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王子様の姉2

 アズサの企みは呆気なく失敗に終わる。

 失敗した理由はただ一つ、ヤクトの忠誠の深さを見くびっていたことだ。

 アズサに命じられたことを忠実にこなし、自らの主しかヤクトには目に入ってはいなかったのだ。

 アズサはわかっていないが、アルはわかっていた。あの時、自分の従者になることを断っていた時点で自分の抱いている恋情は叶うことはないと。

 だが、直接言葉にして言われなければ期待してしまうのが人と言うもの。

 アルはヤクトに本心から選んだ主が出来るまで片想いをし続けた。

 そしてやっと……、止まっていた心の時間が振られることによって動き出したのだ。振られることを悲しく思わない訳ではないみたいだが、アルはむしろ清々しい気分だった。

 ――やっと期待しなくて済む……。

 そんな気持ちがアルの中では大部分を占めていた。恋を知れたことだけ、彼女は幸運だったと思えるくらい、強かな女性であり、強か過ぎて不器用過ぎていてそして聡明な方だった。

 だからこそ、アルはこの国を出るためにもお見合いをすることを選んだ。

 ……側にいればまた、ヤクトのことを想い続けてしまうとわかっているからこそ、したくもないお見合いをすることをアルは自分の意志でそう選択した。

「……本当に好きだったのよ? でも、本当はわかってた。この恋は私の片想いで終わる恋なんだって」

 その言葉を言い、涙を流すことなくアルは雪豹のぬいぐるみを抱きしめた。


 それから一ヶ月後。

 アルは隣国へと嫁いでいった。お別れの仕方は相変わらず、笑いながらアズサを追いかけ回し、最後には笑ってこの国を出ていってしまった。

 ヤクトは相変わらず、アルの気持ちには気づくことなく、自分の主を護ることしか考えていなかった。

 アルにとっては思わせ振りな態度をとられるよりはマシだろうとアズサは思い、姉である彼女の気持ちはヤクトには話さないと決意し、冷や汗を掻きながらも笑顔で見送った。

 その十年後、アルが女王として仕切り、政治をしていくなどアズサ達には想像出来ないことである。

 それを唯一知っているのはアルでもなく、……アースだけ。


「姉上はちゃんと良い選択をしたんだな。このまま城にいれば、アズサへの嫉妬心で狂い、暗殺しようとするが運が悪いことに想い人であるヤクトに見つかって失敗し、一生牢獄で生きる運命となっていた。良かった、血縁が間違った選択をしたくて本当に良かった。これで一つ、死んだ後に悔いることは減った」


 城内の外へと出ることなく、自室からアルの見送りをするアース。

 その会話を聞くのはただ一人ゼンだけ。

 そんなゼンの知らない間に、アースの身体は強い予知の力によって蝕むように痛めつけられていた。

 序章に過ぎないこの出来事を静かに眺めながら、アースは静かに刻々と近づいてくる死期を受け入れていた。

 それと同じ時刻、相変わらずぬいぐるみに囲まれながらアズサは黙々とぬいぐるみを作っている中、ヤクトだけは何かを感じ取ったように険しい表情をしていたのだった……。



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