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はじめての異世界転生、ステータス補正で無双する!  作者: 若菜みかん


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6/19

千八百四十倍らしいが、パンは普通に食べられる

「まだ買う気なの!?」


レナの声が、森に響いた。


カズキは折れた丸太を見る。


「いや、丈夫なやつなら使えるかと思って」


「先に力を何とかしなさいよ」


それはそうだ。


剣を買う。


振る。


折れる。


借金が増える。


このままでは、働くほど貧しくなる。


「……で、その行動補正って何なんだ?」


サクラへ向き直る。


サクラは、少し困った顔をしていた。


「行動に応じて、力を補う加護だと思います。ただ、ここまで倍率の高いものは初めてなので……」


「詳しくは分からない?」


「はい。すみません」


「いや、何も分からなかった時よりは助かる」


少なくとも、原因らしきものは見つかった。


ステータスが間違っていたわけではない。


普通の数字に、普通ではない何かがついているらしい。


「でも、千八百四十って」


レナが首を傾げる。


「半端な数字ね」


「俺に聞かれてもな」


神様は、そんな説明をしていなかった。


好きに生きろとは言われた。


枝の扱いに気をつけろとは言われていない。


そこは教えてほしかった。


カズキは足元の角ウサギを拾った。


「……これ、持ってて大丈夫なのか?」


今さら心配になった。


サクラが手元を見る。


瞳に、また淡い光が浮かんだ。


「今は、働いていないようです」


「加護が?」


「はい」


レナも角ウサギを見る。


「そういえば、パンも普通に食べてたわね」


「ああ」


千八百四十倍の力で、パンを握る。


想像してみる。


朝飯が粉になる気がした。


「食事はできるんだな」


「そこができなかったら大変よ」


本当にそうだ。


二度目の人生で、まず食事の心配をするとは思わなかった。


---


いつまでも森で話しているわけにもいかない。


三人で街へ戻ることになった。


サクラも、神殿へ報告する前にギルドへ寄るという。


「トロルがここまで下りてきていることは、伝えておいた方がいいと思いますので」


「助かるわ。私たちだけだと、また説明に時間かかりそうだし」


レナがこちらを見る。


「俺、ちゃんと説明しただろ」


「小石でオーク倒しました、たぶん、って?」


「……あれは少し悪かった」


道中、サクラは時々カズキの足元を見ていた。


気になる。


「今は?」


「働いていません」


少し早足になってみる。


「これでも?」


「はい」


「普通ね」


レナが横から言った。


「ああ。普通だ」


ちょっと嬉しい。


「走ってみますか?」


サクラが言った。


カズキとレナは、同時に足を止めた。


「……ここで?」


「何かあった時に分かるかもしれません。ただ、危ないようでしたら――」


「やるなら、少しだけよ」


レナが道の先を確認する。


人も馬車もいない。


道はしばらく、まっすぐ続いている。


「角ウサギ、預かる」


「頼む」


カズキは荷物を渡した。


軽く走る。


それだけだ。


逃げるわけでもない。


急いで誰かを助けるわけでもない。


二、三歩だけ。


カズキは、ゆっくり足を踏み出した。


一歩。


二歩。


少し弾むように走る。


景色は消えない。


地面も割れない。


「……お?」


振り返る。


二人とも、すぐ近くにいた。


「走れた」


「見れば分かるわよ」


「普通に走れたぞ」


サクラが頷いた。


「今も、加護は働いていませんでした」


なるほど。


走ったら必ず飛び出す、というわけではないらしい。


カズキは元の場所へ戻った。


「じゃあ、何が違うんだ?」


レナが指を折る。


「最初はゴブリンに襲われた時でしょ。その次はオークから逃げた時」


「それから、レナを助けに戻った時か」


「あとは小石と剣と、さっきのトロルですね」


サクラが続ける。


どれも、何かをどうにかしようとしていた。


いや。


パンを食べるのも、空腹をどうにかするためではある。


考え始めると分からなくなる。


「危ない時だけ?」


「訓練用の人形は危なくないでしょ」


「そうだった」


あいつは立っていただけだ。


剣と一緒に壊してしまった。


サクラが少し考える。


「強く意識した時に、働くのでしょうか。倒そうとか、逃げようとか」


「……かもしれないな」


枝を振った時も、ただ振る練習をしていたわけではない。


ゴブリンを追い払いたかった。


「では、あちらの石に向かって――」


サクラが道端を指しかけた。


レナがその手をそっと下ろす。


「今日はやめときましょう」


「……そうですね」


二人とも、遠くの森を見ていた。


賛成だった。


---


街へ戻ると、ギルドにはまだ同じ受付嬢がいた。


こちらに気づいて、顔を上げる。


「お帰りなさい。調査はいかがでしたか?」


「ゴブリンと角ウサギの足跡が多数。ほとんど森の外へ向かってたわ」


レナが依頼書を広げる。


「それと、入口の近くにトロルが一体」


受付嬢の手が止まった。


「トロルですか?」


「ええ。場所はここ」


「分かりました。すぐに討伐の手配を――」


「倒してあるわ」


受付嬢がレナを見る。


レナがカズキを見る。


受付嬢もカズキを見る。


「……貸し出し用の剣なら、もうありませんよ?」


「借りに来たんじゃないです」


先に言われた。


少し悲しい。


サクラが横から会釈する。


「神殿のサクラです。私も現場を確認しました。トロルが倒れていたのは確かです」


受付嬢が姿勢を正した。


「神殿の方でしたか。ありがとうございます。それでしたら、回収と確認を手配します」


話が早い。


やっぱり、ちゃんとした人が一緒だと違う。


「私だってちゃんと報告してるんだけど」


レナが小さく呟いた。


顔に出ていたらしい。


受付嬢は依頼書を確認し、銀貨を一枚置いた。


「こちらが調査の報酬です。トロルの討伐と素材については、確認が済んでから精算いたします」


銀貨一枚。


初めて稼いだ、この世界の金だ。


カズキは少しだけ背筋を伸ばした。


森を調べて。


魔物に会って。


ようやく収入になった。


受付台の銀貨へ手を伸ばす。


その前に、レナが受け取った。


「じゃあ、分けるわよ」


「分ける?」


「二人で受けた依頼でしょ」


「ああ、そうか」


銀貨一枚を、そのままもらえるわけではなかった。


レナは受付で銅貨に替えてもらい、半分ずつに分けた。


「アンタの分、銅貨五十枚」


「おお」


「返済に回す?」


差し出された銅貨を見る。


これを返しても、まだ銀貨二枚と銅貨五十二枚。


先は長い。


そのとき。


腹が鳴った。


レナが手を止める。


サクラもこちらを見る。


「……少し残していいか?」


「そうしなさい」


---


ギルドの隅には、食事のできる場所があった。


煮込みとパンで、銅貨五枚。


カズキは自分の取り分から十五枚を抜いた。


「三人分、頼んでいいか?」


レナが眉を上げる。


「返済は?」


「残りは返す。その前に、一食くらい」


レナには、ここまで連れてきてもらった。


サクラには、加護を視てもらった。


何より、自分が腹ぺこだった。


「私もよろしいんですか?」


サクラが聞く。


「ああ。手も治してもらったし」


「それ、私の手だけど」


「じゃあ、レナがおごるか?」


「アンタが言い出したんでしょ」


三人で席に着いた。


しばらくして、湯気の立つ皿が運ばれてくる。


肉と豆の煮込み。


パン。


水。


ちゃんとした食事だった。


カズキはスプーンを手に取る。


すくう。


口へ運ぶ。


うまい。


スプーンも曲がらない。


「……よかった」


「何が?」


「普通に食える」


レナは呆れた顔をしたが、何も言わなかった。


サクラが、煮込みをひと口食べてから口を開く。


「カズキさん。明日、神殿へ来ていただけませんか?」


「神殿?」


「加護について調べたいんです。記録に、何か手がかりがあるかもしれません」


それはありがたい。


このままでは、新しい剣も買えない。


「分かった。行くよ」


「ありがとうございます」


サクラが頭を下げる。


レナはパンをちぎりながら頷いた。


「私も行くわ」


「いいのか?」


「見張るって言ったでしょ」


そうだった。


しばらくは、一人で枝も拾えそうにない。


カズキはもうひと口、煮込みを食べた。


温かい飯がある。


明日の予定もできた。


借金は少し返せる。


いろいろあったが、何とかなりそうだ。


そこで、レナがふと思い出したように聞いた。


「そういえばアンタ、今夜どこに泊まるの?」


スプーンが止まった。


「…………」


考えていなかった。


手元に残る、銅貨三十五枚を見る。


返すつもりで、きれいに積んでおいた金だ。


レナもそれを見る。


「……返済、明日からでもいい?」


「まず宿を取りなさい」

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