第48話 帰りも一戦有りそう
俺達は、キャロル商会を出て冒険者ギルドにやって来た。カイマー海峡の所の海賊の情報を収集するためだ。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付カウンターの美人な受付嬢が、見惚れるような笑顔で対応してくれる。
その笑顔にリゼルロッテとイリューシャの顔が強張る。
「カイマー海峡の所に出る海賊の情報について知りたいのですが・・・」
「『ヘルデス海賊団』の事でしょうか?」
「『ヘルデス海賊団』と言うのですか?」
「はい、半年前位からあの海峡出口付近で商船を襲うようになりました。最初は3艦程度で襲っていたのですが、最近は16艦になったと言われています。少し前に5艦が何者かによって撃沈され、現在は11艦で商船を襲っているようです」
「11艦というのは確実な数字でしょうか?」
「先日、入港した商船と護衛の冒険者からの情報ですので、かなり信頼が高いのではないかと思います」
「その商船は良く無事に海賊を躱わせましたね」
「その船は事前に海賊が出るという情報を入手していたので、護衛に20艦ほど雇ったらしいです」
そう言えば、この領都にも冒険者が増えたような気がする。宇宙港を見るとかなりの数の船が入港しており、接岸状況を示すランプも停泊の赤が表示されている。
「それ以外の情報は?」
「海賊には報奨金が出ています。1艦につき、帝国金貨100枚です」
「かなり高額ですね。全部破壊すると帝国金貨1,100枚にもなりますよ」
「はい、それだけの費用を支払う価値があるということですね。なので、その高額な報奨金を狙って腕自慢の冒険者が討伐に行ってますが、未だに成功したという情報は入ってきません」
「ユーリー辺境伯領からの帰りも注意が必要ですね?」
「いえ、それはあまり気にしなくても良いかと思います」
「それは何故ですか?」
「ユーリー辺境伯領からの船の積み荷はほとんどが資源で、そのままでは利用方法がありません。もし、利用するとなるとどこかで資金に変えねばなりませんが、2つの問題があります。
一つ目はどこで資金に変えるかと言う事です。二つ目は変えた資金をどこで使うかと言う事です」
受付嬢の言う事は理解できる。奪った大量の資源を金に換えるとしたら、その入手元を詮索される。誰も海賊と取引があると詮索される商売はしたくない。例え海賊と取引をする商会があったとして、その費用を現金で貰うか振り込みで貰うかになるが、振り込みの場合、その使用履歴から海賊と判明してしまうし、現金だと持ち運びに面倒で使い辛い。
だとすると、辺境伯領に食料や生活物資や艦の修理部品を運んでいる商船を襲った方が手っ取り早い。
つまり、辺境伯領からの帰りの商船を襲っても燃料や武器を消耗するだけで利益にならないと言う事だ。
だが、俺たちは別だ。
カイマー海峡出口で鉢合わせしているので、その時に船の識別番号はキャッチされているはずだし、その後に俺達を待ち構えていた海賊団と連絡が取れなくなった事は、何かあると考えるのが普通だ。
俺たちは簡単に通して貰うと言う事は考え難い。
「カイマー海峡に関る情報が欲しいのですが?」
「右手の奥の方に情報資料室がありますので、そちらにお越し下さい。なお、古い資料は文字で書かれた書物になります」
文字が読めないと情報は得られないと言う事か。
俺とリゼルロッテそれにイリューシャは、情報資料室でカイマー海峡とその周辺ついて、手分けをして出来るだけ詳細な情報について調べた。
調べた情報を持ってキャロル商会の防音商談室において、エリーさんとキャロットリーダーを含めて海賊対策の話し合いを行っていた。
「まず俺が一番に疑問に持ったのがカイマー海峡出口にどうして海賊がいるかという点です。
宇宙艦が外宇宙で行動するに当たって重要なのは何ですか? はい、キャロットリーダー」
「えっ、え、私か。私が外宇宙で行動するとなると一番考えるのは食料だな」
「そうですね、腹が減っては戦が出来ないと言いますからね。では、次に必要な物は何ですか?」
「うむ、それは水だな。水は宇宙に散らばる水素と艦内にある酸素から作り出す事は可能だが、水素を集める手間を考えると水を持っていた方が良い。
それに酸素を使うと艦内の酸素が足りなくなることも考えないといけない。
逆に水があれば酸素を作る事もできるので、水の確保が重要となってくる」
「その通りです。では、その水はどこで手に入れますか?」
「それは、どこかの人が住んでいる惑星でしか手に入らない。だから、宇宙を航行する場合、人類生存型惑星を経由する事になる。
それでアルディ殿は何が言いたいのだ?」
キャロットリーダーの疑問に答えたのはエリーさんだった。
「カイマー海峡出口に人類生存型惑星は無いということですよ」
「エリーさんの言う通りです。あの海域に人類生存型惑星が無いのに、海賊は居る。だとしたら、その水はどこで入手しているのでしょう?」
「確かに、言われてみればそうだ。食料は商船から奪えば良い、しかし、商船の積んでいる水はさほど多くはない。
だとすると海賊共はどこで水を得ているのか。それとも、海賊団に協力している貴族が居るのか?」
キャロットリーダーは独り言のように言う。
「海賊団を引き入れていると分かれば、貴族として生きていれませんから、それはありませんし、その近辺に貴族領もありませんよ」
「だとしたら、海賊共はどこで水を入手している?」
「その答えがこれです」
俺はギルドの情報資料室で入手した海図を表示した。
「うん? これはカイマー海峡出口付近の海図ではないか?」
「ここを見て下さい」
俺が指差したのはカイマー海峡の出口の端にある小さな恒星系だ。
「この恒星系がどうしたというのだ?」
「この恒星系はかなりマレな恒星系です。中心に小さな太陽があり、その周りを同一軌道上を2つの惑星が回っています。一つは岩石惑星で直径300キル(300km)で惑星と言うより隕石と言った方が良いかもしれません。そして、もう一つの惑星が水惑星で直径が同じ300キル(300km)です。
「何? 水惑星だと。しかし、そのように小さい惑星では水を惑星に留めておくのは無理では?」
「中心にかなりの引力を持つ何かがあるとすれば?」
「何かとは?」
「例えば中性子星のかけらとか」
「それならかなりの重力があるだろうから、水を留める事は出来るだろうな」
「それだけではありません、水の質量と体積から重力を計算したところ。300メル(300m)級宇宙艦であれば、水の惑星に着陸出来ると言う事が分かりました」
「海賊共は、その水の惑星を基地にしていると言う事か」
「そう考えて貰って良いかと」
「海賊共は水が手に入るし、基地としても活用できると言う訳だけだな。くそー、海賊共め。セコイ手を使いやがって」」
いやセコクないし、むしろ賢いだろう。
「それで、その水惑星を利用して海賊共をどうにかしようと考えます。それでエリーさんとキャロットリーダーには準備しておいて貰いたいものがあります」
俺はエリーさんとキャロットリーダーに指示を出した。
その足で俺はシュリーと落ち合い、冒険者ギルドを訪ねた。その冒険者ギルドの防音会議室を借りてシュリーと話をする。
「シュリー、帰りにカイマー海峡出口付近で『ヘルデス海賊団』と一戦するかもしれないんだ。いや、一戦するだろう。
それでシュリーには、ちょっと難しい依頼をお願いしたいんだ」
「ヘルデス海賊団というと、あの悪名高い海賊団?」
「知っているのか?」
「ギルドのクエスト掲示モニターにかなり高額で表示されているから、冒険者で知らない人はいないわよ。
ただ、未だに討伐されていないので、どこのパーティも手を拱いているらしいけど」
「知らなかった」
「アルディって、そういう常識がどこか抜けてるよね」
「私の旦那様を悪く言わないで下さい」
リゼルロッテが俺の事を庇ってくれるのが優しい。
「そうです。私のご主人様は、そこが良いのです」
イリューシャ、もしかして俺の事、天然だと思ってる?
「それでシュリーに頼みたいと言うのは、海図ではこの地帯に岩石帯があるらしいんだ。その中の一番大きな岩石の裏側にワープしたい。その座標を割り出して貰いたい」
「その岩石の大きさは?」
「海図だと長さ約2000キル(2000km)、幅約1500キル(1500km)」
「かなり大きいわね。一歩間違えるとワープアウトした途端、その岩石に衝突って事になるわ」
「だからシュリーの鑑定が必要なんだ」
「分かったわ。こちらでも色々調べてみるわ。だから冒険者ギルドで話をしようと言った訳ね」
「ここには情報資料室があるからね。それと、もう一つお願いがある。それはここにある水の惑星についてなるべく詳しい情報が欲しい。それも合わせてお願いしたい」
「まったく、人使いが荒いわね。分かったわ、惑星鑑定士としての実力を見せてあげるわ」




