学館祭
「お前たち、ちょっと付き合いなさい」
大司教と別れて宝物庫を出たところで、ディトーがユーナ達を誘う。3人はディトーの屋敷に向かった。
教官棟の部屋ではなく屋敷を選んだのは、秘密の話をするには屋敷の方が都合が良かったからだろう。
ディトーの屋敷では以前と同じく、赤いメイドが出迎えてくれた。
客間に通され、赤いメイドが紅茶を運んできた後、ディトーはメイドたちに部屋を出て行くよう指示した。
3人以外、誰もいなくなったところで、ディトーは真剣な面持ちでユーナ達に向かい合った。その顔にいつもの余裕は無かった。
「判ってると思うけど……」
「『袖』のこと、ですよね」とユーナ。
「そうだ。物が物なだけに慎重にならざるを得ない。だが、あくまで『赤色探し』という課題の一環である以上、ある程度の情報開示は必要になる。扱いには気をつけろ」
ユーナとクリスは頷きを返した。
一口含んだ紅茶は渋みばかりで、美味しいとは感じなかった。
朝、起きて食堂に向かうと、いつもより寮生が多かった。それに、みんなの雰囲気がなんとなくうきうき、ふわふわしていて、いつものようなぴりぴり感がない。
はて、何かあったっけ? と思いながらユーナは朝食を採った。
「おはようございます」
食事が終わったところで声をかけられる。アンナだった。彼女は周囲に引きずられるこよなく、普段と変わらない。
「おはよう」
「こんなにゆっくりで、大丈夫なんですか?」
「えと。何が?」
ユーナは全く思い当たらない。
「今日から『学館祭』ですよ?」
アンナは少し困った顔をした。
「あー、なるほど。それでみんな落ち着きがないのね……ん?」
なにか、引っかかる。何かを忘れているような気がする。
『学館祭』。
近隣の村や街からも人が集まって開催される、盛大な祭。去年は特にやることもなく、ぶらぶらと見物をするだけだった。食べ物、本屋など、ありとあらゆる種類の出店、館生も街の住民も一体になって行われるパレード、卒業試験。それから……
「あっ!」
思い当たった。
「争奪戦だった!」
ユーナは叫びながら勢いよく立ち上がり、周囲の注目を浴びる。
「やばい、完全に忘れてた……」
「そうだと思いました」
アンナは呆れ気味。
「確か、今日は午前からだったよね?」
「そうです」
3日間開催される『学館祭』の中で、金鷲旗争奪戦は、1日目に1回戦から2回戦、2日目に3回戦から準決勝、3日目に決勝が行われる。
「ですが、ユーナさんの出番はお昼頃ですから、まだ時間はありますよ」
「……うん」
適当にやってすぐに負けてしまおうか。などと考えてみたりする。『赤色探し』の方がもう少しでどうにかなりそうな気がしている。クリスの『自分の赤』も発見できたことだし、後は自分の分を探し出せれば課題をクリアできる。もう一歩。そんな気がしている。
しかし、それでは対戦相手に失礼に当たる。それに、実力ならまだしも、わざと負けるようなことは、やりたくない。
「仕方ない! やるか!」
ユーナは両の頬をばしっと叩いて気合いを入れる。
「それてこそユーナさんです。お手伝いします」
アンナも胸の前で拳をぐっと握り込む。なぜか、アンナも気合いが入ったようだ。




