試合会場へ
メーゼン橋の上に露店がいくつか開いていた。さらに向こう岸には、川沿いにずらりと露店が並んでいる。
その店に群がるように集まっている街人、村人、親子連れ、男女。
完全にお祭りムード全開の状況。
ユーナは、一旦は引いた緊張がまたぶり返しそうになった。ぶんぶんと首を振ってそれを追い出す。
メーゼン橋を渡った先の旧市街は、人でごった返していた。いったいどこにこれだけの人間が住んでいたのか、不思議になるくらいの人ごみ。
その間を4人は縫うようにして先に進む。途中、アンナが迷子になりかけたが、なんとか見つけ出して先に進んだ。
争奪戦が行われる会場は、大聖堂裏手の噴水広場になる。背の高い噴水があるだけで、特にこれといった見所のない広場だ。
そして、銀鷲旗の時、ユーナがレオンハルトに敗れた場所でもある。あの時、レオンハルトが破壊したが噴水はすでに元通りになっていた。
その噴水を仲間はずれにするように、群衆が輪を描いて集まっている一角がある。そこが争奪戦の会場のようだった。
ユーナは、1回戦の試合相手が誰なのか知らない。その情報を得るために、まずは開催本部を訪れる必要があった。
人間の輪をぐるりと迂回して歩いて行くと、輪が途切れる場所があった。開催本部に違いなかった。
銀鷲旗と違って、金鷲旗の場合、試合の運営は館生が行うことになっている。ゆえに、開催本部に座っているのは若い男女だった。
「すみません、あたし、ユーナ・オー……」
呼びかけたところで、観衆から大きなどよめきが起こる。
何事かと思って、ユーナは輪の中心に目を向けた。そこには二人が対峙していて、一方が膝に手を当てて肩で息をしている。もう一方は試合相手の様子を窺ったまま立っている。苦しそうにしている方が男で、余裕がある方が女。
「あれは、ローリス様ですね」とアンナ。
「ほう、あれがローリス様、ね」
ランティエは珍しいものを見るような視線を送った。
ユーナは魅入られたようにローリスの動きを見つめた。
先に動いたのは試合相手の男の方だった。彼はシュヴェルト(ロングソードみたいなもの)を手にしていて、剣を肩に当てた構えから一気に剣を突き出す。剣は風を纏ってローリスに襲いかかる。
かと思いきや、剣から生じていた風が突然消えた。
振り下ろされた剣はローリスに当たること無く、何もない空間にぶつかって跳ね返った。
「〈風壁〉……?」
即座に男はローリスから距離を置く。彼がもともと居た場所で風がひゅっと鳴った。
「鎌鼬みたいですね。ということは、ローリス様の持力は、わたしと同じ〈切り裂きの風〉でしょうか」
「違うと思います」
アンナが否定する。
確かに、〈風壁〉と〈切り裂きの風〉を扱える持力など聞いたこともない。
「え? ですけど、あれは……」
クリスは反論しようとする。
「あれは〈生じる風〉と呼ばれる持力です」
アンナはそう言いながらも、視線はローリスに釘付けだった。
「〈生じる〉……聞いたことがある。あれが、そうなんだ……」
〈生じる〉と付く持力は地水火風それぞれに存在する。この4つは別格で、発現指向は〈オリギナル〉。この系統の持力保有者は非常に稀で、100年に1人居るか居ないか程度。
〈生じる〉という表現が示すように、その属性に関するあらゆる事象を生じさせることが出来る。ユーナは、この励起形式について初めて耳にしたとき、『なんて便利なんだ』と思いつつ、『なんてご都合主義なんだろう』とも思った。そんな形式が存在してしまうと、自分も含めた他の術士が割に合わない気がしてくる。
一般の術士は、たった一種類の事象をあの手この手で工夫しながら自分にあった活用を模索しなければならないのに、〈生じる〉系統の術士は、大して努力もなく様々な事象を操ることが出来る(もちろん、一つの属性に限った話だが)。
これは、とても不公平だと思う。
だが、持力属性や励起形式は、選べるものではない。だからこそ、介力を使った術式が存在するとも言える。
それに、持力量に恵まれ、応用が利く励起形式であるユーナが口にして良い台詞でもなかった。
それはともかく。
ユーナ達は開催本部の人に声をかけるのも忘れて試合の動静を見つめていた。
ローリスが圧倒的に優勢なのは相変わらず。
試合相手の男が何度か攻撃を仕掛ける。が、その度にローリスは防御する。その繰り返し。
「ローリス様、攻撃しませんね」とクリス。
それはユーナも気になっていたところだった。
ローリスは他人を玩ぶような性格ではない。何か他に理由があるに違いなかった。
男の方もその力量差にも関わらず、諦めようとしない。その心意気は賞賛されるべきものがある。
ローリスと男が何か会話をしている。詳しい内容は聞き取れない。
それが終わると、男の方が気合いを入れ直して剣を構えた。おそらく、次の攻防で勝敗が決まるのだ。
ユーナはごくりと喉を鳴らして二人の動きを見守った。




