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第32話 再びのワームホール

 宇宙艦「ブルーローズ」に戻ると着替えを済ましたローランドが艦橋に居て、ディスプレイを見つめていた。

「アルディ戻ったかの。いよいよ重力歪が大きくなって来た。スペースコミューターの準備は良いかの」

 俺達は荷物やアトラスアクターを持って、スペースコミューターに乗り込んだ。

「アルディ、これを持って行け」

 手渡されたのは重い袋だ。中を見ると帝国金貨がかなりの量入っていた。

「師匠これは?」

「ここでは使う事が無いからな。お主が持って行く方が利用価値があるじゃろう。それにこれじゃ」

 もう一つ渡されたのは紙だった。いや、正式には文字が書かれている手紙だ。実は手紙というものは、この世界では初めて見た。

 文字が無くなったので紙も無くなり、それに準じて手紙も見掛けなくなっていたからだ。

 俺は、帝国の家紋が入った封筒を受け取った。

「分かりました。それでは師匠、お元気で」

 俺が師匠とハグをするとリゼルロッテとイリューシャも同じようにハグをしていた。

「お主達は儂の息子であり、娘じゃ。元気にするんじゃぞ」

 俺達はスペースコミューターに乗り込む。

「上部コーテナーハッチ解放、スペースコミューター発進」

「反重力コイル動力伝達」

 スペースコミューターが宇宙艦「ブルーローズ」の上部から発進する。

 上部コーテナーでは、ローランドが手を振ってくれていた。リゼルロッテとイリューシャも手を振って答えるが、ローランドには見えないだろう。

 スペースコミューターは、どんどん上昇して行き、それに従い地表が下に降りて行く。

「重力歪を走査」

「「了解」」

 スペースコミューターの操縦訓練を受けたリゼルロッテとイリューシャが俺のサポートを行う。

「重力歪を感知しました。ここより先40万キル(40万km)先です」

「全速力でワームホールに向かう。引き続き重力歪に注意」

「了解、重力歪引き続き発生中」

 重力歪の位置まで後10万キル(10万km)になった時だ。リゼルロッテが叫んだ。

「重力歪の質量増大。ワームホール出現します」

「よし、このまま突っ込む。シートアンカー着用」

 シートアンカーはシートベルトのように身体をシートに固定するものだ。

 俺はスペースコミューターの速度を保ったまま、ワームホールに突入した。

 ワームホールの中は真っ暗だ。そして、これから先、どこに出るか分からない。

 どれくらいの時間が経過したのだろう。ワームホール中は時間と言う概念がないので、どれ位時間が経ったか分からない。

 そして、ある程度時間が経過したと思ったら、いきなり窓の外に星が映し出された。

「ワームホール出ました。ホールアウトです。重力歪徐々に縮小して行きます」

 重力歪を監視していたリゼルロッテが言う。

「イリューシャ、現在位置確認」

「星間位置照合中、出ました。帝国内の『ハヒトル恒星系』です」

「現在位置から、『デューラントエーテル星』までの航路は?」

「ハヒトル恒星系の有人惑星である『チルニャー』に着陸し、そこから惑星間航行で飛行するのが良さそうです」

「その『チルニャー』までの時間は?」

「現在の速度で約1日」

 イリューシャがテキパキと答えてくれる。

「燃料節約のため、惰性航行に入る。イリューシャ、スイングバイが可能な星があったら軌道計算を頼む」

「最寄りの第5惑星がスイングバイに使えそうです。軌道計算結果を自動操縦に伝達しました」

「良し、スイングバイで『チルニャー』に向かう」

 第5惑星をスイングバイしている時に星を見てみるが、火星のように赤い星だ。カメラで拡大監視してみると、その地上には多くの重機が動いている事が分かった。

 と、言う事はこの星は資源惑星なのだろう。そうすると、既に管制塔では俺たちのスペースコミューターが探知されていると思った方が良い。

 1日後、俺達のスペースコミューターは「チルニャー」に到着した。

 「チルニャー」は地球と同じ青い星だ。星の周りには4つの宇宙港が見え、何艦かの宇宙艦が停泊しているのが肉眼でも見えた。

 この光景を初めて見たリゼルロッテとイリューシャは興奮している。


「リゼルロッテ、認識信号送信装置の電源は切ってあるな」

「もちろんです」

「良し、では地上管制塔に通信を繋げ」

 俺が言うと、リゼルロッテが通信を開始する。

「あー、こちらは宇宙艦『ローランド号』の艦載スペースコミューター010号です。ローランド号が事故を起こし、スペースコミューターで脱出しましたが、途中ワームホールに捕まり、ここまで飛ばされました。

 至急、地上港への着陸を許可されたい」

「スペースコミューター010号、地上港Aへの着陸を許可し、105番ゲートに格納されたし。なお、事故の詳細について着陸後説明を乞う」

「了解しました」


 俺たちはコックピットに表示された地図に従って地上港Aに着陸し、そのまま105番ゲートにスペースコミューターを移動した。

 スペースコミューターから降りると、銃を持った二人の男性警備員と一人の管理官らしき女性が居た。

「ご苦労さまでした。脱出者は何名でしょうか?」

「この3人になります」

「たった3人ですか?」

 俺は事前にAIで作成していた回答を語った。

「はい、我々は冒険者として新規航路開拓の依頼を受けました。ところが開拓として行った恒星系にはオールトの雲があり、リーダーはそのオールトの雲を短距離ワープで越える事を決断しました。

 ところが、ワープアウトした所にはカイパーベルトがあったのです。私達はカイパーベルトに突っ込み船体が損害を受け、航行不可能になってしまいました。

 リーダーは他の冒険者にメーデーを発信し、船を遺棄する決断をしました。パーティは複数のスペースコミューターに別れて船を離脱したのです。

 離脱する船内は全員が慌てており、私達の乗ったコミューターは偶然にも3人になりました。そして、脱出したのですが、そこで考えられない事態が発生したのです。

 私達が脱出した先にワームホールが発生したのです。

 私達はワームホールに吸い込まれ、そしてホールアウトしたのがこの星系だったのです。

 嘘と思われるなら重力歪が発生しているはずですから、調査して貰えれば確認できると思います」

 俺の長い説明が終わると、女性の管理官は管制塔に確認しているようだ。

「確認取れました。確かに重力歪が発生していたようで、途中にあるミマー星でスイングバイで加速するスペースコミューターを確認しています」

 あの火星のような惑星は「ミマー」と言うらしい。

「確かに赤い星でスイングバイを行いました」

「話の内容としては合致しているようですね。ですが、あなた方のスペースコミューターから識別信号が発信されていないようでしたが、その理由は?」

「えっ、そうですか? 気が付きませんでした。恐らく脱出の混乱に紛れて、識別信号の発信確認を忘れてしまっていたのでしょう」

「分かりました。では認識証明を行いますので、身分証カードをお出し下さい」

 俺は身分証カードを出した。

 管理官はその身分証カードをタブレットと照合すると不思議そうな顔をした。

「アルディ・モーディスター、A1ランク、3年前に行方不明となっていますね」

「えっ、3年も経過しているのですか?」

「どういう事でしょうか?」

「推定になりますが、我々は3年前にワームホールに落ちてからホールアウトするまで3年間掛かったということです。

 ワームホールは、時間と距離を超越しますので」

「なるほど、ではそちらのお二人の身分者カードをお出し下さい」

「実はこの2人は、当時まだ冒険者登録していなくて身分証カードがありません」

「どうして身分証カードがないのですか?」

「航路開拓の途中で冒険者登録する予定だったのです。それが色々と業務に追われて、登録を後々に延ばしてしまった結果、このような事態になってしまいました」

「冒険者登録していなければ、加入していたパーティの責任になりますよ」

「ごもっともですが、私もリーダーの考えは分かりませんし、今更リーダーが見つかっても3年前の事ですから・・・」

「それもそうですね。では、なるべく早く冒険者登録して身分証カードを入手して下さい」

「それはもう・・・」

「では、入国を許可します。アームデバイスに許可証を送りますので、イミグレーションで提示して下さい」

 アームデバイスを見ると、パーミットの文字とアイコンが表示された。

 俺たちは建物内に入り、イミグレーションのカウンターに行った。そこでアームデバイスの許可証を提示すると問題なく入国が許可された。

 それとは別に駐機料をここで支払う。スペースコミューターなので、駐機料もそれ程高くない。

 俺は係官に帝国金貨を出した。

「こ、これは帝国金貨。どうしてこんなものを」

「えっと、リーダーから渡された物がこれだったので・・・」

「そ、そうですか。では、お釣りがチルニャー金貨で980枚となり、駐機日数は10日間です。燃料補給は出港の時で良いでしょうか。燃料は満タンで50チルニャー金貨となります」

 なんと、帝国金貨1枚がこの国の金貨1000枚分なのか。すると、この袋の中にはどれ位の価値の金貨が入っているんだ。

 俺は受け取ったお釣りのチルニャー金貨を別の袋に入れた。

 基本的に帝国内でどこでも通用する貨幣は帝国貨幣であり、一番価値があるものを帝国金貨と呼ぶ、次が帝国銀貨、帝国銅貨となっていく。

 反対にその星でしか通用しない貨幣を惑星貨幣と呼び、例えばここチルニャー星ならばチルニャー金貨となる訳だ。

 これは前世の国の貨幣と同じで、この星の宇宙港にもカレントチェンジャーが設けられている。

 ここチルニャー星では帝国金貨1枚に対し、チルニャー金貨1000枚と言う事だ。

 電子決済もあるが、電子決済はその星単位の決済になるので、基軸通貨は帝国硬貨と言う事になる。

 俺たちはエアロパイロットをスペースコミューター内に残し、メトロでこの星の冒険者ギルドに行く。

 ギルドではリゼルロッテとイリューシャの冒険者登録を行い、デューラントエーテル星への運搬クエストを出す事にする。

 この星のギルドに到着するとリゼルロッテとイリューシャの冒険者登録申請をする訳だが、直ぐに許可してくれる訳ではない。

 エアロパイロットとアトラスアクターへのテイクイン、戦闘の模擬戦、スペースコミューター操縦の試験があり、合格しないと身分証は発行されない。

 ただし、冒険者訓練校を卒業すれば、無条件に身分証は発行される。

 申請の翌日が試験日となるので、その日はホテルを予約して宿泊することになった。また、デューラントエーテル星の運搬クエストも合わせて行っている。


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