ティテの街で情報収集
現場は北のセーネイア大森のすぐ近く、ティテという街から山に入って一日半で到着する山村、リヒトルト村だった。
ユーナとルツィアとレオンハルト、クリスとニキアとアンナに分かれた二つの馬車での旅は、帝都シュトルスアルムからセーネイア大森へと続くハスキア街道を、途中から外れてティテ市へ。この街は、農業と林業で成り立つ規模としては小さめの街で、とある子爵家の領地内にあった。
レオンハルトは先を急ぎ、一刻も早く現場に向かいたがったが、アンナがそれを押し止めた。
「わたしたちは、呪猟対象の魔物のことをほとんど知りません。その状態で呪猟に取りかかるのはお勧めできません」
「では、どうすれば良いのだ?」
と答えるレオンハルトの顔には焦燥が見えた。いつもなら、これでもかというくらい余裕ぶっこいてるレオンハルトが焦っていることに、ユーナは驚きを禁じ得なかった。
「正規の討伐隊はまだ帝都を出発したばかりのばすですので、十分出し抜くことに成功しています」
「そのために急いだのだから当然だ」
「ですから、その分の時間の一部を情報収集に当てませんか?」
「……なるほど。基本を忘れるところだった。ありがとう、礼を言う」
珍しく謝意を示したレオンハルトの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
レオンハルトが元の自分を取り戻したのを見て、ユーナは胸をなで下ろす。
「確か、魔物が出た付近の村の住人が、この街に避難してきていると聞いた。それに当たってみるか」
「はい。ですが、闇雲に動いても効率が悪いです」
「ふむ、まずはこの街の市長に会うべき、と言うことだな?」
「そうです」
アンナが満足げにうなずく。
「ねえ、どうしてこの街の市長なの? 山村の村長じゃないの?」
レオンハルトとアンナの会話で端折られた部分の説明を求める。アンナの返答は簡単なものだった。
ティテ市がリヒトルト村の住人を避難民として受け入れていると言うことは、ティテ市長がそれを認めたということになる。つまり、ティテ市長はリヒトルト村長の居場所を知っているはずである。ゆえにティテ市長からリヒトルト村長へ渡りを付け、リヒトルト村長に目撃者を紹介してもらう。時間に余裕がない今の状況では、このやり方が最も早いと考えられる。
レオンハルトとルツィア、そしてユーナとランティエの面々で市長の屋敷に出向く。市長は、頭の禿げ渡った小男だった。田舎の人間らしく人当たりは良く、一行を快く出迎えてくれた。
討伐隊が来るという情報は、すでにもたらされているようで、市長は「それでは、あなた様方が討伐隊の方々ですか?」と質問しつつ、不思議そうな瞳をユーナ達に向けた。討伐隊にしては、メンバーが若いことを疑問に思ったようだった。
「いや、我々は討伐隊ではない」とレオンハルトが即答した。
「では、どのような?」
市長は眉を寄せる。
「私は魔物に敗れた呪猟士の親族だ。……敵討ちに来たのだ」
「それはご愁傷さまでございます。あのようにむごいことは、この街でも初めてのことで……」
市長は悲しそうに顔を歪めた。
「うむ、それでだ、市長。敵討ちを果たすには、まず情報が必要だと考えている。そのために、魔物が現れた山村から避難してきている者から話を聞きたい」
「そう言うことでしたら」と、市長は引き受けてくれた。
避難民は、そのほとんどが、宿屋に泊まることも出来ずに街外れの広場で生活していた。その状況が約3週間続いている。精神的にも肉体的にも、限界が近いように見受けられた。
そんな中にあっても、リヒトルト村の長は魔物を目撃した経験のある村人に引き合わせてくれた。集まったのは、青年と中年、それから幼い女の子の3人。青年はヴァンを案内した人物だった。
「それでは聞かせてもらおうか!」というレオンハルトの焦りの中に覇気を感じさせる声に、青年と中年はびくりと肩を振るわせ、女の子は「ふえっ」と今にも泣きそうな表情になる。
青年の情報はこうだった。
「銀色をした、山のようなでした。太陽の光に照らされて、ぎらぎらと輝いていました」
「その銀色の山が魔物だとどうして判ったんですか?」とルツィア。
「お亡くなりになった呪猟士様が、そうだとおっしゃっていましたので。それに、あんな奇妙なもの、魔物以外に何があるんでしょうか」
中年の情報。
「人の膝くらいの高さの小さめの魔物がたくさん、本当にたくさんいました。それはもう、うじゃうじゃと」
「それは銀色をしていましたか?」とルツィア。
「いいえ、すべて黒っぽかったですね。わしゃわしゃと大きな虫みたいでぞっとしました」
女の子の情報。
「あのね、虫の足みたいなのがならんでいっぱい、いーっぱい動いてた!」
「そうなんだ。どのくらいいっぱいだったの?」とルツィア。
「いっぱいはいっぱいだよ」
「そっか。怖くなかった?」
「うーん、こわかったけど、ずりょうしのおじさんに助けてもらったから」
「そう。良かったね」
「うん!」




