第44話 暴かれる闇
シュリーが外で見たものは虐殺といって良い程の暴力だった。
食事は冒険者のユニフォームで来ている訳ではない。シュリーもそうだが、一般服で食事に来た。
リゼルロッテもイリューシャも膝丈のスカートに白いブラウスで、どこかのお嬢様と見て取れる。
「へっへっへっ、お嬢さん方、今なら痛い思いをせずに済むぜ」
「その言葉、そのままお返しするわ」
「ほう、それはそれは」
いきなり声を掛けて来た男が、右手のパンチをリゼルロッテに向かって出して来た。
リゼルロッテはそれを難なく躱し、ボディに膝蹴りを入れる。膝蹴りは確実に鳩尾をついた。
その瞬間、男が前に崩れ、膝をつく。
「てめえ、何をした?」
ただの膝蹴りだろ。リゼルロッテは何も言わない。
「おいおいおい、やられてるぜ」
それを見ていた男達がチャチャを入れると、蹴られた男は立ち上がり、再びリゼルロッテに殴り掛かった。リゼルロッテは男が繰り出した右腕を摘むと、そのまま背負い投げで頭から石畳の上に落とした。
「ゴキッ」
頭と石がぶつかる音がし、男が気を失った。
「このアマ、やってくれるじゃないか」
5人の男達がリゼルロッテとイリューシャに襲い掛かるが、膝蹴り、肘打ち、脚蹴りで完全に相手にならない。
周りの野次馬もヤンヤヤンヤの掛け声だ。
「おい、いい男5人が女2人に手玉に取られているじゃないか」
「あれでも冒険者のA4ランクかよ」
その声を聴いた男達はもう余裕がない。
「こうなりゃ」
取り出したのはナイフだ。
「おい素手の女に光物を出すなんて、冒険者の風上にもおけねえーな」
野次馬から声が飛ぶ。
「うるせー!」
男達がナイフを手に突っ込んで来たが、リゼルロッテとイリューシャはその手首をつかむとお互いの男に向けて突き出した。突き出された男2人はお互いの身体を持っていたナイフで刺し違えた。
「「ぐっうう」」
体にナイフを刺したまま2人の男が崩れる。
「てめえら、やりやがったな」
残った3人の男がナイフを振りかざして襲い掛かるが、リゼルロッテとイリューシャは紙一重で躱し、男達の身体にヒールの踵を入れる。
ヒールの踵が身体に入ると内臓に食い込み立ってはいられない。
「ぐっふっふっ」
男2人が腹を押さえて倒れた。
残ったのは男一人だ。その男はナイフを手に持ったまま固まっている。きっと、このまま逃げるか、それとも2人を相手にするか、頭の中はその二者択一を迫られている。
と、思っていたところにリゼルロッテとイリューシャの回し蹴りが顔面に入った。
男が最後に見たのは、ピンクのパンティとブルーのパンティだった。
リゼルロッテとイリューシャのところに、シュリーが駆け寄った。
「二人共、大丈夫ですか?」
「問題ありません。それより、彼らのアームデバイスを取り外しますので、手伝って下さい」
3人で男6人のアームデバイスを取り外す。
「あのう、これを回収してどうするんですか?」
「これって、色々と情報が詰まっていますから、後で使い道があるかもしれません」
リゼルロッテとイリューシャは、回収したアームデバイスの通信機能をOFFにしてから持ち帰った。
男達から回収したアームデバイス5台を「レッドリリィ」で調べてみる。
キャロットリーダーやパーティ幹部で、そのアームデバイスを調べてみると、色々マズい事実が判明した。
この冒険者パーティは「深き狙撃者」と言い、母船は「ディープスナイパー」というらしい。
母船の性能は他の冒険者パーティと同じ300メル(300m)級外宇宙航行船、武器は「オプティカルレーザー3砲、レールガン2砲、ミサイル10門で最大100発の発射が可能。それに宇宙魚雷3門と対コスモファイター用ブラスターガトリングガンを備える。
これは「レッドリリィ」もほぼ同じ装備だ。ただ、宇宙機雷や宇宙爆雷は兵装の中に含まれていない。
「レッドリリィ」の艦橋で調べたアームデバイスでは、彼らはパーティの幹部だったようで、パーティの闇の部分が判明した。女性へのレイプや強盗、殺人。まだあったが、一番問題となったのは女性の拉致と拉致した女性の奴隷売買だ。
黒幕は「ノハド・コート」という男爵で、奴隷商人も行っているのがアームデバイスの情報から判明した。
これを見たキャロットリーダーや配下の女性達は憤っている。
もちろんシュリーやリゼルロッテ、イリューシャも怒っている。
「こんなやつら許せん」
キャロットリーダーが言うと、その場に居る全員が頷いた。
「奴隷というのは帝国ではどのような扱いですか?」
俺が帝国での奴隷扱いについて聴いてみる。
「帝国では奴隷制度は無いし、法律的にも認められていない。しかし、その裏で奴隷が売買されているという噂はあった。
特に美しいエルフ族、愛らしい猫族、犬族の若い女性が人気だと言う事だ」
エルフ族と言う言葉を聴いて、シュリーが身を捩っている。
「あの男達は気を失った位だけなので恐らく生きているでしょう。ナイフで刺し違えた男2人も治癒カプセルで既に完治しているでしょう。
そうなると、この秘密が詰まったアームデバイスを持っている我々は狙われる事になります」
「警察に差し出すというのは?」
艦橋の中に居た一人が声を発した。
「裏で男爵が動いている。揉みつぶされる可能性が高い」
俺が言うとキャロットリーダーが俺の意見を求める眼をした。
「このアームデバイスを盗れらた事が『ノハド・コート』男爵に知られたら、『深き狙撃者』自体が抹殺される可能性が高いですから、『深き狙撃者』自らこのアームデバイスを取り返しに来るでしょうね」
「それはいつ頃?」
「今は通信回線をOFFにしてあるから、アームデバイスが何処にあるか分かりません。ですが、通信回線をONにすると位置情報を受信して場所が判明してしまいます」
「と、言う事は通信回線をONにしないようにしないといけないな」
「いえ、いつかはONにします」
「すると、我々が狙われると言う事ではないか?」
「はい、だからONにするのはヤツらを潰す時です」
「アルディ殿、何か策があるのかな? フフフ」
キャロットリーダーが、不適な笑みを浮かべた。
「その前にどうするかを考えましょう」
「どするかってどういう意味だ?」
「この問題をとことん突き詰めて行くと『ノハド・コート』男爵まで行きつく訳です。
男爵を相手にするとなると、帝国に反旗を翻す事まで念頭におかねばなりません。そこまでの覚悟はあるかと言う事です」
「帝国に反旗? いや、さすがにそこまでは無理だろう」
「と、言う事は男爵は見逃しますか?」
「いや、そこまでは言っていない」
「では、どうしますか?」
「う、うーむ、感情的には男爵のしている事は見逃せない。だが、帝国に反旗を翻すまでの度胸はない。
はてさて、どうしたものか? 取り敢えず、その男達だけをやっつけると言うのはどうだ?」
「その男達をやっつけると『ノハド・コート』男爵は何故やられたかを知るでしょう。そうすると秘密を知っている我々は眼を付けられるでしょう」
「眼を付けられたらどうなる?」
「『ノハド・コート』男爵領に入った時点で、周囲を男爵艦隊に囲まれるでしょうね。他の男爵領までは手を出せないでしょうが、もし、男爵に貴族の仲間がいるようなら同じように捕まえられ、『ノハド・コート』男爵に渡されるでしょう」
「その仲間とは?」
「そこまでは、現時点では分かりません」
「アルディ殿はどう考える?」
「相手に仲間がいるなら我々も仲間を集めなければなりません。それも力のある仲間を」
「つまり、貴族の仲間と言う事か?」
「そうです。力があればあるだけ良いですね」
「と、なると伯爵、公爵クラス」
「が、ベストですね」
「だが、その伯爵、公爵クラスを仲間にする方法はどうするんだ?」
「現時点ではありません」
「それは、どうしようもないじゃないか?」
「どうしようもないと諦めますか?」
「いや、だからジレンマに陥っている」
「今のところは伯爵、公爵クラスを仲間にする事は手が有りませんので、出来る事からやって行きます」
「まずどうするんだ?」
「その『深き狙撃者』は必ず我々を追って来ます。なので、そいつらを撃退しなければなりません」
「そうしたいが、撃退すると『ノハド・コート』に眼をつけられると言ったのはアルディだぞ」
「はい、撃退する場所が問題なのです。帝国領域で撃退すると、正式な冒険者である『深き狙撃者』パーティは次元通信回線を使って、帝国内のギルドに通知されてします。
ですが、ここは辺境領です。次元通信回線が通っていない領域がすぐそこにあります」
「未開地で撃退すると言う事か?」
「そうです。証拠品となるアームデバイスは我々の手の中です。我々が未開地に行くとしたら、これ幸いと追って来るでしょう」
「向こうだって、正規の冒険者である『紅い百合』を帝国内で、理由なく襲撃したと分かったら、冒険者資格の剥奪ではすまないからな」
「一番手前にある恒星系『WRZ956』星系はある程度、判明しています。ですが、その先の恒星系はまだ不明な部分も多いです」
「確か『WRZ956』星系は人類が住める星は無いという報告が上がっている」
「『WRZ956』星系についてはシュリーに事前に調べて貰いました。これが光学望遠鏡と電波望遠鏡で見た『WRZ956』星系です」
モニターに「WRZ956星系」の映像が映し出される。
「この中で、第5惑星『WRZ9565』を見て下さい。この惑星の大きさはかなり大きく直径が125,000キル(125,000km)あります。
この惑星の周囲には陰電子を帯びたガスが覆っており、レーダーも効かなければ、目視も難しくなっています。
そして唯一の衛星があり、これの直径が22,000キル(22,000km)もある巨大な衛星で、陰電子のガスの中を廻っています。
今回はこれを使いたいと思います」
「当然、シュリーも使うのだろう」
「今回は鑑定士の優劣が勝負を分けます。シュリーの責任は重大です」
「わ、わたし、ガンバル」
シュリーの声が震えている。
俺はシュリーと綿密な調整を行った。それに対してシュリーは困惑した顔をしたが、全て了承してくれた。




