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第1章:手術前診察

乃雅は清太郎が待つ診察室へ向かった。

清太郎は白衣を身につけ、その表情は昨日の穏やかなものとは打って変わって、研ぎ澄まされた職人のようだった。

「乃雅様、手術前の最終確認をさせていただきます」

静かな声に促され、乃雅は診察台に上がった。

 深い闇の中、乃雅は一人、硬い寝台に横たわっていた。

着物も帯も剥ぎ取られ、全身を覆うのは、肌を撫でるひんやりとした空気だけ。

裸になった身体の奥底から、どうしようもない不安がこみ上げてくる。

明日には、この身体が生まれ変わるのだ。


清太郎は乃雅の身体を隅々まで丁寧に確認し、手術部位に印をつけていく。

その指先が触れるたびに、乃雅の身体は震え、心臓の鼓動が早くなった。

それは、長年抱き続けてきた願いであると同時に、経験したことのない恐怖でもあった。



「最後に、いつもの舞を舞っていただけますか」

清太郎の言葉に、乃雅ははっと顔を上げた。


この「舞」は、乃雅が日頃、自身の女性性を表現するために踊っていたもので、清太郎はその舞の中に「おひし」の曲がりがないか、つまり性別違和がないかを確認していたのだ。

乃雅は、不安と恐怖を必死に押し殺し、舞を舞い始めた。

流れるような身のこなし、指先まで神経の行き届いた所作。

だが、清太郎は乃雅の舞をじっと見つめ、静かに首を振った。

「やはり、まだ『お菱』が少し曲がっていますね」

乃雅は舞を止め、清太郎の顔を見つめた。清太郎は乃雅に微笑みかけ、こう言った。

「ご安心ください。

明日の手術で、その曲がりは完全に消え去ります。

あなたは、心と身体が一つになった、真の女性として生まれ変わるのです」

その言葉は、乃雅の心に深く響いた。

それは、単なる慰めの言葉ではなかった。

清太郎自身も同じ道を歩んだ者として、乃雅の抱える苦悩を理解し、その未来に希望を与える、力強い言葉だった。

乃雅は清太郎に深く頭を下げ、静かに診察室を後にした。

その夜、乃雅は眠れなかった。

明日の手術への期待と、未知の世界への不安が、心の中で嵐のように渦巻いていた。

しかし、その渦の中心には、清太郎の「真の女性として生まれ変わる」という言葉が、確固たる希望の光を放っていた。

乃雅は、その光を信じ、静かに夜明けを待った。


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