第30話 師匠って凄い人だったんですね
俺は宇宙艦に帰りローランドにイリューシャが元気になった事を伝えると、合点がいったように頷いた。
「イリューシャは大きな海や湖で泳ぐ必要があるかもしれんの。それは身体の問題と言うより心の問題じゃろう。
言わば、ストレスが溜まっていたのじゃな」
「師匠、どにかなりませんか?」
「そうじゃな、プールでも作るかのう」
「プールですか?」
「まあ、海とか湖とかに比べれば小さいが、ある程度は良いかもしれん」
宇宙艦内の工作機械でまずコンストバインを作った。コンストバインは工事用の重機である。
それを使い宇宙艦の外に50メル(50m)×50メル(50m)で深さ5メル(5m)の穴を掘り、強化ビニールでその穴を覆いプールにした。
水は井戸を掘り、地下水を汲み上げる。排水はそのまま近くに小川を作って、そこに排水する事にした。
そのままだと、水場と思って星獣がやって来る恐れがあるので、同じように建物も作ったので、立派なプール施設になってしまった。
「イリューシャ、狭いかもしれないが、しばらくはこれで我慢してくれ」
イリューシャを案内したら喜んでくれ、直ぐにミニスカートのままプールに飛び込んだ。
「ご主人様、一緒にどうですか?」
「いや、水着もないし遠慮しておく」
リゼルロッテを見るとプールに飛び込みたそうな顔をしている。
「リゼルロッテ、泳いでも良いぞ」
「いえ、私も水着が無いので」
「なら、水着を作るかの」
ローランドが来ていてそう言う。
「水着ですか?」
「うむ、そうじゃ。お主しの前世の記憶の中にある水着を教えてくれれば、それを作ろうかの。
お主しとて、この世界に来てかなりの時間が経過しているじゃろう。お主のストレスも回復すれば良いじゃろうて」
「私も、お師匠様の意見に賛成します。旦那様の世界の衣装を着てみたいです」
宇宙艦の工作機械でビキニとアロハシャツを作ってみた。それに加えビーチチェアも作ってみた。
ビキニをイリューシャとリゼルロッテに着せてみたところ、かなりのプロポーションのため良く似合っている。
そして、プールに入って遊ぶ事になったが、ローランドはアロハシャツにサングラスをして、ビーチチェアから俺達を見ている。
もうリゾートの気分だ。
「師匠、どうしてサングラスをしているんですか?」
「いや、直接二人を見ると嫌がられると思ってな」
こいつただのエロじじいだろ。
井戸を掘った事はプール以外にもメリットがあった。今までは飲み水は宇宙艦に蓄えてあった水を利用してあったのだが、それを井戸水に変えたおかげで飲み水が美味しくなった。
それに料理にも水を使うため、料理も美味しくなった。
料理はリゼルロッテが中心となって行っていたが、最近はイリューシャも行っている。これもお互いが競うように料理をするお陰で、いつも美味しい料理が出て来る。
ただ、リゼルロッテの料理は野菜中心であり、イリューシャの料理は魚中心であるのは仕方無い事だろう。
「アルディ、お主何歳になった?」
「21歳になりました」
「ここへ来てもう3年になるのか。早いものじゃのう。お主、帰りたいか?」
「帰りたくないと言ったら嘘になります。父や母、それに兄弟だって心配しているでしょうし。冒険者訓練校の同級生もいますし。
ですが、ここには師匠も居ますし、リゼルロッテやイリューシャも居ます。俺だけが帰る訳にはいきません。3人が居ればここの生活だって、それ程悪くありません」
「うむ、そうかの」
「どうしてそんな事を聴くのですか?」
「実はな、最近上空の宇宙空間に重力歪が発生しておる。今の所は重力歪が直ぐに消える状態なので、それ程影響は出ていないが、これが大きくなるとワームホールが発生する可能性が高い。
実はお主が来る時にも同様の事象が発生していたのじゃ」
「もし、帰るなら4人一緒です。師匠も一緒に帰りましょう」
「いや、儂は帰らんよ。お主とリゼルロッテ、イリューシャを連れて行くが良い」
「何故、そんな事を? いつまでも一緒で良いじゃないですか?」
「こから言う事は二人だけの秘密にしてくれ」
ローランドはそう言うと、背中に白い翼を出した。
俺はその姿を見て驚いて声も出ない。
「ア、アウウ」
声を出そうとするが、声にならない。
「これが儂の正体じゃ。私は見ての通り天使族じゃ」
ローランドの話が始まった。
ローランドは天使族として生まれた。この帝国で天使族と言う事は皇帝一族と言う事になる。
その次男と生まれ、長男の「アンドリュー」を補佐する役割をしてきた。そして、次期皇帝を擁立する際に長男と次男の勢力に別れて勢力争いが生じた。
だが、兄弟仲は悪くなかったので、二人にしてみれば勢力争いはどこか他人事のように思っていた。
そんな時、兄弟に領地視察の命令が下った。兄である「アンドリュー」は最新鋭2,000メル(2,000m)級外宇宙航行船の船名「レッドローズ」、弟である「ローランド」も同じ最新鋭2,000メル(2,000m)級外宇宙航行船の船名「ブルーローズ」で領地視察に出発した。
ローランドの船がエンリュウス公爵領であるエンリュウス星に近づいた時だ。
前方にエンリュウス艦隊が広がった。その数2,200艦。とても出迎えに来ている様子ではない。
エンリュウスは領民虐待の疑いと帝国への納税過少申告の疑いがあり、特に視察が重要視されていた領地だった。
また、次期皇帝として長男の「アンドリュー」を推している家臣の中心でもあった。
長男の「アンドリュー」は人が良く、臣下の言う事に反論する事も少なかったので、エンリュウスのような佞臣には操り易かったのだろう。
ローランドの宇宙艦「ブルーローズ」は最新鋭艦ではあったが、対する相手は2,200艦と数の上では圧倒的である。
200艦程を撃沈したが、ワープエンジンをやられてしまい、航行不能になってしまった。
航行不能になった船はいくら最新鋭型とは言え、ただの隕石にしかならない。ローランドは乗員の退去命令を出し、降伏する事を決めた。
だが、ここでの降伏はローランドの死を意味する。
ローランドは死を覚悟した。どうせ死ぬなら相手に捕まって死ぬよりは、この船と運命を一緒にしようと考えた。
だが、船は動かない。しかし、動くものもあった。サイドスラスターだ。
ローランドは一人になった艦橋でサイドスラスターを起動して船を恒星軌道上に停止させた。こうすると恒星の重力に引かれて恒星に落下していくだけだ。
それを見たエンリュウス艦隊もその意図を察知したのか、追っては来ない。ローランドは眼を閉じたが、その時軌跡が起こった。
恒星の作り出す重力が干渉し、戦艦ブルーローズの行く手にワームホールが発生したのだ。
「ブルーローズ」がワームホールに突入し、ホールアウトしたのが、この星の上空である。
ワープアウトした船は惑星の引力に引かれ、どんどん地上に近づいて行く。
ローランドは船で作動する全ての動力を落下に備えた衝撃対策に振った。この巨体の船が惑星に衝突したら、惑星の環境が大きく変更される事を恐れたのだ。
反重力コイル、サイドスラスター、姿勢制御エンジン、スペースアンカー、全てのエンジンと手段を使ってこの船を地上に着陸させる事に成功した。
だが、メインエンジンは既に使い物にならず、飛行する事は叶わなかった。
不時着後に何度かスペースコミューターで宇宙空間に出た事はあったが、この星がどこにあるのか、どうやったら帰れるかは分からなかった。
エンジン以外は特に支障は無かったし、領地視察の途中でもあったので、生活するに十分な食料と資機材は積んである。
ローランドはこの星で生活する事に決めた。
そうなると、この星の生態系などの調査に入った。自分の船の近くにうさぎ族が居る事は早い段階で調べがついたし、翻訳虫も手に入ったが、うさぎ族は用心深く、コミュニュケーションは取れなかった。
そして、何十年が経過したある日、艦橋にある計器が惑星外に重力歪がある事を警告して来た。
その歪が数回現れた後に一体のアトラスアクターがホールアウトして来たと言うのだ。
そのホールアウトして来たのが俺である。




