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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
赤色魔術
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対イステル・ファーラクス戦2

 剣先にキャップがあるので突き刺さりはしないが、かなり痛い。

 じんとして、剣を握る右手がいうことを聞かない。剣がうまく振るえない。

 イステルは、そのまま苛烈に責め続ける。ユーナは後退しながら、なんとか防ぎ続け、右肩が直るのを根気強く待った。

 もう良いかと思えるところまで回復して、ユーナは攻撃に転じる。剣を弾き、弾かれしながら決定的なタイミングを狙う。

 剣と剣がぶつかる音だけが会場に響いた。

 ユーナは次第にイステルの剣を押さえ込み始めた。剣術の腕は、ユーナの方が少し上のようだった。

 ユーナの剣を受けきれなくなったイステルは、たまらず後退する。そこにユーナは水平に伸ばした腕を突き出した。こんどはユーナの剣がイステルの胸元を襲う。

 イステルはステップでさらに後退してそれを避け、十分に距離を取る。


「やるわね、あなた」

 イステルの顔に余裕は無かった。

「ありがとうございます」

 ユーナは年下らしく丁寧語で答える。

「中等生だからって甘く見てたけど、さすが銀鷲旗の入賞者ってとこか。こっちも本気出さないとね」

 イステルは笑ったが、その笑みは少し引きつっていた。

「Facite ociter……」

 イステルが突然、詠唱を始める。

 剣闘をしている最中に、これは大きすぎる隙になる。

 ユーナは躊躇わず、イステルの赤い紙片を狙って剣を振るった。イステルはそれを払ってしのぐ。そして構えを取り、ユーナに剣を向けた。詠唱は続けたまま、である。

 イステルが唱える呪文をユーナは知らなかったが、ところどころ理解できる単語からすると、風精を励起させるもののようだった。

 こんな闘い方は、中等二年のユーナはまだ学んでいなかった。


 剣術と他力魔術の併用。イステルは剣を防御に回して詠唱に集中しているが、上達者は、攻撃しながらこれを行う。戦う相手は、剣と魔術の両方に対処しなければならない。剣士と術士二人を一度に相手しているようなものだ。

 しかし呪闘士とって、これはスキルの片鱗でしかない。


 このまま詠唱を完成させる訳にはいかなかった。

 ユーナは攻撃を続ける。しかし、防御に徹するイステルを突き崩すには至らない。

 このままだと、まずい。

 呪文が完成すれば、風系の攻撃が来る。それがどんなものなのかは想像できないが、イステルにとってこの状況を覆すには十分なものなはずだ。

 ユーナに焦りが生じる。

 その所為で剣線が乱れるようになり、前よりもうまく立ち回れなくなる。

 なんとかしなければ。

 その間にも詠唱は続く。

 ユーナは我を忘れて攻撃を続ける。

 しかし、その時は来た。


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