リヒトルト村到着
目撃者の話を総合すると、今回の呪猟対象は複数存在することになる。すなわち、山のような銀色の魔物と、複数の小型の黒い魔物の群れの2種。ヴァンがそのどちらかと戦ったのか、それとも両方と戦ったのか不明だが、両方と考えておくべきだろう。対策は最悪の事態を想定して構築すべきだからだ。
ユーナたちはティテ市で一泊し、証言してくれた青年を案内人としてリヒトルト村へ、徒歩で出発した。
村までは上り坂と下り坂が交互に現れ、重い荷物を背負う女の子にはきつい道のりが続いた。途中、野宿をして、次の日の昼頃、村に到着した。
そこは、『かつて村だった場所』だった。村を囲む塀もある。家もある。井戸もある。確かに生活の痕跡がそこにはある。
しかし、そのことごとくが破壊され、蹂躙され尽くしていた。
崩れ落ちた塀、大穴が空いた家、屋根が落ちた家もある。この荒廃は、その傷跡から、つい最近起こったことだとわかる。
つまり、人も家畜も居なくなったこの土地は、真新しい廃墟そのものだった。
その変わり果てた故郷の様子を目の当たりにした案内役の青年は、愕然として膝を屈した。
「村を出るときは、こんなじゃなかったのに……」
「魔物の仕業ということか。しかし、それにしては……」とレオンハルトは顎に手を当てる。
「家畜は残していったのですか?」とアンナが問うと、青年は「はい」と答える。
「その割に死体がないな」とレオンハルト。
厩舎にも牛舎にも、家畜と呼べるものの姿形は存在しなかった。
「魔物に襲われて食べられたのだとしたら、血痕くらいは残っていても良いはずです」とアンナ。
「その通りですね」とルツィア。
もしかして、家畜を丸呑みにするような魔物だったら、そう言うこともあるのでは。空になった厩舎を見つめながら、ユーナは息を呑んで口を押さえた。小山のような銀色の怪物が、次々と家畜を襲って一口で胃袋に収めていくという光景は、ぞっとするものがある。
「銀色の奴の仕業でしょうね」
と呟くランティエも、ユーナと同じようなことを考えているようだった。
それから異質な事と言えば、村の至る所に盛り土が存在していることだった。柔らかい土でできたそれは、つい最近できたもののようだった。
もちろん、この盛り土については、案内役の青年もあずかり知らぬことだった。
本格的な探索は明日からと言うことになり、この日は夕食を取った後、代わる代わる火の番をすることにして眠ることになった。
案内役の青年は眠れずにいるようだった。不安な表情を隠そうともしない。夜鳥が鳴けば体をぶるっと震わせる。彼にとって故郷であるはずのこの場所は、今や戦場に様変わりしていた。
ユーナも緊張感は強く持ち合わせていたが、それでも眠れないと言うほどではなく、たき火の近くで横になっていると次第に微睡んでいく。
しかし、それはすぐにかき消される。レオンハルトに起こされたのだ。
「交代だ」
「ん」
ユーナは目をこすりながら起き上がる。
「では、頼んだぞ」
レオンハルトはそう言うと体を横たえる。すぐに寝息が聞こえてきた。
ユーナはたき火の傍に座り、弱くなりかけた日に薪をくべる。ぱちっと小さく火花が散る。
小山のような銀色の魔物なんて存在は、少なくとも学館では学んだ覚えがない。一般に、魔物というと、魔族、鬼族、妖族、竜族、械族の他、死霊系に分類される。
魔族は、魔術を行使する魔物の類で、人の姿をしたものから動物の姿をしたものまで種類が豊富。
鬼族は、基本的に人の姿をしていて、魔術は使わないが身体能力が高く、頭など体のあちこちに角を持つ。
妖族は、獣の姿をしており、爪と牙で攻撃してくる。知能が高く、人語を解する個体もいる。
竜族は、いわゆるドラゴンに連なる者たち。
械族は、機械のような存在で意志を持たないという。遭遇は稀で伝説的な魔物と呼ばれている。
死霊系は、狂霊や活動死体のようなものが当てはまる。




