ぬいぐるみとお風呂
ローリスを含めた6人は連れだって、試合会場を後にし、ローリスが住む寮へ向かう。
それは『イルトゥース寮』と呼ばれ、その名の通り、ローリスが当主を務めるイルトゥース家が所管する寮である。
図書館が面する広場を抜けて、城塞山と呼ばれる山の麓まで来ると、そこがイルトゥース寮だった。確かにリーズ寮に帰るよりは格段に近い。
「私はここでお待ちしますね」
ユーナ付きの衛士であるランティエは、一緒に行くのではなく、職務を遂行することを選んだ。しかし、なぜか緊張感漂うランティエ。その感覚は、どうやらローリスに向けられているようだった。ランティエより年下のローリスに対して、敬意というか、畏敬というか、そんな感情を抱いているように見える。
まあ、ローリスの実力を目の当たりにすれば、そうなるのも無理はないのかも知れないが、実力という意味ではけして引けを取らないランティエには珍しいことのように思われた。
と言うわけでランティエを1階ロビーに置き、ユーナとクリス、アンナはローリスの後について2階に上がった。そこから廊下を渡ってしばらく行った先でローリスは立ち止まり、鍵を使ってドアを開けた。
「どうぞ」
「あ、お邪魔します」
室内は整理整頓が行き届いていた。びっしりと本が並べられた本棚。これにはアンナが反応した。それから、ベッドの上に複数のぬいぐるみが鎮座していた。熊とか、馬とかがデフォルメされて可愛らしい。これにはクリスが反応した。
「どうしたんですか、このぬいぐるみ!」
と言いつつベッドにクリスは駆けより、その中の一つ、大きな熊のぬいぐるみを抱きかかえる。
ローリスは気恥ずかしそうに少し頬を赤く染めて、
「ぬいぐるみ集めが趣味なのです。お恥ずかしい限りですけど」
ユーナは首を振って、「そんなことありませんよ」と言った。本心だった。
「本当はもっとたくさん居るのですけど、寮に持ち込む訳にも行かなかったので、これだけ」
その口振りからすると、どうやらイルトゥース家の屋敷の私室はぬいぐるみで埋まっていると想像できた。
「あの、お風呂をお借りしても?」
一刻も早く土埃を落としたい。
「そうでしたね」
ローリスが呼び鈴を振ると、メイドが現れた。
「お風呂の用意を」
メイドは一礼して出ていった。
「こちらに」といざなうローリスについて次の部屋に行ってみると、そこに大きなバスタブが置いてあった。
しばらくして、お湯のいっぱい入ったバケツを持ったメイドが数人来て、バスタブをお湯で埋めていく。
「わたくしもご一緒してよろしいかしら?」
突然、ローリスが制服を脱ぎ始める。
ユーナはどぎまぎしながら、「えと、あの、その、なんと言いますか」と、まるで初心な少年のように、肩まで肌が露わになったローリスから視線を逸らす。考えてみれば、ローリスも土埃まみれになっているはずだ。汚れを早く落としたいという気持ちは同じはず。
「だけどっ!」
ユーナは頭を抱えて苦悶する。
(さ、さすがにローリス様とお風呂をご一緒するのは……)
自分でもよく判らないまま、ユーナは赤面する。ご一緒したとして、緊張し過ぎで変な奴だと思われたりしないか、ローリスと比べれば貧相な身体を見られるのは恥ずかしいとか、でも、本当は嬉しかったり。とか。
ローリスが、くすくすと、笑った。
「冗談です」ローリスはそう言って服をもどし、「では、ごゆっくり」と部屋を出て行った。
続いてクリス、アンナは部屋から出て行った。
からかわれたのだと気付いて、少しだけむっとする。
本気で悩んだのに。それが本心だった。
メイド達は残った。そしてバスタブを囲むようにして佇む。
どうやら、メイド監視の中、お風呂に入らないと行けないらしい。リーズの屋敷でもそうだったので、それほど抵抗感はないものの、久しぶりのことだったので少し緊張してしまう。
メイドの一人が近づいて来て、制服を脱ぐのを手伝ってくれる。ところどころに鎌鼬の跡が残り、ぼろぼろになったその制服は、隙間に土が入り込んでいて、ボタンを外す度にぱらぱらと土と砂が床に落ちた。
メイドは無表情にユーナが脱いだ制服を受け取る。
足をお湯に付けると、ちょうど良い温度。ユーナはそのままバスタブの中に身を横たえた。
ユーナは幼児体型と言うには凹凸がはっきりしている。かと言ってグラマーかというとそんなことはない。まあ、まだ若いので、これから育つだろう。育つはずだ。育つと良いな。的な希望的観測を持っているのが現状である。
故に、ローリスにそんな身体を晒すのは抵抗があった。ローリスはほっそりとした身体付きだが、中等生とは思えない程、スタイルが良い。主に、胸の辺りが。
「失礼します」
とメイドの一人がユーナの髪を洗う。至れり尽くせりと言う奴だった。




