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第49話 水惑星の戦い

 シュリーから調査結果の報告を受けたのは、出港前の「レッドリリィ」の艦内だった。

「例の水の惑星について調べたわ。

 その結果、太陽に向いている面の水温は32度C、太陽による熱で蒸気が発生し、海上では水蒸気で見晴らしは悪く、暴風雨も発生する」

「暴風雨? 大気は無いのだろう?」

 暴風雨は大気があって初めて発生する。

「いえ、大気があるの。長年の太陽からの紫外線とガンマ線による化学分解で水素と酸素が発生してそれが大気になっているわ。

 水素が66.6%、酸素は33.3%ね」

「つまり、水素と酸素の大気があり、嵐もあるって事か?」

「そういう事」

「それで水の成分は?」

「完全な真水ね。それから、惑星の裏側だけど、こっちは完全な氷の世界よ。昼間は太陽熱で氷が解けて水になるけど、夜は太陽光がないから-273度Cの世界で一瞬にして氷になるわ。

 そして夜の世界では水素や酸素も液体になるので、惑星の裏側では水素と酸素の液体の雨が降るわ」

「もし、その雨に触れたら?」

「一瞬にして氷漬けになるわ」

「そして、太陽に照らされると、その水素と酸素の液体は大気に戻る訳か?」

「そういう事になるわね」

「そうなると、海賊団は水のある側に居ると考えた方が良いな」

「と、いうより、水の有る側しか生存できないわ。船外作業とか出来ないもの」

 シュリーの報告で作戦が決まった。その場に居るレッドリリィの幹部にも作戦を説明する。


 シュリーとの話が終わったところに艦内放送が入った。

「これより『レッドリリィ』号は出港する。ボーディングブリッジ切り離し、係留解除せよ」

 どうやら出港のようだ。窓の外を見ると商船「フォルテウス」号からもボーディングブリッジが切り離され、係留解除されている。

「作戦通り行くと良いですね」

 艦橋でキャロットリーダーに言う。

「アルディ殿が居れば大船に乗った気分だよ」

「レッドリリィ号は大船ですか?」

「大船は君だろう」

「港を出ます」

 航海士が言う。

 右舷に赤い灯台、左舷に白い灯台が見え、それらは直ぐに後方に流れて行った。

「ワープエリアまではフォルテウス号と同期航行を行う。当艦操縦をフォルテウス号に移譲」

 通信士が「フォルテウス」号の艦橋と連絡を取っている。

「フォルテウス号と操縦を同期します。カップリング」

 その瞬間、航海士が操縦桿から手を離した。これで「フォルテウス」号の操縦でこちらの「レッドリリィ」号も同じように操縦が可能だ。


 それから、2度のワープを行い、次のワープでカイマー海峡出口のエリアに到着するという場所に来た。

「それではエリーさん、作戦通りよろしくお願いします」

「了解です。これから短距離ワープに入ります」

 エリーさんの声が通信回線から聴こえた直後、「フォルテウス」号がワープして行った。

「では、こちらも作戦通り行動しましょう。シュリー頼むぞ」

「了解、ワープ座標を送ります」

 シュリーが解析したワープ座標が航海士に送られた。

「指定座標にワープします。ワープイン」

 窓の外が真っ暗になり、ワープした事を体感する。

 そして、窓の外に光が戻った瞬間、目の前に大きな岩があった。隕石裏にワープしたのは海賊団のレーダーの死角になるからだ。

「シュリー近すぎじゃないか。岩とはいえ、引力に引き寄せられるんじゃないか?」

「この岩は溶岩が噴き出た後の岩のようで、言わば軽石のようなものだから、引力は少なくて引き寄せられる事はないわ」

 シュリーは、そこまで調べていたのか。

 確かに、岩といっても所々穴があり、中には「レッドリリィ」号が丸々入るぐらいの穴もある。

「では、行ってきます」

 キャロットリーダーに挨拶する。

「よろしく頼む。この作戦はアルディ殿達の奮闘に掛かっているからな」

 俺たちは格納庫に行き、アクアマリンに乗り込んだ。

 このアクアマリンはレーダーに感知されないようにステルス塗装したもので、海賊退治のため、わざわざエリーさんに塗装をお願いしたものだ。

「艦橋、聴こえますか? こちらはアクアマリン。射出準備OKです」

「そちらに射出コントロールを渡す」

「コントロール確認、アクアマリン発進!」

 リニアカタパルトが作動し、アクアマリンが宇宙空間に飛び出す。

「イリューシャ、今回の作戦はお前に掛かっている。頼むぞ」

「ご主人様のお役に立てて嬉しいです。一つお願いがあるのですが」

「何だ? 言ってみろ」

「今夜、戻ったら、私から抱いて下さい」

 俺はリゼルロッテを見た。すると、リゼルロッテは頷いている。

「分かった、イリューシャがうまくやったら、今夜はお前から抱こう」

 俺がそう言うと、イリューシャが嬉しそうに笑った。


 海賊側:

「浮遊灯台の次元重力レーダーが重力歪をキャッチ、商船規模の宇宙艦がワープアウトしてきます」

「よし、鴨が来たぞ。てめえら出港だ」

「「「「おおっ!」」」」

 水惑星から海賊船11艦が出港した。


「商船確認しました。フォルテウス号と確認出来ました」

「何、そいつは俺達の別動隊を撃沈してくれた時に居た船じゃないか。そうなると、ただで帰す訳にはいかねーな」

「フォルテウス号停止しました」

「こっちが海賊と言う事はレーダーで判別したらしいな。エネルギー補充して逃げるつもりじゃないか。

 しかし、ワープ後の商船のエネルギー補充は6時間かかる。今からエネルギー補充して逃げようと思っても遅いわ。よし、突っ込め」

「「「「おおっ!」」」」

 海賊船11艦が商船フォルテウス号目指して突進して行く。


 フォルテウス号艦橋:

「艦長、海賊船が突っ込んで来ます」

「よし、逃げるぞ。我々は手前50光年の所でエネルギー補充はしてある。今回は50光年ワープしただけだ。だからエネルギーはまだ残っている。

 エネルギー残量を報告せよ」

 ベッチ艦長の声が艦橋に響く。

「95%以上あります」

「よし、400光年後退する。それで、海賊船は追撃出来ないはずだ」

「ワープイン、400光年後退します」

「フォルテウス」号がワープで後退した。


 海賊側:

「フォルテウス号がワープしました」

「何を言ってる。ヤツらはワープ終了後でエネルギー補充が必要なハズだろう。何故、ワープできるんだ?」

「分かりません、しかし、ワープしたのは事実です。どうしますか? 追いますか?」

「いや、何処にワープしたか分からん。300光年以上ワープされたら我々の船では追いきれん。

 それに、ここを通らなれば帝国王都には行けん。また来るのを待てば良い。

 今回は引き上げる」

 海賊船団は水の惑星に引き上げて行った。


 アルディ達:

「20,000宇宙ノットで水の惑星に飛行します」

 アクアマリンの操縦桿はリゼルロッテが握っている。

「フェーズドアレイアンテナ作動中。水の惑星から船団が出港するのを確認しました」

 レーダー員はイリューシャが努めている。

「水の惑星到着時間は?」

「後20分です」

 イリューシャが答える。

 窓の外には大小の岩が凄いスピードで後ろに飛んで行く。一発でも当たればこちらとて無事ではいられない。

「前面に電磁バリアを展開しています。電磁バリア持続時間あと20分」

 これはエリーさんに頼んでステルス塗装と一緒に改造して貰ったものだ。ただし、電磁バリアも使える時間は限られている。

 その時、イリューシャが叫んだ。

「海賊艦隊、引き返してきます。30分で到着予定。こちらは後10分で到着予定」

「到着後、直ちに潜水するぞ」

 10分後、水の惑星に到着した俺達は潜水に移った。

「イリューシャ、水の溶存酸素濃度は?」

「8.1mg/Lです」

「行けるか?」

「問題ありません」

「イリューシャ頼むぞ」

「はい、プロテクトアウト」

 イリューシャはパワードスーツを脱いで、冒険者用のミニスカート姿になった。

 イリューシャは、水中ハッチから水の中に飛び込んだ。

「バシャ」

 水音が水素と酸素の大気を通して聴こえる。

 イリューシャは水中に潜って行った。

「後部収納庫から水中機雷を出せ。収納庫ハッチ解放」

 ハッチが解放されると水中に機雷が沈んで行くが深さ20メル(20m)で水中で浮遊するように設定してある。

 イリューシャはその機雷を持って海賊艦隊の着水エリアに移動した。

 海賊艦が着水したら、この機雷を海賊艦に取り付けて行く作業を行う。

 海賊船のソナーがあるが、人魚族であるイリューシャにソナーは効果がない。

 この機雷は直径が10セル(10cm)位と小さいが、爆薬に陽電子キセノン粒子を使用しているため、爆発力が1発で小さな核爆弾ぐらいの爆発力がある。なので、1発あれば頑丈に作られている300メル(300m)級宇宙艦でも大破はするが、撃沈までは至らない。

 俺達のアクアマリンは水中に潜航してイリューシャの帰りを待つ。イリューシャがアクアマリンの操縦窓に写り帰艦した事を示した。

 水中ハッチを開けてイリューシャをアクアマリンの中に入れる。

「イリューシャ、ご苦労さま、久しぶりの水の中はどうだった?」

「凄く良かったです。海賊共の基地には勿体ないぐらいです」

「水中ソナーで複数の艦の着水を確認しました」

 イリューシャと交代したリゼルロッテが報告して来た。

「では、始めるか。着火ミサイル発射」

「着火ミサイル発射します」

 リゼルロッテがスイッチを押すと、艦の横に取り付けられたミサイル1本が発射されていった。


 海賊側:

「水中から何かが発射されました」

「何かとは何だ?」

「分かりません。水上に出ます。ミサイルです」

「何、耐ショックだ」

 だが、ミサイルは空中高く上がって爆発した。

「ど、どうした?」

「爆発しました。旧型の着火ミサイルのようです」

「着火ミサイルだと!」

 その瞬間、水素と酸素で出来た大気が水素爆発を起こす。

「ドカーン!」

 その爆発で船が大きく揺られる。

「ミサイル発射元を特定し、魚雷を発射せよ」

「ミサイル発射位置確認、魚雷を発射します」


 アルディ側:

「ミサイル発射完了」

 ミサイルを発射したリゼルロッテが報告して来た。

「直ちに離脱する。海賊艦から距離を取れ」

「了解」

 俺たちは海賊艦から離れた。

 すると後方で海賊艦から発射された魚雷が爆発する音がする。

「「「ドカーン」」」

「設置した機雷を誘導爆破する。爆破!」

「爆破」

 リゼルロッテが爆破のスイッチを押した。

「「「「ドカーン」」」」

 複数の爆発音がアクアマリンの船体スピーカから聴こえ、アクアマリンが大きく揺れる。


 海賊側:

「ドカーン」

「今度は何だ?」

「機雷です。陽電子キセノン粒子を使用した機雷と思われます。艦は大破ですが、撃沈までは至っていません」

「相手艦はどうした?」

「ソナーを破壊されたので、不明ですが、最後に捕らえたジェットスクリュー音ではどうやら氷の下に逃げ込んだ模様です」

「くそっ、氷の下に逃げ込まれたらどうにもならん。レーダーが使えんならカメラによる光学監視に切り替えよ。

 それと直ちに修理を開始しろ」

「後3時間で夜になりますが」

「あ、あのう、潜水して氷の下に入ると言うのはどうでしょうか?」

 別のクルーが発言した。

「お前は馬鹿か。宇宙艦というのは密閉されているから、水の中でも大丈夫だが、潜水するにはバラストタンクが必要なんだよ。この船にはバラストタンクが無いから潜水は出来ねーんだ。

 そんな事も知らなかったのか? それより破損個所を報告」

「メインエンジン大破」

「メインエンジン大破だと、離水出来ねーじゃねえか。まずはメインエンジンから修理するんだ」

「了解」


 アルディ側:

「後2時間で海賊船は夜になります」

 レーダー位置に戻ったイリューシャが報告してくれる。

「海賊船が夜に入ったら、水の惑星を離脱する。キャロットリーダー達は来てくれているだろうか?」

「問題ないでしょう。水中からではレーダーが使えないから分かりませんが、きっと来てくれています」

 レーダー画面を見ながらイリューシャが言う。

「氷の下から移動、水の部分に出たら、そのまま離脱する」

「「了解」」

 アクアマリンを微速で動かし、氷の下から出た。

「氷の下から出たぞ。急速浮上、飛行状態に入れ」

「アクアマリン急速浮上」

 船体が浮上して行くのはエレベータで上昇している感覚だ。

「海上に出ました。飛行モードに移行します」

「良し、離脱せよ」

「離脱します」

 アクアマリンは水の惑星を離れて、こちらに来る「レッドリリィ」に向かって行った。

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