第十四区画①
青空市での出来事から数日後。
アマギ屋の朝は、いつもと変わらぬ静けさの中で始まった。
めいはいつものように、机に向かって業務を進めようとしていた。
そのとき、蔵が椅子に置きっぱなしにしていた配達具から、古びた伝票が一枚落ちた。
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「開拓村・第十四区画 雨滴・規格外×2(済)」
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めいは、ひび割れた荒れ地と、井戸端に雨瓶を置く蔵の姿を思い出した。
(あの開拓村。蔵は「売り物にならない規格外の雨を処分しただけ」って言っていたけれど……どうして、あそこまで雨が降らないの? あの地域は、本来なら……)
めいは工房の本棚に向かい、統括府発行の分厚い『広域気象配分原簿』を両手で引き下ろした。
机の上にドサッと置き、表紙を開く。
(……調べてみよう。あそこの正規の配分はどうなっているのか)
「数字は嘘をつかない。これを見れば、大地の水がどこへ消えたのかわかるはず……! 探してみよう」
無数の行政区画と数字が並ぶページを、めいは一つずつ追っていった。
そして、ついに目的の行を見つけた。
「開拓村……第十四区画……あった!」
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【第十四区画(開拓村・旧名:陽だまりの丘周辺開拓地)】
降雨申請枠:『0(需要なし・無人指定区)』
備考:『近隣都市の排熱晴天バイパス路に設定。余剰熱気の集積対象区域』
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「……な……需要なし……!? 無人指定区……!?」
めいは思わず声を上げた。
「そんなはずない……! おじいちゃんが残した旧水文図には、ちゃんと地下水脈も農地も記されている……!」
めいは棚から祖父の遺した古い地形図を取り出し、原簿の記載と照らし合わせた。
地形図には豊かな水脈と農地が描かれ、そこに暮らす人々の営みも確かに記されていた。
「現に、あそこには人が住んでいて、トウモロコシ畑だってあったのに……! 役所の書類の上では……この村の存在そのものが、最初から『消されている』……!?」
めいは身震いした。
大都市の繁栄と快晴を守るために熱気を押しつけられ、村は『申請却下』『登録抹消』という冷酷な印判によって、最初から存在しなかったことにされていた。
目の前の記録が、その事実を突きつけていた。
「それに、この変更がなされた日付……『帝国歴345年』? これって……」
めいはペンを走らせてメモを取りながら、帳簿の端に記された変更履歴に目を留めた。
そこに刻まれていたのは、めい自身の過去とも結びつく運命の年号だった。
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ちょうどそのとき、工房の木の扉が開いた。
配達袋を肩にかけた蔵が戻ってくる。
「戻ったぞ、めい。何やってんだ、朝っぱらから机いっぱいに本を広げて」
「蔵、これを見て! あなたが雨を届けていた第十四区画。帳簿上では『需要なし』『無人区』扱いになっているの! 登録さえ訂正できれば、正規の降雨配分を受けられるはずよ。統括府に訂正申請を出せば――」
めいが帳簿を差し出すと、蔵はその前に立ち、伸ばされた手を遮るように帳簿を閉じた。
「無駄だ。申請なんて出しても、受理されない」
「え? どうして……」
「お役所仕事の記載ミスなんかじゃない。あの村は、最初から『なかったこと』にされているんだ」
散らかった机を挟み、二人は向き合った。
めいは服の上から拳を握りしめた。それでも怯むことなく、真っ直ぐな瞳で蔵を見据える。
「一緒に行きましょう、蔵。わたし、この目で確かめたい。あの大地で、本当に何が起きているのかを」
「わかった」
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数時間後。
アマギ屋を出た二人は、再び乾ききった第十四区画へと足を踏み入れていた。
「……すごい日差し……。風も熱気を含んでいて、肌がヒリつくわ……」
めいの手元で、真鍮製の携帯晴雨計が激しく震えていた。
針は1050hPaを指している。
地上気圧としては異常な高さだ。
「こんな不自然な高気圧、自然界じゃありえないんだけど!」
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ほどなくして、二人はあの開拓村にたどり着いた。
深く口を開けた地面の亀裂。
枯れて垂れ下がるトウモロコシ。
乾ききった用水路から、わずかに残った泥をすくい上げようとする村人たち。
目の前には、目をそむけたくなるほど痛ましい光景が広がっていた。
めいは熱を帯びたひび割れの土に膝をついた。
怒りと悲しみで、握りしめた手が震える。
その背後から、杖をついた村の長老が、枯れ井戸のそばへゆっくりと姿を現した。
「おや、旅のお方かい……」
「じいさん……?」




