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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
赤色魔術
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試合の合間

「お疲れ様です」

「お疲れ様でした」×2

「ほんとに疲れた……」

 肉体的にもそうだが、主に精神的に。

 クリスがレイピアを受け取ってくれる。

「次はローリス様ですね」

「え?」

「トーナメント戦ですから。先ほど勝利したローリス様と当たることになります」とアンナがわざわざ説明してくれる。

「ええーっ⁈」

「判っていなかったんですか?」


 開催本部から次の試合の口上が告げられている。

 しかし、ユーナには聞こえていなかった。

『ローリス様と試合する』

 その言葉が、反響するように何度も頭の中を巡った。

 ユーナにとってのローリスは、武門貴族出身者である自分の理解者であり、術士としての憧れでもあった。

 そんなローリスと闘うというシチュエーションは全くの想定外だった。

 どうやって闘えば良いのか、二つの意味で想像が出来ない。

 一つは、恐れ多いから。ユーナにとってローリスは、武門貴族である自分の良き理解者であり、尊敬できる数少ない術門貴族出身者である。そんな女性と闘うのは気が引ける。

 もう一つは、圧倒的な技量差があるから。ローリスはまだ中等生でありながら前回の金鷲旗の優勝者であり、さっきの試合を見ても判るように、エリートのはずの呪闘士すら手玉に取るほどの実力者。闘って勝てる相手ではない。

 そんなことを考える一方で、ユーナは嬉しくもあった。憧れの女性と1対1で向かいあえる機会など、そう多くはない。

 試合のことを考えなければ、ローリスのお近づきになるチャンスと言えなくもない。会話が言葉でなく拳であることに問題があるが。


 いつの間にか、クリスが腕の傷に包帯を巻いてくれていた。

「あ、ありがとう」

「痛いですか?」

「大丈夫」

 と答えはしたが、ちくちくと痛む。結構深い傷なのかも知れない。

「傷が残らなければ良いのですけど……」

 クリスは自分のことのように心配してくれる。

「でしたら、私が治癒魔術を」

 ランティエが買って出てくれた。治癒魔術と言われてはいるが、すぐさま傷を完治できるようなものではない。せいぜいが、身体の治癒能力を少し向上させることができる程度。

 それでもランティエの気遣いはありがたかった。


 次の試合までにはまだ時間がある。手持ち無沙汰になった。

「他の人の試合を見て勉強しなくて良いんですか?」とランティエ。

「うーん、まずは何か食べたいです」

 何故か、お腹がすごく空いていた。

「でしたら、何か買ってきましょう。何が良いですか?」

「ううん、自分で探してみる」

 幸い、露店は広場に沢山出ている。

 ユーナは3人を引き連れて噴水広場に出ている露店を見物することにした。

 ちょうどブロートを売っている店を見つけ、チーズの粒がばらまかれた大きなブレッツェルを一つ購入。お代は無料。金鷲旗争奪戦の参加者は、露店のものは何でも無料になっている。

 一人では食べきれないので、3人にも手伝ってもらう。

 ブレッツェルを頬張りながら、広場に出ている店を見て回る。

 食べ物、ビア(ビール)やワインなどの飲み物の露店の他、土産物の店も出ている。店の前では数人の客が止まって買おうか買うまいか悩んでいたり、酒屋の前ではすでに出来上がったおっさん達がおだをあげていて、今年は誰が勝つとか負けるとか、争奪戦のことを勝手に賭けたりしている。

 その中の一人がユーナの胸に赤い目印を見つけ、

「お嬢ちゃん、がんばれよぉ、おじさん応援しちゃう」

 とかなんとか、ろれつの回らない言葉で嬉しくもない応援をくれる。ユーナは手を振って適当にあしらった。

 だが、こういう無礼講な雰囲気は嫌いではない。ごたごたとした活気があって、人の息づかいのようなものが感じられる。まるで幼い頃過ごしたファイラッドを彷彿とさせ、ユーナは懐かしさを覚えた。普段のこの街(メーゼンブルク)は学都と呼ばれるだけに、どこか堅苦しさがつきまとう。それが、この祭りの間は払拭される。

 試合会場の方からわっと歓声が起こる。勝敗が決まったらしい。

 ユーナの出番にはまだ早いはずだが、いったん戻って状況を確認することにした。

 会場は、ユーナが闘ったときより観衆が増えているようだった。

 すでに前の試合の選手は試合場を去り、開催本部から次の対戦の口上が告げられている。

 そして現れた選手の片方に、ユーナは興味をそそられた。

 その人物は男で、服装が館生のものとは違っている。というより、そもそもクヴァルティスでは見たことのない格好だった。上半身はシャツのようにも見えるが、どうも違う。下に至ってはスカートのようにも見える。

「どこかの留学生でしょうか」とアンナ。

「そうね」

 と、後ろから声がかかる。振り向くと、そこに立っていたのは。

「ルツィア! 久しぶり……って程じゃないか」

「あの男性は、イレリアからの留学生よ」

「イレリア……」

 そう言われても、ユーナの知識では、イレリアという国の情報は乏しかった。


 イレリアはティレリア大陸の東の方にある小さな国で、クヴァルティスやセツェンなどとは、文化がまるで違っているという。

 交易が盛んなわけでもなく、なぜそんな国の人が留学生してきているのかは、よく判らない。


「クヴァルティスの魔術とは全く違うから、見ておくと良いと思うよ」とルツィア。

「なんか詳しそうだね?」

「全部、お兄様からの受け売り」

 ルツィアはちろりと舌を出して見せた。


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