第3話 未来の生活が俺の時代とほとんど変わらないのだが
翌朝、姉が起こしに来てくれた。姉は確か18歳でブロンドのロングヘアが良く似合う美人だ。
母に似た面影があり、白い肌に青い眼が西洋美人を思い出す。
姉に続いて、リビングに行くと既に食卓には朝食が並んでいる。
「アルディ、昨夜のシチューがあるけど食べる?」
母が朝食の準備をしながら聴いて来る。
「うん、食べる」
それ以外はパンとサラダ、それにミルク、卵料理などが並ぶ。
そして、朝食の話題は自然と俺の怪我の話になった。
「アルディ、まだ記憶が覚束ないところがあると聴いたけど大丈夫か?」
兄がパンを千切りながら聴いて来る。
「まだ、思い出せないところがあるけど、どうにか大丈夫」
「ならいいが、明日から学校だから。それと俺のエアロパイロットを今度から勝手に乗り回すんじゃないぞ。
学校に入れば自分のエアロパイロットを持てるんだからな」
おおっ、そうなのか。エアロパイロットを自分で持てるんだ。それって、高校生になったら、親がスマートフォンを買ってくれるような事なのか。
「父さんがエアロパイロットを買ってくれるの。ありがとう」
俺の言葉に全員がきょとんとした顔になった。その顔を見て、俺も不思議な顔をすると父さんが答えてくれた。
「エアロパイロットは入学したら各学生に支給されるものなんだ。それは死ぬまで使う事になるから大事に使うんだぞ」
エアロパイロットって国が支給してくれるんだ。それって、学校で支給されるタブレットみたいな物と考えて良いのだろうか?
食事が終わると、父と今日から初仕事だという兄を見送りに行く。
兄は父の元で農業をするらしい。
家の横にあるガレージに行くと、そこには4台の椅子に装置が付いたものがあった。
父と兄がその椅子に座わり4点式のシートベルトを締める。
時代は進化しても身体を保護するのはシートベルトという点が面白い。
「それじぁ、行って来るな」
父が言うと、椅子の下にある装置から青い光が出て来て、椅子が浮かび上がった。その隣では兄が乗った椅子も浮いている。
「じぁな、アルディ」
兄が言うと、父と兄が乗った椅子は50cm程浮いて車が出発するようにガレージを出て家の前にある道路を右に曲がって行った。
俺はその後ろ姿を見ていると、同じような椅子に乗った若い男性が父と兄を追うように空中に浮いて道路を走って行く。
どうやらこれが、この星の出勤風景らしい。
俺はリビングに戻って、カウチに座っていると2階から化粧をした姉が降りて来た。
化粧していなくても綺麗だと思ったが、化粧すると一層綺麗になった。
しかし、衣装は出勤用の衣装ではなくメイド服だ。
「姉さんはどこに行くの?」
「何言ってるの、男爵様のお屋敷に決まっているじゃない。もしかして覚えてないの?」
「う、うん、実はそうなんだ」
「そっか、私は3年前から男爵様のお屋敷でメイドとして働いているの。もし、長男のオーランド様のお眼鏡に叶えば、この家も貴族の一門となる事ができるわ」
「えっ、姉さん、男爵様のご婦人になるの?」
「第一婦人は恐らく他家のご令嬢が嫁いで来られるから、第二婦人か第三婦人ってところかな。
それでも、貴族の端に名前を連ねる事が出来るわ」
「いや、姉さん、好きな人とかいないの?」
「そんなの結婚してからでも出来るわ。まずはなるべく良い条件で結婚する事よ」
自分の姉ながら結婚に冷めている事に驚くが、これがこの世界の常識なのだろうか?
母に姉の言っていた事を確認すると、若い頃の母の話が出て来た。
「私も男爵邸にメイドとして勤めていた事があったのよ。その時は、私も第二婦人か第三婦人になれるかなと思っていたの。
でもね、男爵邸にはこの星からの美人がメイドとして集まって来るの。その中で男爵邸に認められるのはかなりの美人じゃなくちゃだめだし、それに性格というか家柄というか一般人の女性が婦人になるのはかなり難しいの。
だって、他貴族との付き合いがあって、その場に出ても恥ずかしくない振る舞いが必要だもの。
一般人から嫁いだ女性に、それが出来ると思う?」
母の言う事はその通りだろう。
貴族には貴族の付き合いがある。食事一つとってもマナーが出来ていなければディナーの席で恥を掻くのはヘーデルランド家なのである。
それにメイドだって、そのディナーの接待につくのもある程度の経験が必要だろう。それが3年程男爵邸に勤め始めたメイドが務まるはずもない。
「それより、明日着て行く服を選びたいの。あなたも付き合ってよね」
俺は前世で、妻のお出かけ前の事を想い出した。
翌日、俺は母に連れられて訓練校の門をくぐった。
歩いて行くのかなと思ったが、母の操縦するエアロビークルに乗って行く。
エアロビークルもガレージの中にあり、どうやって動かすのかなと思っていたが、それは母の操縦で分かった。
まず、エアロパイロットに母が乗り、それがエアロビークルにドッキングするとエアロパイロット自体がエアロビークルの運転席になる。
ドッキングするとエアロビークルが制御できるようになり、助手席のドアが開いて俺が乗り込むと、エアロビークルは空中に浮かびガレージから出発した。
母が運転するエアロビークルは道路に出ると高度が上がって行き、高度500mぐらいになるとかなりのスピードで飛んで行く。
10分も飛ぶと前方に高いビルが見えてきた。エアロビークルはその中の5階にあるゲートに入って行く。そこにはエアロビークルの駐車場があり、既に何台かのエアロビークルが駐車してある。
母はその中の開いたスペースに運転してきたエアロビークルを停めるとエンジンを停止し外に出た。
「ここからは歩くから」
俺も助手席から降りて母の横に並んで歩いた。
母は迷う事無く建物の中を進んで行くが、良く見ると母の左腕のアームデバイスが行く方向を指示している。
そのうち、広い講堂のようなところに着くと母は一つの椅子に座った。俺も母の横に並んで座る。
この講堂のような室内を見渡してみるが、文字は何一つとして無い。どうやら文字が無いというのは本当のようだ。
「あら、アーリアこんにちは」
俺と同じくらいの男子を連れた女性が声を掛けて来た。
「イベリア、元気だった?」
「元気よ~。あなたも元気そうね」
ここからは良くある井戸端会議になる。すると今度は若い女性の声が俺の名を呼んだ。
「アルディ」
見ると金髪のストレートヘアの女学生がこちらに来ている。だが、俺はこの娘の顔を思い出せない。
俺は黙って、その娘を見た。
「あら、エリスお久しぶり」
「アーリアおばさま、お久しぶりです」
「ほら、アルディも挨拶して」
「母さん、この娘が誰か思い出せないんだ」
母は俺の言葉を聴くと、俺が一時的な記憶障害になっている事をその場に居た人達に伝えた。
すると、エリスと呼ばれた女の子は悲しい眼をして俺を見た。
「私の事、忘れちゃったの?」
「忘れた訳じゃなく、思い出せないんだ」
「俺の事は分かるか?」
若い男性が声を掛けて来た。
「ごめん、やっぱり思い出せない」
「俺は『マーク・ジャクソン』だよ。エレメンタリースクールの頃から一緒だったじゃないか。もう忘れないでくれ」
「ごめん。もう、忘れないよ」
「私は『エリス・マッケン』よ。私の事も忘れないでね」
どうやらこの二人は幼馴染という仲らしい。




