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第22話 虫を無視するわけにはいかない

 俺が困っていると、先程の老人が現れた。

「言葉が分からぬか。ならば中に連れて来るが良い」

 俺はバニーガール少女の手を掴んで船の中に連れて行った。

 ある部屋に入ると、老人がロッカー棚の扉を開けた。

 そこには虫箱があり中に蚊のような虫が入っているが、蚊のように飛んでいる訳では無く、箱の中に大人しく入っているだけだ。

「最初はちょっとくすぐったいが、直ぐに慣れるから我慢するのじゃぞ」

 老人はそう言うと、ピンセットで虫を掴むと俺の右耳に入れた。

「あっ、ひゃ」

 耳の中に入った虫は羽を振るわせて耳の中を這いずり回る。

「ひ、ひゃー」

 虫が這いずり回るのが、とてもくすぐったい。

 思わず耳の穴に指を入れて虫を取り出そうとするが、その腕を老人が掴んだ。

「く、くすぐったいです。は、早く虫を捕って下さい」

「我慢せよ」

 いや、それでも耳の中がとてもくすぐったい。しかし、5分程すると虫が這いずり回らなくなり、それに伴いくすぐったさは無くなった。

 そのくすぐったさも10分もすれば慣れてきた。

「どうじゃな。慣れてきたかの」

「はい、だいぶ慣れました」

「では、この娘にも同じように虫を入れるから手伝だってくれ」

「えっ、この娘にもですか?」

「そうじゃ、早よせい」

 老人は既にピンセットに虫を挟んでいる。

 俺はバニーガール少女を抱き締めた。もちろんこれは彼女の自由を奪うためだ。

 すると、老人はバニーガール少女の頭に付いているうさぎ耳に虫を入れた。

 バニーガール少女はやはりくすぐったいのか、固定された身体を解放しようと暴れ出すが、俺が押さえているので、とても色っぽく動く形になった。

 それだけではなく、声も「あーん」だとか、「あっはーん」とか、「はぁーん」とか色っぽい声を発している。

 これだと、俺がイケない事をしているようだ。

 だが、やはり10分程すると彼女も慣れてきたのか抵抗が納まって来た。

「ふむ、どうや良いようじゃな。どれ、彼女に話し掛けてみるが良い」

「えーと、俺は『アルディ・モーディスター』と言うんだけど、君の名は?」

「私は『リゼルロッテ』と言います」

 えっ? 彼女の話している言葉が分かる。

 俺は老人の顔を見た。すると、老人は答え合わせをするかのように説明を始めた。

「耳の中に入れたのは翻訳虫という虫だ。あの虫は耳の中で入って来た音に対し、羽をこすり合わせる事で別の周波数に変える特徴がある。

 その変換された周波数で言葉の翻訳が出来るというものじゃ。ただ、耳の中に入れると慣れるまでくすぐったいのが難点じゃな」

 そういう事なら先に説明して欲しかった。

「それでじゃ、『リゼルロット』と言ったかの。お主の家族はどうした?」

「『ギルガン』に食べられました」

「やはりそうか」

「それでお主は何歳じゃ?」

「12歳です」

 いやいや、12歳って前世ではまだ小学生、この世界でもエレメンタリースクールの学生だ。それなのに、胸は推定Fカップ、ボンキュボンのプロポーション、髪は白銀のロングヘア、どう見たって20歳過ぎのお姉さんじゃないか。

 俺が驚いた顔をしているからだろう。老人が話し出した。

「そう言えば儂の名を名乗ってなかったのう。儂は『ローランド』という。

 それでじゃ、アルディと言ったかの。この星ではうさぎ人は食物連鎖の最下層に位置する生き物じゃ。

 要するに他の生物の餌と言う事じゃ。そうなるとうさぎ人は生存するために多産となり大人になるまでの時間も短い。

 だから、12歳なのに我々の大人の身体になり、子供を産む事も出来る身体になっている。

 『リゼルロッテ』お主の家族は何人居た?」

「全部で36人です」

「母親は何歳じゃった?」

「24歳でした。初めての子は11歳の時に産んでいます」

「でも、11歳で産んだとしても、24歳だと13人くらいだよね。数が合わないのでは?」

「10歳で産んだのが3つ子でした。その次の歳に産んだのが一番多くて4つ子、その次が私を含めて3つ子、次の歳から3つ子が続きます。そして今もお腹の中には子供が居ました」

 いやいや、毎年3人以上子供を産んでいるのか。それなら少子高齢化なんて無縁だな。

「それで残ったのは、お主だけと言う事か」

「はい、その通りです。私も食べられる所をその『アルディ』さんに助けられました」

「でも、君はここに来るように指示しているよね。この『ローランド』さんがここに居る事を知っていたのかい?」

「村が『ギルガン』の群れに襲われて。その時、村の長がこの小山には奇妙な機械を操る老人が居るから、いざという時は助けを求めるようにと、言いました」

「それで村はどうなったの?」

「私は命からがら逃げて来たので、村がどうなったかまでは分かりません」

「お主、村の様子を知りたいか? どうなっていても見る勇気はあるかの?」

 ローランドが聴いて来たらバニーガール少女は力強く「はい」と言った。

「ならばドローンを飛ばしてみよう」

 ローランドがアームデバイスを操作すると、宇宙艦からドローンが飛び出し、その映像が部屋の中に現れたフォログラムディスプレイに表示される。

 ドローンは森の中にある構造物の方に飛んで行き、映像を送って来た。

 そこには死体に群がる星獣の姿がある。

「ああっ」

 リゼルロッテが顔を覆った。

「惨い状況じゃ。恐らく生きている者はいまい」

 その星獣の後ろにはゴブリンが待機している。キルガンの食欲が満たされた後は、ゴブリンが残された肉を食らうつもりだろう。

「お母さん!」

 その映像に大きな腹を斬り裂かれて、ギルガンに食われている女性の姿があった。

 リゼルロッテは、今まで以上に声を出して泣いている。

「くそー、俺が退治してやる」

 俺は感情が高ぶり、船から出ようとするが、ローランドが俺を止めた。

「止めい!」

「どうして?」

「お主はあそこにいるギルガン達を退治してどうするのじゃ。ギルガンもあれで全部ではない。この星に生息する全てのギルガンを退治するつもりなのか?」

「で、でも、あれだけでも退治しないと・・・」

「先程も言ったよな。うさぎ人はこの星の食物連鎖の最下層だと。その意味が分かるらぬか」

 俺は黙った。そして、その意味も分かる。それを人の手で変えると、この星の生態系が崩れる。

 だが、言葉が通じるこの少女の思いも理解できる。自分の身内が、もし食われるようなことがあったら、とても正常な精神でいられないだろう。

「お主の言いたいことは分かるつもりじゃ。だがな、この星にはこの星のルールがあるのじゃ。それを感情だけで変更するのは、強者の傲慢というものじゃ」

 前世でも武力に勝る国が世界のルールを曲げようとして紛争があった事を思い出し、俺は言葉が出て来なかった。

「どうやら分かってくれたようじゃな。

 リゼルロッテとか言ったかの。今の話を聴いていたと思うが、我々にはギルガンを駆除する力はあるが、この星の為にそれをしない。

 分かってくれるな」

「はい、私達も何かの食物を食べないと生きていけません。それはギルガンも一緒です。悲しい事ですが、ギルガンを殺す事が正しいとは思いません」

「うむ、どうやら分かってくれたようじゃの」

 この12歳のバニーガール少女は、転生した俺より大人かもしれない。


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