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第2章:麻酔導入(通仙散)

静寂に包まれた手術室に、清太郎と麻酔医の秘斎ひさいが入ってきた。

秘斎は、白く長い髭を蓄えた、すでに80歳を過ぎた老人だった。

しかし、その眼光は鋭く、かつて「通仙散の魔術師」と呼ばれただけの威厳を放っていた。

彼は、長年、清太郎の師匠として、そしてパートナーとして、数えきれないほどの「特別な」手術を共にしてきた。

「乃雅様、ご安心ください。

これより、通仙散つうせんさんを用いて、貴方を深い眠りへと誘います」


秘斎は穏やかな声で乃雅に語りかけた。

通仙散は、華岡青洲の麻酔薬として名高いが、秘斎はそれを独自の配合で改良し、より安全かつ効果的な麻酔法を確立していた。

乃雅は、秘斎の顔を見つめ、小さく頷いた。その瞳には、不安よりも、この先の人生への期待が宿っていた。

秘斎は、乃雅に薬を飲ませると、静かに瞑想に入った。

薬の効果が全身に広がり、乃雅の意識は次第に遠のいていく。感覚が薄れ、重力から解放されていくような浮遊感。乃雅は、まるで暖かい水の中に沈んでいくかのように、ゆっくりと深い眠りへと落ちていった。

しばらくして、秘斎は静かに目を開け、清太郎に向かって頷いた。

「麻酔、完了です」

その一言は、清太郎にとって、何よりも信頼のおける合図だった。清太郎は、秘斎の老いてなお衰えない技術に、深い敬意を抱いている。そして、この手術を最後に、秘斎が引退し、そのすべてを自身に引き継ぐことを改めて実感した。

「先生、ありがとうございます」

清太郎は静かに礼を述べると、メスを手に取った。乃雅の身体は、すでに意識のないただの肉塊ではない。

それは、これから清太郎の手によって、新たな人生を与えられる、神聖な存在なのだ。

清太郎は、そのことを深く心に刻み、手術の始まりを告げる最初の線を入れる準備を始めた。


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