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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
赤色魔術
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対ローリス・イルトゥース戦2

策は一つ、思いついている。ただ、それをどうやったら確実に実現できるのかが不明だった。一度できたのだから、再現は出来るだろうと思ってはいるのだが。

ユーナは試しにもう一度レイピアを水で濡らし、()()()()を念じながら振り払う。しかし、飛沫はいつも通り凍りつき、ローリスの風によって払われてしまった。

やりたいのは、イステル・ファーラクス戦でたまたまできた、〈膨張〉。実際には膨張ではなく、周囲の水分を集めて大きくなっていると考えられる。当然ながら、ユーナの本来の持力、〈氷結〉とは全くの別物だ。


持力発現に偶然はほとんど存在しない。その発現ができたのなら、やり方は必ず存在する。

イステル・ファーラクス戦の時、〈膨張〉が起こったのは、左腕に傷を負った後のことだった。今も痛みが残る傷から、血が出ていたのを思い出す。


〈偏向発現〉


その言葉がユーナの脳裏をよぎった。ルツィアが言っていた奴だ。

「そっか」

何もかも納得が行った気がした。

つまり、必要なのは〈異質の赤(ルボル・ヘテロゲナエ)〉。そして、それは、おそらく、『血の赤』。

ユーナは左腕の包帯をほどいた。巻いてくれたクリスには申し訳ないと思ったが仕方がない。

傷に触れると、痛みが走る。

右手の平には、血の赤色が付着していた。

「よしっ」

ユーナはまたレイピアを濡らし、ローリスに向けて振り払った。

飛沫は凍ることなく膨張しながら飛んでいく。そこまでは思惑通りだった。

しかし。

膨れあがった水は、ローリスに届く前に彼女が放った強い風で霧散してしまう。

この程度でめげるユーナではなかった。〈膨張〉とは、厳密には、『近くに存在する水が集まる発現形式』で、〈寄集(ザンメルン)〉と言うのが正式。

つまり、その場に水が存在する限り、何度でも集めることが可能。

ユーナはレイピアで攻勢に出る。そのことごとくがローリスの風壁に防がれるが、それは想定済み。風壁に止められた一瞬後に、レイピアの剣先から水が現れる。それは急激に膨張したと思うと、重力に逆らうことなく落下し始める。

それを、ユーナはレイピアで掬い上げるように下から上へ払った。水の塊ははじけ飛び、無数の飛沫になってローリスにふりかかる。

この攻撃は虚を突いた形になって、ローリスは対応できずに飛沫を浴びる。しかし、胸元を濡らすには至らなかった。

ローリスは無言で濡れた黒い髪をかきあげる。その仕草はあくまで優雅だった。その様子を見ていたユーナは、はた、と我に返る。

これって本当に攻撃になっているのだろうか? ただの嫌がらせでしかないのでは?

その証拠になるかは判らないが、観衆はイマイチ盛り上がっていない。何をやっているのか判らないのかも知れない。

ともかく、謝っておこうとユーナは思った。

「あの、すみません。これは……」

「大丈夫、判っていますよ。前の試合と同じように目印を水で濡らす作戦なのでしょう?」

ローリスは冷静にそう分析していた。

「そうです」

「となると、こちらも本気を出さないといけませんね」

「え?」

ローリスが本気を出していないのは判っていた。だが、このタイミングで本気を出すという意味が判らない。

やっぱり怒らせてしまったのか。

目前に立つローリスはいつもと変わらず微笑みをたたえている。怒っているようには見えないのだが……かえってそれが恐ろしい。


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