もう一人の人間
お待たせしました、第3話です。
引き続き楽しんでいただければ幸いです!
総長室にて、閻魔様が思い出したようにポンと手のひらを叩いた。
「あ〜そうそう! 今日はオペレーターの海月ふか(うみつき ふか)ちゃんも呼んでるから、花菜さんは自己紹介宜しくね!」
その名前に、ルーシーが意外そうな顔をして声を上げる。
「えっ? ふかさんも来てらっしゃるんですか?」
「そうだよ〜。ってことでふかちゃん、入ってきていいよ〜」
閻魔様がにこやかに手招きをすると、総長室の重厚なドアが勢いよく開いた。
「はいはーい、どうもでーす! 花菜さん以外は自己紹介とか必要無いと思いますけど……」
入ってきたのは、二十歳前後とおぼしき少女だった。
艶のある黒髪のボブカットに、柔らかいタレ目。全体的にどこにでもいる「普通の女の子」といった安心感のある見た目だが、首には機能性の高そうなヘッドセットが引っ掛かっており、その佇まいには一切の隙がない。
ふかは閻魔様の前だというのに、明るく軽いノリで小さく手を挙げた。そのまま、腕を組んで突っ立っている花菜の前に歩み寄り、親しみやすい笑顔を浮かべる。
「初めまして、鷹百奈花菜さん! 私はこの部隊の通信や情報処理、それから現場の指揮サポートを継続担当しているオペレーターの海月ふかです。まぁ見てのとーり完全な人間枠なんで、これから宜しくお願いします」
「へぇ、若えな……まぁ宜しくな」
「あはは! 直球ですねぇ〜」
ふかは気分を害するどころか、楽しそうにケラケラと笑った。
「これでも現世の政府関係……あ、化け物や曰く付きの変な物とかを管理するちょっと物騒な部署にいたんですけど、そこの経験を買われてこっちにスカウトされたんです。年齢は若いですけど、この人外まみれの部隊を裏から回してもう三年目なので、仕事の効率は保証しますよ? ――あ、でも、戦闘終了後の始末書の山だけはマジで勘弁してほしいので、花菜さんも街の破壊はほどほどにお願いしますね!」
そう言うふかの腰元には、使い込まれたナイフと拳銃が平然と備え付けられている。
「……ふーん。良いじゃん、気に入ったわ」
花菜はふかの上から下までをじろりと眺め、その軽口の裏にある肝の据わり方を感じ取って、不敵に口元を釣り上げた。
「アタシは鷹百奈花菜。よろしくな、有能そうな先輩さんよ」
「はい、 よろしくです!」
人外たちが呆気にとられる中、閻魔大王が再び口を開く。
「流石にこんな大所帯となると……ウチの寮じゃ入らないからさ、現世に拠点を用意するから、君達にはそこでシェアハウスをしてもらいます!」
「え"っ……ちょっと待ってください閻魔様! 私たち人外5人と、人間2人で同居ですか!?」
ルーシーが抗議する。人外と人間が一つ屋根の下で暮らすなど、あまりにもトラブルの予感しかしない。
しかしその横で、幽霊のユウアが少しワクワクした様子で口を開いた。
「ちょっと楽しそうですね……!」
「えっ、ユウアちゃん!?」とルーシーが振り返る。
そんな一同のやり取りを前に、閻魔様はニコニコしながらさらに衝撃の言葉を付け足した。
「あ、それとね、皆には広報として、一部の任務の内容と……そうだね、普段の暮らしを配信してもらおうと思ってるんだ。近年は怪異の存在も隠し通すのが難しいからね、この際公にするに当たって、マスコットヒーローになってもらうよ」
閻魔様はそう言って、満面の笑みで親指を立てた。
――カチン。
総長室の空気が完全に凍りついた。
異種混合の同居生活だけでもキャパオーバーだと言うのに、まさかの「プライベートごと世界に生配信」。あまりに想定外すぎる追加ルールを笑顔でブチ込まれ、一同は言葉を失ってその場で完全にフリーズしたのだった。
「ちょっと待て、プライベートを配信しろってか? 本気で?」
眉間に深いシワを刻み、凄みをまき散らしながら睨む花菜に続き、ふかも大慌てで口を開いた。
「……て言うかいきなりこんな人外生配信したら大騒ぎですよ! マズいって!」
人外の存在が白日の下に晒されれば、ネットも現実も大炎上どころの騒ぎではないだろうと。
しかし、当の閻魔大王は「いやいや! 大大丈夫だって!」と、まるでお気楽なベンチャー企業の社長のようなノリで手をひらひらと振った。
「プライベート全部晒してって訳じゃないし、ちゃんと政府としても説明するからさ! ね!」
「やっぱりヤバいだろこの上司」
花菜がこめかみに青筋を立てて毒づく。だが、ニコニコとした笑顔を崩さない閻魔大王の態度からして、これはもう完全に決定事項のようだった。
「あはは……。どうやら拒否権は最初から無いみたいですね……」
ヒガノがどこか諦めたような苦笑いを浮かべる。
「毎度無茶ぶりすんだよなぁ……閻魔様って」
ガミーが気だるい声を上げ、一足先に総長室を出て行った。
「あっ、ガミーさん待ってください!」
ルーシーが慌てて後を追い、ユウアもヒガノの背中に隠れるようにして部屋を後にする。
「はぁ……。初日からとんでもない転職先を引き当てちまったな、アタシ」
花菜がため息をつくと、隣のふかが「まぁ、家賃と光熱費はタダですし、機材経費も閻魔様が落としてくれるんで、気楽に行きましょ」と、ヘッドセットを首にかけ直しながら元気に微笑んだ。
「ん、じゃあ乗れ乗れ。」
一足先に運転席に戻っていたガミーが急かす。
灯りが灯る朱雀大路を通り抜け、タクシーは再び現実の世界へ――そして、人間コンビと人外たちによる、前代未聞の『シェアハウス生配信生活』が待つ新居へと猛スピードで走り出した。
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