第47話 急募、鑑定士
エンジンを壊されたスペースコミューターが、レッドリリィから後方に離れて行く。既に姿勢制御も出来ないのであろう、スペースコミューターはゆっくりと回転しながら惑星に向かって行った。
敵が乗り込んで来た箇所には穴が開いている為、直ちに修理作業に入った。冒険者がプロテクションスーツを着て、宇宙空間で修理作業を行う。
それ以外にも艦の中にも手りゅう弾などで破壊された箇所もあるため、内部の修理も合わせて行う。
窓の外には小さくなったスペースコミューターが4機宇宙空間に浮かんで居るが、この距離になると陰電子を帯びたガスの中では通信は出来ない。
今では救助要請も聴こえなくなった。
「旦那様、あのスペースコミューターって、どうなるのですか?」
リゼルロッテが聴いて来た。
「そのうち燃料が無くなって、姿勢制御も出来なくなると、惑星へ落下する事になる」
「助かる方法はあるのでしょうか?」
「衛星の『WRZ9565A』が一周して来るので、そちらに着陸して水を探して生き延びるしかない。
スペースコミューターの燃料であれば1年ぐらいは生き延びる事が出来るので、それまでに誰か見つけてくれる事を祈るしかないだろう」
「彼らにその為の知恵があればですか?」
「お互いの協力が必要だが、それが出来るかどうか・・・」
そんな話をしているとキャロットリーダーがやって来た。
「アルディ殿、そろそろ出発しようと思う。今回はアルディ殿には世話になった。
ところでいくつか質問があるのだが・・・」
「何でしょう?」
「デープスナイパーを砲撃した後に逃げたではないか。その時の速度を80,000宇宙ノットで逃げたが、300,000宇宙ノットで逃げた方が良かったのではないか。何故遅い80,000宇宙ノットで逃げた。
追い付かれるだろう?」
「それは慣性の法則と相対性理論です」
「な、何、また訳の分からん事を・・・、分かるように説明してくれ」
「レッドリリィ号もディープスナイパー号も巨大艦であり重量があるため、惑星に近づくと惑星の重力に捕らえられてしまいます。これは分かりますよね」
「もちろんだ。だから惑星への降下は軽いスペースコミューターでなければ出来ない。
巨大艦は惑星の地上に降りられない理由の一つだからな」
「ですが、ある程度のスピードがあればどうでしょう? 物が動いた時に急に止まれませんよね」
「ああ、速度があれば止まれないな」
「つまり、速度があれば小さい惑星である『WRZ9565A』の引力に引かれる事は無いと言う事です」
「成る程、だったら、デイープスナイパーは300,000宇宙ノットで飛行していたから、向こうもその慣性の法則とかで引力圏を通り抜ける事が出来たのでは?」
「そこが相対性理論なんです。
相対性理論では速度が速くなるほど重量が増加するという事が分かっています。つまり、300,000宇宙ノットで飛行するデイープスナイパー号は無限大の重量が掛かっていました。そこに『WRZ9565A』の引力が発生するといくら慣性の法則があっても接触を回避するのは不可能です」
「レッドリリィ号は80,000宇宙ノットで飛ぶことで掛かる重力を小さくすることが出来ますから、受ける引力影響を最小限にし、かつ慣性の法則をもって『WRZ9565A』との衝突を回避する事が出来ました」
「重量と引力の関係から、速度を80,000宇宙ノットに計算していたのはシュリーだと言う事だな?」
「彼女がいなかったら、この作戦は成功しなかったでしょう」
「・・・、今回こそ、アルディ殿が味方で良かったと思った事は無い」
キャロットリーダーが一瞬沈黙した後に、お礼を言って来た。
「ところで、何かお礼をしたいが、何が良いだろうか?」
「一つあります。シュリーを我々が立ち上げるパーティに頂きたい」
「シュリーをか?」
「彼女は優秀です。ぜひ、我々のパーティで力を発揮して欲しいと考えています」
「私の意見だけでは良いとは言えぬ。本人の意志を確認して、本人がアルディのパーティに行きたいと言うのであれば、私とて喜んで離隊を認めよう」
「では、シュリーの意見次第で」
キャロットリーダーは艦橋の方に歩いて行った。
「旦那様、あのエルフ女を私達のパーティに入れるのですか?」
「ご主人様、私は反対です。あのエルフ女じゃなくても優秀な鑑定士はいます」
「だが二人共シュリーの鑑定士とての実力を見ただろう。彼女以上の鑑定士を見つける事が、どれだけ困難かも分かったと思うんだ。
彼女以上の鑑定士を見つける時間は、とてつもなく掛かるだろう」
「ですが、あの女は旦那様に色目を使う泥棒エルフです。この女だけでも旦那様を惑わす蠱惑女であるのに、更に蠱惑女が増えるのは我慢なりません」
「誰がご主人様を惑わすのよ?」
リゼルロッテは黙って、イリューシャを指差した。
「そう言うあなたこそ、ご主人様を惑わす蠱惑女よ。ご主人様は私の方を誰よりも愛して下さっているのよ」
「知り合ったのは私が先ですから、私の方を沢山愛して下さっているわ」
「第一婦人より後から婦人になった第二婦人の方をより愛するっていうのは、歴史が証明してますもんね」
「なんですって!」
「なによ!」
「「フン」」
さて、俺は寝るか。
「ユーリー辺境伯領ワープエリアにワープアウト完了しました。これより通常航行に移行します。通常航行後、2時間でユーリー辺境伯領都宇宙港に到着します」
「了解」
俺たちは冒険者艦「レッドリリィ」の艦橋に居た。
「そろそろ到着ですか?」
「後2時間はかかるがな」
「キャロットリーダー、今回はお世話になりました」
「いや、世話になったのはこちらだ。それでシュリーの件だが、シュリーと一緒にリーダー室に来てくれ」
キャロットリーダーに連れられ、シュリーと一緒にリーダー室に行く。もちろん、リゼルロッテとイリューシャも一緒だ。
全員が椅子に着席するとキャロットリーダーが口を開いた。
「まず、シュリーに尋ねる。
この度、アルディ殿がパーティを立ち上げるそうだ。そのパーティに鑑定士としてシュリーを希望している。
シュリーはどうしたい?」
キャロットリーダーの言葉に、ちょっと間を置いてシュリーが答える。
「私はアルディのパーティに参加したいと思います」
「そうか分かった。シュリーの離隊に賛同しよう」
「「ありがとうございます」」
俺とシュリーが一緒にお礼を言ったが、リゼルロッテとイリューシャは頬を膨らませていただけで反対する事は無かった。
「だが、ユーリー辺境伯領から帝都までは今回の依頼に含まれているから、今シュリーに抜けられると困る。
なので、帝都まではシュリーの離隊は待って貰いたい」
「それはもちろんです。シュリーもそれで良いか?」
「私も依頼途中で抜けるのは心残りがあるので、帝都までは私も『紅い百合』のパーティメンバーでいたいです」
「では、そういう事で頼む」
2時間後、「レッドリリィ」号はユーリー辺境伯領の宇宙港に接岸した。
ユーリー辺境伯に戻ると、商船「フォルテウス」号の積み込みが9割程完了しており、2日後に帝都に向けて出港の予定となっていた。
俺達は、キャロル商会のユーリー支店に顔を出すとエリーさんが居た。
「この数日、お顔を見ませんでしたが、何処へ行かれていたんですか?」
俺達はこの数日にあった事を話した。
「ええっ、奴隷売買ですか? それは帝国警察に見つかると即お縄ですよ」
「でも裏が『ノハド・フォン・コート』男爵ですから、相手が貴族と分かると揉み消されるのでは?」
「確かに、それはありますね。でも、親衛隊なら皇帝直轄ですから、どうにかなるかもしれませんが・・・」
エリーさんは何か言い辛らそうだ。
「親衛隊に近づくにはどうすれば良いのでしょうか?」
「正直、分かりません。帝国の皇帝ですら民衆の前に出てきません。民衆は皇帝の顔さえ知らないのです。
もしかしたら、皇帝はいないのではないかと言う噂さえあるのです。
その親衛隊も正直存在しているのか不明です」
成る程、だから言い辛らそうだったのか。
「ですが、私が知り合った『ローランド』という人は皇帝の弟と言ってました」
「確かに昔、皇帝とその弟が領地視察に出発したと聴いた事はあります。そして、弟の艦隊は行方不明になったと。そうなると2人兄弟だったので、自然と長男の方が帝位に就いたと言われています。
ですが、帝位に就いた後、民衆に顔を見せていません。帝位に就いた後に殺害されたかもしれないという噂さえあります。
もし、そうなら空の皇帝の名を騙って誰かが、帝国を動かしているのかもしれません」
「誰かとは誰でしょうか?」
「それは分かりませんが、宰相、皇帝の親族、それともそれ以外の誰か・・・。数え上げればキリが有りません」
今の帝国の実情が分かったような気がした。
「私共は所詮商人ですから、皇帝は居ようが居まいがいいのです。お金をキチンと支払ってくれるお客様だけ居てくれれば良いのです」
「帝国の実情は分かりました。今回、ここに来たのは帰りの海賊対策の件です。海賊の艦隊の3分の1は廃除しましたが、まだ3分の2が残っています。
この3分の2の艦隊がカイマー海峡の前で待ち伏せしている可能性が高いです。
遠回りする航路を取る事はできませんか?」
「それは無理があります。遠回りすると5か月くらいかかりますが、カイマー海峡を通るとなると1週間で済みます。
とても比較にならないのです」
商売は「時は金なり」だ。その差は大きい。
「と、なると海賊を廃除しつつ、カイマー海峡を通る方法を考えないとダメと言う事ですか?
ワープでカイマー海峡をジャンプするという方法は無理がありますか?」
「あそこは重力場の異常地帯ですから、それは無理だと言う事はアルディさんも分かっているでしょう」
「ですよね」




