ラブコメ?なのか??
依頼を終えた三人は、夕方には街へ戻ってきた。
門をくぐると、通りは仕事を終えた人たちで賑わっていた。
露店からは肉を焼く匂いが漂い、あちこちから客を呼び込む声が聞こえてくる。
「腹減ったな」
カズキが呟く。
「先にギルドよ。依頼の報告があるでしょ」
レナが即座に言った。
「ちょっとくらいいいだろ」
「駄目。報告して、お金もらって、それから」
「レナさん、しっかりしてますね」
サクラが感心したように言う。
「こいつ放っておくと何するか分からないから」
「俺、そこまで信用ない?」
「今日一日で剣を折って、魔物を地面に埋めて、岩を砕いた人をどう信用しろっていうのよ」
「最後のは手加減しただろ」
「手加減して岩を砕いたんでしょうが」
言い返せない。
三人は人混みの中を歩いていく。
「それにしても……」
カズキは自分の手を見た。
《手加減 Lv.1》
せっかくレベルが上がって覚えた、初めてのスキル。
それが、まさかほとんど意味がないとは思わなかった。
「次にレベル上がったら、もうちょっとまともなの欲しいな」
「贅沢言わないの」
「普通は火の魔法とか剣技とか覚えるもんじゃないの?」
「知らないわよ、そんな普通」
「せめて手加減Lv2になれば――」
「前見て歩きなさい」
「見てるって」
そう言った瞬間だった。
前を歩いていた男が、不意に横へ避けた。
その向こうから、小さな子供が飛び出してくる。
「うわっ!」
カズキは慌てて足を止めた。
止めた。
つもりだった。
子供を踏まないよう、反射的に地面を強く蹴る。
身体が横へ飛んだ。
「え?」
「ちょっ――」
そこにいたのはレナだった。
ぶつかる。
「きゃっ!」
二人まとめて倒れた。
カズキは咄嗟に手をつく。
石畳がミシッと鳴った。
「…………」
「…………」
近い。
ものすごく近い。
目の前にレナの顔がある。
カズキの腕の中に、すっぽりとレナが収まっていた。
「……カズキ」
「はい」
「どきなさい」
「はい」
起き上がろうとする。
ところが。
「痛っ」
レナが顔をしかめた。
「どうした?」
「髪! 踏んでる!」
「ご、ごめん!」
慌てて身体をずらす。
「きゃっ!」
今度はレナの身体が傾いた。
カズキが支える。
支えようとした。
手に柔らかい感触。
「…………」
「…………」
レナが自分の胸元を見る。
カズキも見る。
「…………」
「…………」
バシン!
乾いた音が通りに響いた。
「事故だ!」
「どこ触ってんのよ!」
「だから事故だって!」
「二回も事故る!?」
「知らねえよ!」
頬を押さえながらカズキが立ち上がる。
あ、今回は補正ないのね。
周囲から視線が集まっていた。
笑っている男までいる。
最悪だ。
「カズキさん」
背後からサクラの声がした。
振り返る。
サクラが、なんとも言えない顔でこちらを見ていた。
「違うぞ」
「まだ何も言ってませんけど」
「今のは事故だからな」
「はい」
「本当に事故だから」
「分かりました」
「その顔、絶対分かってないだろ!」
レナが服についた埃を払いながら立ち上がる。
顔が赤い。
「もう行くわよ」
「俺が悪いのか?」
「悪い」
「子供避けただけだぞ?」
「その後よ!」
「だから事故だって!」
レナは答えず、ずんずん先へ歩いていった。
サクラもその後を追う。
だが、数歩進んだところで振り返った。
「カズキさん」
「なんだよ」
「早く行きましょう」
「ああ」
サクラは少しだけ笑っていた。
絶対に面白がっている。
カズキはため息をついて二人を追いかけた。
「なんなんだよ、今日は……」
もちろん、その答えを知る者はここにはいなかった。




