敵討ち
ユーナはまるで珍獣を見るかのような気持ちになって、少し楽しくなった。
「なに? 拉致るみたいな真似までしたくせに。それでも話せない内容なの?」
ルツィアが真面目な顔でユーナを見つめる。その視線には、これ以上いじめないでやってくれ、という意味が含まれていた。
なので、ユーナは次のレオンハルトの言葉を待つことにした。しかし、彼はなかなか話し出そうとしない。
見かねたルツィアが、助け船を出す。
「兄様は、叔父上の敵討ちがしたいのですよね」
「敵討ち?」
ユーナがオウム返しに聞き返す。どうやら真面目な話だったらしい。
レオンハルトは「そうだ」と応じて、ようやく話し始める。
「叔父上が呪猟で返り討ちにあった、と言う話は知っているな?」
ユーナは首を縦に振る。しかし、それ以上の詳しい話は聞いていない。呪猟での返り討ちは、表向きは名誉な殉職として扱われるが、裏では、その事実をできる限り秘するのが一般的だ。魔物を倒すべき呪猟士が逆に倒されるのだから、世間の評価がどうであれ、術士の間では不名誉なことと思われても仕方が無かった。
ましてリッツジェルド家は呪猟の名門である。その一族の者が返り討ちに遭ったとなると、外聞が良くないのは間違いなかった。
その一方で、返り討ちは呪猟士にとっては宿命とも言える。自分の手に負えない魔物を相手にしてしまったとき、その宿命が訪れる。彼我の力量差を見誤ったのか。それとも、依頼を断るだけの割り切りが足りなかったのか。
帝国国民の安寧を魔物から守るのが呪猟士の生業である。その使命に燃える者ほど、その宿命に囚われる。そうして、毎年、何人もの呪猟士が命を落とすのだ。
「ヴァン叔父は、傍流とはいえリッツジェルドに連なる呪猟士だ。生半可なことで返り討ちに遭うはずがないのだ。それが、あのような姿で戻ってくるとは……」
レオンハルトはぎゅっと目を瞑り、拳を強く握り込んだ。涙こそ無かったものの、その表情から、悲しみと同時に悔しさが滲み出ていた。
ヴァンの遺体は両手両足が無惨に引き千切られ、一部は炭化していたという。いったい、どういう魔物を相手にすればそんなことになるのか、ユーナには想像も付かなかった。
ちなみに、ヴァンと行動を共にしていた呪猟士は遺体さえ見つかっていない。
「討伐隊が編成されるはずでしょう? その人たちに任せるんじゃ駄目なの?」
「この手で叔父の無念を晴らしてやりたい」とレオンハルト。
「じゃあ、討伐隊に参加するのはどうなの?」
「願い出てみたが、許可されなかった」
「だよね。あたしたち、まだ中等生なんだから」
「だが、正式な呪猟士の監督下であれば、館生でも呪猟は可能だ」
「そこで私の出番というわけですね」ランティエは、なぜ自分が密談に加えられたのかを理解した。
「そういう訳だ、ランティエ殿。一役買ってはもらえまいか」
「てことは、ランティエさんが居れば済むってことよね」
つまり、自分には関係の無い話なのだと思って、ユーナは少しむくれる。
「ユナマリア・リーズ。いや、ユーナ・オーシェ」とレオンハルトは呼ぶ名前を言い直して続ける。「君にも敵討ちを手伝って貰いたい」




