第57話 シュリーの家族は大家族
家に帰ると母が一人、リビングに居た。
「あら、もう帰ったの?」
その母の言葉に、姉がミジン湖での外来魚討伐の話を身振り手振りで話す。
「アルディ、あのクエストっていくらの報奨金が貰えるのよ?」
姉はお金の事が気になるようだ。
「えーと、ヘーデルランド金貨3枚」
「えー、金貨3枚も」
ヘーデルランド金貨1枚は日本円にすると100万円位なので、報奨金は300万円といったところだろう。
「それって、同行した私にも支払われるのかな?」
「姉さんは冒険者登録してないから支払われない」
「えっー、がっかり」
しかし、皆で話し合った結果、結婚のご祝儀として金貨1枚を渡す事にした。
そして、この話は仕事から帰ってきた父、兄そしてマイクにも姉が手振り身振りで話した。
3日目の朝、朝食を食べるとまた仕事に戻って行く事になる。
玄関のところでは、両親と姉、兄、姉の婚約者マイクが見送ってくれた。
「アルディ、仕事が忙しいと思うけど、たまには帰ってきてね」
母の気持ちとしてはそうだろう。
「リゼルロッテさん、イリューシャさん、シュリーさんはもう我が家の娘だ。いつでも来て良いんだよ」
父は嫁達の方が俺より良いのかもしれない。
アームデバイスで呼んだエアロビークルが自宅の前に来た。俺の家族に手を振る嫁達と俺は、エアロビークルに乗って地上宇宙港に向かう。
そこで出国手続きをしたら、預けてあったスペースコミューターに乗って宇宙商船フォルテウス号に向かった。
艦橋に入るとベッチ艦長が出迎えてくれた。
「アルディ君、リフレッシュできたかね?」
「はい、久しぶりに両親や兄弟に逢えました。3日間の休暇のご配慮ありがとうございました」
俺がそう言うと、ベッチ艦長は顔を綻ばせた。
「では、イチニマルマル時を持って出港する。各自準備を怠らぬように。
それと、帝国へは乗客も居るので、お客様にも配慮するようアテンダントにも連絡」
艦長の指示が伝わると艦橋が一層慌ただしくなった。
「出港15分前になりました」
「乗客名簿をアテンダントに確認し、問題無ければボーディングブリッジの切り離し指示を出せ」
「アテンダントから連絡。乗客名簿と照合し、全員乗船済です。ボーディングブリッジ切り離し指示を出します」
艦橋の窓からボーディングブリッジが切り離され、宇宙港に収納されていくのが見える。
「ボーデングブリッジ切り離されました。出港オールグリーンです」
「抜錨。係留解除」
「抜錨。係留解除。ボラードから固定アンカー解除します」
「サイドスラスター起動、離岸する。1500メル(1500m)で船首回頭し、港を出る」
サイドスラスターが起動されたのか、宇宙港がどんどん遠ざかって行く。
「船首回頭します」
船が180度回頭し出した。
艦橋から今まで見えていた宇宙港が消え、真っ暗な宇宙空間が広がった。
「回頭完了」
「微速前進」
「微速前進、ヨーソロー」
右手に赤い灯台、左手に白い灯台が通り過ぎ、港を出たのが分かった。後方には赤い船体のレッドリリィ号が護衛の任務でついて来ている。
「25,000宇宙ノットで宇宙港から離れる。距離100,000キル(100,000km)で速度150,000宇宙ノットでワープエリアに向かう」
「レッドリリィから同期運行信号来ました」
「レッドリリィ号と同期運行開始」
「エルフレッドランド到着時間2日後の08:00」
2日後8:00俺たちはエルフレッドランド星の宇宙港に接岸した。
「ボーディングブリッジを接続開始」
ボーディングブリッジが接続されたら、下船して行く人がボーディングブリッジを渡り始めた。
エルフレッドランドの外宇宙港には軌道エレベータがあるので、軌道エレベータを使って地上に降りる。
前回は下船しなかったので、俺にとっては初めてのエルフレッドランドだ。
地上宇宙港で入国審査を行い、領都中央駅に向かった。
そこからチューブリニアトレインに乗り1000キル(1000km)離れた「カールンギ」という街に向かう。
チューブリニアトレインは、チューブの中を走るリニアモーターカーだ。チューブの中を真空にしてあるため、空気抵抗を受けないので、高速で走る事が可能だ。
何故、この「カールンギ」という街に来たかと言うと、それはシュリーの両親に挨拶するためだ。
「あー、なんか緊張する」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
シュリーはそう言うが、お嬢さんを僕に下さいと言った途端、殴られたらどうしようかと思ってしまう。
「まもなく列車はカールンギに到着致します。お降りの方はご準備をお願いします」
車内にアナウンスが流れた。
1000キル(1000km)離れているのに、1時間ほどしか時間は掛かっていない。かなりの高速で走っているのが分かる。
降車するとかなり木材を使用した駅で、この星の資源が木材である事を実感する。
「ここからはどうやって行くんだ?」
シュリーに聴くとエアロビークルで行くらしい。
普通駅前だとビルが聳え立っていると思ったが、この駅前にあったのは大木だらけだった。
その中をエアロビークルが走って行くが、大木がどこまでも続いているだけで、建物はない。
そのうち、1本の大木の前でエアロビークルが停まったが、どこにも家が無い。
「シュリー、家が無いが・・・」
俺が言うとリゼルロッテとイリューシャも同じように不思議に感じている。
「家はここです」
シュリーは大木を指差す。
「この木が家だと言うのか?」
「はい、お待ち下さい」
シュリーが大木の幹を叩くと、あら不思議、その木に扉が現れ、内側に開いた。
よく見ると扉になっているのが分かるが、ちょっと見ただけでは、ここに扉がある事も分からない。
「シェリーじゃない」
中から顔を出したのは、シェリーに良く似た美人5エルフだった。
「そちらの方は?」
「私の旦那さま、私結婚したの」
「ええっ、そんな事一言も言ってなかったじゃない。どうしてそんな事に。それに冒険者『紅い百合』はどうしたの?」
「ここでは何だから中で説明しても良いかな。皆にも挨拶したいし」
「そ、そうね。では、中に入って頂戴」
俺達は大木の中に入った。
「失礼します」
中に入るとそこは大きなリビングで丸いテーブルが中央にあり、その周りに大人や子供が並んでいた。
「シュリーじゃないか、そちらの方は?」
テーブルに座っている人の中で一番の年長者と思われる人が尋ねて来た。
「お父さん、私の旦那様と奥様達」
「シュリー、お前結婚したのか?」
「そうよ、私の旦那様で『アルディ・モーディスター』という人族の人」
「シュリーの夫の『アルディ・モーディスター』です。よろしくお願いします」
そして、シュリーが順にリゼルロッテとイリューシャを紹介するが、最後にチェルシーになった時だ。
「最後がヒューマノイドの『チェルシー』」
「シュリーさん、酷いです。私だけ、婦人として紹介してくれないなんて」
「えっ、ごめんね。でも、チェルシーって、ヒューマノイドで婦人じゃないでしょう」
「来年には第四婦人になります。うさぎや人魚やエルフが婦人になれるのに、どうしてヒューマノイドが婦人になれないのですか? これは差別です」
「チェルシー、話が拗れるから、ちょっと黙っておいてくれ」
「ご主人様、拝承いたしました」
俺が命令したので、チェルシーが静かになった。
「改めまして、シュリーの夫のアルディです。今回、私がここに来たのはシュリーとの結婚に際して、改めてご挨拶するためです。
シュリーの夫として、今後ともよろしくお願い致します」
「これはこれは、大変ご丁寧にありがとうこざいます。私はシュリーの父の『ジェイノルド』です。こっちはシュリーの母の『フユー』になります」
両親を紹介されたが、それ以外にも12人がこの場に居る。
この場だけ見れば、何か親戚が集まってパーティをしていたようにも見える。
子供も6人いるので、何かの集まりのようだ。
「あのう、こちらの方々は?」
きっと親戚なのだろう。
「私の隣に居るのが、弟の『マック』、妹の『ナンシー』、末弟の『ミッシェル』でフユーの隣に居るのがフユーの弟の『ハリー』、フユーの妹『アリッサ』、フユーの末弟『マンフレッド』になる」
「今日はご兄弟が集まってパーティでしょうか?」
「いや、我々は全員結婚しているよ」
「は? はぁ?」
俺が困惑しているとシュリーが教えてくれた。
「アルディ、エルフって、結婚は兄弟婚なの?」
「えっ? 兄弟婚って?」
「長男と長女が結婚したら、その兄弟全員と結婚するの」
「えっー!」
俺達が驚いていると、続けてシュリーが話してくれた。
「昔、エルフ族で結婚する人が少なくなって、独身が増えてきたの。そして、少子高齢化が進んで、子供が少なくなったのね。そうしたら、その時の領主が兄弟婚っていうのを提唱して、それ以来エルフ族は兄弟婚になったの」
「でも、他に好きな人がいたらどうするの?」
「そうしたら、その人と結婚すれば良いから別に問題はないの」
「そ、そういうもんかな?」
「エルフ族だけの習慣かもしれないけど」
俺は前世の知識で少子高齢化問題があったから、このような解決策もあるのかと思った。
もう一つ疑問がある。それはこの家だ。このリビングは広いが、それでもこの数全員がここで寝起き出来るとは思えない。
それについてシュリーに聴いてみた。
「この家族でこのリビングだと狭くないか?」
「2階、3階ってあるから問題ないの」
どういう事かと詳しく聴いてみると、この木は樹齢1000年程の木で成長するに従って中が空洞化する木だと言うのだ。
その空洞化された中を整備して生活しているらしい。そして、現在もこの木は成長途中だと言う事だ。
そして、2階、3階の事だが、この木はある程度大きくなると竹のように節ができると言う。
その節が2階、3階となり、リビングの裏側の階段で登る事が出来る。
エルフ族は長年このような生活をしてきたので、森の守り人と言われているようだ。
主要産業は林業だが、農業や漁業なども盛んらしい。
このような話を聴くと、その星その星独自の生活方式があって面白い。反対に自分達の価値感から、例えば兄弟婚はダメだとかを押し付けるのは、いかがなものかと思ってしまう。
このような婚姻を結ぶ関係だから、シュリーが第三婦人という話をしても「あっ、そう」で済んでしまった。
俺達はその後、海賊退治の話をしたが、ヘルデス海賊団退治の話はこの星にも広く伝わっており、大変驚かれた。
シュリーの家は既に泊まるスペースが無かったため、俺たちは夕方のチューブリニアトレインで、領都に戻ってきて、ホテルに宿泊する事にした。




