対ローリス・イルトゥース戦3
ローリスはくすくすと笑った。それがまた、ユーナに追い打ちをかけるようだった。
(間違いない。ローリス様、怒ってる!)
「行きますよ」
ローリスの声と共に、ごうっと風が巻いて地面の土が巻き上げられる。小さな竜巻。それが3つ、轟音と共に発生した。これは、ムルムの風壁とローリスの鎌鼬がぶつかってできたものではない。ローリスが1人で作りだしたもの。巻き込まれたからと言って命に別状はない大きさだが、目印の紙は確実に千切れるだろう。
3つの竜巻が、三方からユーナに襲いかかる。
ユーナは最後に残された道である、後方に下がるしかない。
3つの竜巻は、それぞれが近づくと、合体して、更に大きくなった。一方で、一つになったことで左右に逃げ道ができた。ユーナは右に避けた。竜巻は追いかけてくる。更に避けても、また追ってくる。
ユーナは無謀なことは判りつつ、「Mrum!」と叫んだ。
ムルムの風壁が竜巻にぶつかる。が、巻き上がる風が少し乱れただけで、たいした効果は無い。
「さらに行きますよ」というローリスの声は、ユーナには届かなかった。
ユーナの周囲につむじ風が起こる。これは鎌鼬と風壁がぶつかって発生したもの。たくさんのつむじ風はユーナの左右にできていた。つまり、正面は竜巻、左右は鎌鼬に囲まれていることになる。
この状況の打開策は……思いつけなかった。三方を風で囲まれ、前に出ればその餌食になる。かと言って後方に下がれば、観衆を巻き込む恐れがある。八方ふさがりとは、まさにこのことだった。
いや、よく頑張ったよ。
自分で自分を褒めてみる。
ため息をついて、ユーナは「参りました」と告げた。
ところが。
風の音が激しすぎて、ユーナの声は誰の耳にも届かない。
「えぇっ?」
その間にも竜巻は近づいてくるし、つむじ風も生じ続けている。時々、防ぎきれなかった鎌鼬がユーナの服を触れていく。
「ま、参りましたっ!」
今度は大声で叫んだ。
竜巻が消えない所を見ると、まだ聞こえていないらしい。刻一刻と近づく竜巻に焦りながら、開催本部の方へジェスチャーをしてみる。が、伝わらない。
とうとう、竜巻が目前に迫り、為す術無く竜巻に巻き込まれかける。もう駄目だと思った瞬間、竜巻が跡形もなく消え去った。
「大丈夫ですか?」
心配そうに駆け寄ってくるローリス。
ユーナは、頭のてっべんからつま先に至るまで、土埃にまみれていた。口の中にまで土と砂が入ってしゃりしゃりする。
「ユーナさん?」
「参りました……」
ローリスはほっとして胸をなで下ろす。
なんとも言えない徒労感がユーナを襲った。
開催本部からローリスの勝利を告げる声が聞こえた。
「ごめんなさいね。まさか限界まで耐えるとは思わなかったものだから」
ユーナとローリスは連れだって試合場を後にする。
「いえ。試合でしたし。寮に戻ってお風呂に入ります」
「それなら、わたくしの寮へおいでなさいな。ここからほど近くにありますから」
「そういう訳には……」
と答えつつ、口をゆすぎたい衝動に駆られる。噴水の水でうがいしようかと思ったが、汚いかもしれないので止めておくことにした。
「遠慮なさらないで。わたくしに責任があることですから。それに、」とローリスは声を潜めて、ユーナの耳元に囁く。
「1度ユーナさんとお話ししたいと思っていたのです」
ローリスは、いたって真面目な表情。何か、特別に告げたいことがあるらしいと察したユーナは、「判りました。お言葉に甘えさせていただきます」と答えた。
ローリスはにこりと笑顔を見せた。
「では、参りましょうか」
「ローリス様は、この後、試合は無いんですか?」
「そうですね、3回戦は明日のはずです」
「えと、あたし、他に4人と一緒に居るんですけど、その子たちも一緒して良いですか?」
「ええ。構いません」




