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第9話 未来にもある矛盾

「ところで、君達はどのような理由で帝都に向かうんだい?」

「冒険者訓練校に入学するためです」

「冒険者か。中々厳しい職業を選んだね」

「親や兄弟にも反対されましたが、やっぱり自分のなりたいものになろうと思って」

「あまり無理な依頼は受けないようにね、命は一つしかないから」

「はい、ありがとうございます。ところで、エリーさんは文字が読めますか?」

「まあ、商人訓練校に入れば、読み書きは勉強するから商人は大体読めるよ」

「では、これは何と書いてありますか?」

 俺は自分の身分証を見せた。

「これは、身分証だね。こっちに『アルディ・モーディスター』君の名だね、そしてその上にあるのが、君の認識番号で『6206-2239-7715-0954-1088』だ」

 思ったとおりのようだ。

「エリーさん、もし、メモ用紙と筆記具を持っていれば貸して貰えませんか?」

「メモ用紙と筆記具は持っているが、そんなのこの何年と使った事ないね。ちょっと、待ってて」

 そう言うとエリーさんは自分の荷物の中を探し出した。

「あった。これだ」

 エリーさんはノートとボールペンのような物を出す。

「何年も使ってないから書けるかな」

 そう言うと、ノートにボールペンを走らせると問題無く書けた。

「すみません、先程の名前と認識番号をもう一度読んで貰って良いですか。それと今から書くこの用紙を貰っても良いですか?」

「そのノートと筆記具は、僕はもう使わないとから君にあげるよ。買ってもそんなに高いものじゃないからね」

「良いんですか。ありがとうございます」

「では、読むよ」

 エリーさんが読み上げる自分の名前と認識番号を俺はカタカナと数字で貰ったノートに書いた。

「不思議な文字だな。それはどこで習ったんだい?」

「独学です。言葉の中から自分で文字にしてみました」

「ほう、自分で。それは賢い」

「エリーさん、もっと教えて貰っても良いですか? 何故、帝国は一般庶民に文字を教えないのでしょうか?」

 それを聴いたエリーは顔を顰めた。

「その答えは、この場で話せない。もし良ければ、僕の部屋で話そう」

 俺は隣に居たマーガレットに声を掛ける。

「マーガレットさん、そういう事なので、一旦失礼したいんだけど」

「私も聴きたいです。私も一緒に行って良いでしょうか?」

 結局、二人でエリーさんの部屋に行く事になった。

 3人でエレベータの所に行くと、直ぐに扉が開いた。そんなに多くは無いエレベータなのに待つと言う事がないのに俺は驚く。

「エレベータを待つ必要がないなんて」

 思わず疑問に思った事が口に出る。

「君はエレベータを知っているのか?」

 そう言えば、ヘーデルランド星に居る時にエレベータに乗った事はない。俺はうっかり前世の記憶を喋っていたのだ。

「姉が男爵邸で働いていて、その姉から聴いたんです」

「そうか、確かに男爵邸にならエレベータがあるからな」

「ええ、私も男爵邸で働いていたので、知っています。最初見た時はびっくりしました」

 マーガレットが助け船を出してくれた。

「しかし、エレベータを待つなんて言うのは初めて聴いた。エレベータを待つなんて2000年以上も昔の事だからね。

 今のエレベータはセラミックエレベータで、待つなんて事はないのさ」

 この時代のエレベータは箱が上下するものではないらしい。エリーさんの説明では乗っているのは強化セラミック板であり、それがリニアモーターで上下し、上に到着したら板だけが別ルートで下側に降りてくるらしい。

 下がる方はその逆だ。

「ですが、上がる場合はそれで良いですが、下がる場合は板が来るまで待つ必要があるのでは?」

 それはエレベータ前に取り付けられたカメラで監視していて、人の姿が見えたら、近くにある板を持ってくるのさ。これらは全てAIで管制制御されている」

「お詳しいですね」

「まあ、商人だから、ある程度の商品知識はないとね」

 エレベータ内に入るとエリーさんは31階のボタンを押した。先程、俺とマーガレットが入ろうとしていたエリアだ。

「さっき入れなかったエリアだ」

「失礼だが、君達は3等客室だろう。30階以上は1等客室なんだ」

 エリーさんが言うには、この船は3等が最下位で上にいくほど2等、1等、スーペリア、ロイヤルとあるらしい。

 ロイヤルは貴族や大商人が使う部屋らしい。

「3等には通信環境が無いからアームデバイスも使えないしね」

 乗船時にアームデバイスも返したから、通信環境があっても仕方ないけど。

 エリーさんに案内されて部屋に入ると、そこには近代的なエアロパイロットがあった。

「エアロパイロットがある」

「ああ、2等以上はエアロパイロットが持ち込めるんだ」

 なんだか惨めな気分になってきた。

 俺たちがエリーさんの部屋に入ると、扉が自動で閉まる。思えば、3等客室は扉だって手動だ。

「それで、何故文字が無いかだったね」

 エリーさんは扉が閉まったのを確認して、そう言って来た。

「それは庶民を管理し易い様にさ」

「えっ、それはどういう事ですか?」

「文字があると待遇に不満を持った一般庶民が反乱を起し、領主を殺害することがあるからね。それが拡大すると、帝国の存亡にもつながる。

 そうならない為に、帝国は一般庶民に文字の習得を禁じたのさ」

「でも俺はヘーデルランド領の農家の息子ですが、生活に不満を持った事はありませんよ。だから反乱なんて考えられません」

「君の過ごしていた生活は、実は2000年前とほとんど変わっていないんだ。帝都に行って一般家庭を見てみると良い。

 そこではメイドアンドロイドが働き、優れたAIエアロパイロット、オートミール、睡眠カプセル、全自動洗濯機、ウォッシュバス、今まで見た事が無い物ばかりだぞ」

「うちにも全自動洗濯機はありましたよ。洗濯物を入れてボタンを押すだけで、乾燥までしてくれます」

「いやいや、全自動洗濯機ってそういう物じゃないんだ。全自動洗濯機に入れておくと、パッキングまでしてくれるんだ」

 洗濯物を畳むまではやってくれなかったから、自動で畳んでくれる機能がついていると思えば良いのか。

「確かに畳むのまでは出来ませんでしたね」

「畳むだけじゃない。ちゃんと袋に入れて、クローゼトに収納してくれるんだ」

 どうやら、俺が考えていたものより発達しているようだ。

 後から聴いたのは、食事は自分達で作らず、アームデバイスから注文すると、出来た料理が配達されて来るらしい。

 つまり、回転寿司のベルトコンベアがセントラルキッチンと繋がっているようなもので、それをオートミールと言うらしい。

 睡眠カプセルはベッドがカプセルになっており、睡眠が管理されており、不眠症などというものはない。

 ウォッシュバスは、人間洗濯機と思って良いだろう。シャワーから乾燥までしてくれるものだ。

「少なくとも君が不満を持っていないとすると、帝国のガス抜きは成功していると言う事だ」

「でも、アームデバイスやエアロパイロットも供与されてしましたし・・・」

「それがガス抜きなのさ。文字が無い分、アームデバイスで情報を提供する。考えてもみたまえ、その情報は誰が提供するのか。

 その情報は男爵邸にあるサーバからだ。自分に都合の良い情報しか提供しないのは当たり前だろう。

 それとエアロパイロットは、生産性の向上には必要な物だ。あれがないと少人数で生産性を上げる事は出来ない。

 そうなると困るのは男爵自身だ。最低限のツールは提供しなきゃならんさ」

「でも、エレメンタリースクールとかもありましたし」

「いくら文字を禁止しても、それなりの教育を受けさせないと。そして、その教育も自分達に都合の良いようにしてね」

 その話を聴いて、今まで納得できていなかった事が不思議と納得出来た。

 それは前世でも同じような国があったからだ。為政者は自分の都合の良い用に子供を教育し、情報を制限する。その子供は大人になっても自分達の生活は普通だと思っているが、実態はかなり遅れており圧政されているというものだ。

 そして、いつか生産性が追いつかなくなって、国民が飢える事になると反乱が生じ、国が滅亡する。


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