、本文では説明し切れない様な、それぞれのキャラクターの好物や趣味、より詳しい見た目などの設定を書いていきたいと思います。
という事で第一回目のキャラクターは、本作の主人公である
鷹百奈 花菜 についてです。
名前:鷹百奈 花菜
身体的特徴:髪型はストレートで腰あたりまで伸びているポニーテール。
頭髪の色は境目がはっきりしている典型的なプリンヘア。
目付きはやや鋭く、輪郭はシャープ寄りである。
体付きは健康的で引き締まっている。
服装:動きやすく実用的な物を好む。
好物:革ジャン、ハイボール、肉、酒のツマミ。
苦手な物:イカの塩辛、蜘蛛、ゴキブリ。
趣味:料理、筋トレ。
引き続き楽しんでいただければ幸いです!
閻魔庁を離れたタクシーは、目の前に現れた霧がかった黒い門のような空間を滑り込むように通り抜けた。
直後、歪んでいた空間が一瞬で元に戻る。
車の窓の外に広がっていたのは、静まり返った現世のどこかも分からない深い森の中だった。
生い茂る木々がヘッドライトの光に怪しく浮かび上がり、未舗装の悪路をタイヤが踏み鳴らしていく。
「おい、こんな森の中で生活すんのか?」
不満そうに、花菜が眉間にシワを寄せて声を上げた。明日からの買い出しや生活利便性を考えれば、人里離れたサバイバル環境など御免被りたい。
「花菜さん、森は嫌いなんですか? あ、でもスマホは圏外になってませんし……地図を見る限り都心部ですよ」
助手席に座るふかが、ヘッドセットの位置を直しながら事も無げに振り返った。
「嫌いっていうか、コンビニもないような山奥じゃあ生活が成り立たないだろ。これからの生活基盤を整えなきゃいけねぇの。……おい骸骨、Uターンして最寄りの駅ビルにでも向かえねぇの?」
「んー、無理無理。もう着いたし、てか外出が必要なら俺に言え、どこでも一瞬だぞ?」
ガミーがハンドルを大きく切ると、タクシーのライトが森の開けた広場をパッと照らし出した。
そこにあったのは、大正浪漫の面影を色濃く残す、美しくもどこか不気味な三階建てのレンガ造りの洋館だった。
蔦が這う外壁、夜の闇に静かに佇む漆黒の屋根。一般人なら間違いなく「幽霊屋敷」と呼んで逃げ出すようなロケーションだ。
「はーい、ここが今日から私たちが暮らす現世の拠点であり、記念すべきファースト生配信のスタジオになりまーす!」
ふかがタブレット端末の画面を確認しながらブレーカーを上げると、洋館の玄関に灯されたガス灯風のライトがパチパチと音を立てて暖かな光を灯した。
「……はぁ。お寺の次は洋館ねぇ。まぁ、家賃諸々は閻魔様持ちなんだから、文句は言えないか」
花菜は窓の外を見上げ、これから始まる人外まみれの共同生活に、どこか諦め混じりのため息をつくのだった。
花菜が洋館の玄関を開けると、立派なホールが現れた。薄暗い室内に時計の音が響く。
「結構……雰囲気ありますね……」
ルーシーが少し怯むように言う。
「んー、それよりも……この館って部屋数幾らあるのかな。僕達で使い切れるような広さはしてないと思うけど」
ヒガノが興味深そうに言う。
二人がそんな感想を漏らす中、花菜はホールの壁際にそびえ立つ、自分よりも遥かに大きな古時計を冷ややかな目で見上げていた。文字盤の針は、正しい時間を刻んでいる。
「雰囲気があるっていうか、ただの幽霊屋敷じゃねえか。アタシがガキの頃なら、地元の度胸試しで真っ先に使われてるレベルだよ。……おい、ふか。電気のスイッチはどこだ? 暗くて足元が見えねぇのよ」
「すぐ点けますよ。ちょっと待ってくださいねー」
ふかが暗闇の中壁を伝いスイッチを入れる。
――パチ、パチ、パチ、パチン!
乾いた音とともに、高い天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアに、一斉に暖色系の明かりが灯った。ガス灯を模したデザインの最新式LED電球が、薄暗かったホールを眩いばかりに照らし出す。
「うお、すっげぇ……!」
悪魔のアスベルマが歓声を上げた。
光に照らし出されたのは、色鮮やかなアンティークの絨毯と、磨き上げられた赤レンガの壁。そして二階へと続く優雅な螺旋階段だった。古めかしい見た目とは裏腹に、隅々まで埃ひとつなく掃除が行き届いている。
「あ、見てください! あそこに何か書いてあります!」
ルーシーがホールの正面にある大きな扉を指差した。
そこには、大正浪漫風の看板で『第一スタジオ・兼・居間』と書かれていた。
「よし、とりあえず全員あそこに荷物置け。それからふか、この館のWi-Fiのパスワードを教えろ」
花菜がテキパキと全員に指示を飛ばし始める。
とその時――
「キャアアアァ!」
居間へ続く重厚な扉の向こうから、突然ユウアの切り裂くような悲鳴が響き渡った。
「なんだァ!?」
花菜を筆頭に、一同が急いで居間へと押し入る。
部屋の奥で、幽霊のユウアが大きなベロア調のソファを指さしたまま、腰を抜かしてヘナヘナと震えていた。半透明の身体が、恐怖のあまり激しく波打っている。
「ひ、人がっ……女の子が倒れてますぅ……!」
「は? 不法侵入か?」
花菜たちがユウアの指さした方へと一斉に目を向ける。
ガス灯の光に照らされたワインレッドのソファの上には、見事なレースがあしらわれた、漆黒のゴシックドレスを身に纏った少女が静かに横たわっていた。
美しい黒髪のロングヘアに、陶器のように白い肌。だが、少女はピクリとも動かず、呼吸をしている様子もない。
花菜が確かめようと、躊躇なく一歩踏み込んで少女の細い腕に触れた。
その瞬間、指先から妙な感触が伝わってきた。硬く、冷たい。死後硬直なんてものではなく、まるで大理石か何かの彫刻に触れているかのように、芯からカチカチなのだ。
「んだこれ、ドールか?」
花菜が眉をひそめて手を離すと、その言葉に全員が驚いて少女へと詰め寄った。
「ええっ、お人形なんですか!?」
ルーシーが大きな翼をパタパタさせながら覗き込み、ふかも懐中電灯の光をその顔に当てる。
光に照らし出されたのは、人間の肌とは明らかに違う、陶器の滑らかな光沢だった。見事なまでに作り込まれたゴシックドレスに、精巧なレース、そして本物の人間と見紛うほどに美しい黒髪のロング。しかし、その体は花菜が言った通り、指先一本にいたるまで硬く冷たい球体関節人形そのものだった。
「幽霊のくせに人形見て腰抜かしてんじゃねえよ、ユウア」
花菜がため息をつきながら、涙目で震えているユウアの頭を軽く小突く。
「だ、だってぇ……! あまりにも綺麗で、本物の死体かと思っちゃったんですぅ……!」
「幽霊が死体を見て怯えんなよ……」
花菜が呆れたようにそう呟くそんなやり取りの中、タブレットの画面を睨んでいたふかだけは、冷や汗を流しながらそのドールを凝視していた。
「……おかしいですね。私の物件資料には、このドール……娯楽室のショーケースに飾ってあるものらしいですけど?」
ふかのその言葉に、部屋の空気が一気に凍りついた。
誰もいないはずの洋館。鍵がかかっているはずのショーケース。そこから自ら歩いて居間のソファに移動したとでも言うのだろうか。
「チッ……やっぱ曰く付き物件じゃねえか。あの閻魔マジで一発殴らせろ」
花菜が拳をポキポキと鳴らした、まさにその時。
人形の瞳がパチリと開いた。
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