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はじめての異世界転生、ステータス補正で無双する!  作者: 若菜みかん


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4/20

ちょっと木が減っただけ。森に街道ができていた

「ちょっと木が減ったって何よ」


ギルドの受付で依頼書を受け取った直後、レナがじとっとした目でカズキを睨みつけていた。


「何本?」

「数えてない」

「数えられないくらい?」

「……現場を見た方が早いと思う」

「一番聞きたくない答えなんだけど」


受付嬢は、首を傾げながら依頼書の内容を説明してくれた。


「今回の依頼は、森の入口付近の調査です。魔物を見かけた場所と、種類、数を報告してください」

「倒さなくていいのか?」

「はい。危険な魔物がいた場合は、近づかずに戻ってくださいね」


それは助かる。

これ以上、何かを壊すのは避けたい。特に借り物は。


「報酬は銀貨一枚です」

「剣一本の三分の一か……」


初めて、この世界の金の価値が少し分かった。

三回働いて、ようやく貸出用の剣一本分。さっきの一振りは高すぎた。


「行くわよ」

レナが依頼書を丸めてポケットに突っ込む。

「まずはアンタの『ちょっと』を確認するから」


ギルドを出て、北門へ向かう。

ふと、レナがカズキの腰元を見て眉をひそめた。


「……で、アンタの武器は?」

「ない」

「ないじゃないでしょ! 調査とはいえ外に行くのよ!?」

「さっきの鉄剣で銀貨三枚飛んだんだぞ。新しい武器を買う金なんてどこにある」

「うっ……それはそうだけど」

「ま、何か落ちてたら拾うよ。木の枝とか、石とか」

「小石でオーク貫通するやつが言うと洒落にならないのよ!」


そんな言い合いをしながら、北門の手前でレナが露店のパンを二つ買った。

そのうち一つを、カズキへ差し出す。


「ほら」

「いいのか?」

「空腹で倒れられても困るし」

「ありがとう」


受け取って、ひと口かじる。

少し硬いが、素朴な小麦の味がしてうまい。

そういえば、転生してから何も食べていなかった。森を吹き飛ばし、オークを倒し、剣を折って、ようやく朝飯だ。


「これも貸しだからね」

「……ちなみに、いくら?」

「銅貨二枚」

「銀貨だと?」

「一枚で銅貨百枚よ」


借金が細かく増えた。忘れないようにしておこう。


「レナは食べないのか?」

「食べてるでしょ」


見ると、レナは小さくちぎったパンを器用に口へ運んでいた。

ただ、右手を少し動かしにくそうにしている。


「……手、大丈夫か?」

「誰の顔のせいだと思ってるの」

「俺です」

「次からは避けなさいよ」

「叩かれる前提なんだな」


門を抜けて街道へ出る。

カズキは自分の足元を確かめるように、少し早足で歩いてみた。


(やっぱり、普通だ)


歩いても地面は割れないし、景色が消し飛ぶこともない。

人を殴ろうとしたり、逃げようとしたり、明確な『目的行動』になった時だけあの異常な出力が出る。

普段の生活では、なぜか世界の常識通りの力しか出ないらしい。


「早く手加減ってやつを覚えないと、破産するな」

「アンタ、もう借金王だからね。肝に銘じなさい」


そんな軽口を叩き合っているうちに、目的地へ到着した。

見覚えのある草原。見覚えのある茂み。

そして。


「あ」

カズキは足を止めた。

「ここだ」


レナも止まる。

しばらく、何も言わなかった。


二人の目の前には、森を一直線に切り開いたような道が続いていた。

地面は浅くえぐれ、両脇に折れた木々が積み重なり、はるか奥の山肌まで筒抜けで見通せる。


レナが右を見る。

左を見る。

最後に、カズキを見る。


「木が減った?」

「うん」

「森に道ができてるじゃない!!」

「歩きやすくはなったな」

「感想を聞いてるんじゃないの!」


レナは額に手を当て、深くため息をついた。


「何をしたの」

「ゴブリンが出たから、枝を振った」

「枝?」

「枝」

「どのくらい大きな?」


カズキは両手で長さを示した。

レナはその手と、森を貫く更地を交互に見比べる。


「それで、これ?」

「俺もびっくりした」

「びっくりで済ませないで」


ごもっともだ。

レナはため息を飲み込み、しゃがんで地面の跡を調べ始めた。

折れた草に触れ、土を指でつまみ、近くの茂みを覗き込む。

さっきまでの態度とは一変して、鋭い目つきだ。


「何か分かるのか?」

「足跡くらいはね」

「おお。盗賊っぽい」

「盗賊なの」


レナが、泥のついた葉を指さした。


「ゴブリンが二匹、森から出てきてる」

「そうそう」

「で、ここにアンタがいた」

「すごいな」

「そこから先がないのよ」


レナは立ち上がり、何もなくなった空間を見つめた。


「足跡ごと」

「ああ……」

「感心してないで、周り見てて。まだ魔物がいるかもしれないから」


カズキは慌てて顔を上げた。

今回は調査に来たのだ。


「分かった。何か出たら――」

足元の枝へ手を伸ばしかける。

「拾わない!」

即座に止められた。


しばらく、森の縁に沿って歩いた。

レナは何度も足を止め、そのたびに依頼書の裏へ印をつけていく。


「ゴブリン。それから、こっちは角ウサギね」

「角ウサギ」

「見たことない? ウサギに角が生えた感じ」

「分かりやすいな」


レナは倒れた木をまたぎ、その向こうでしゃがんだ。


「……やっぱり多いわね」

「足跡か?」

「うん。しかも、ほとんど森の外へ向かってる」


カズキは背後を見た。

自分が作った、やたら見通しのいい直走路。


「あの音で逃げたのか?」

「今日の分はそうかもしれないけど、これはもっと前よ。街道でオークが出たのもそう。……何か、山の奥で魔物を押し出してるものがあるのかも」

「じゃあ、全部俺のせいってわけじゃないんだな」

「今日の分は反省して」

「はい」


そのとき。

近くの草が、かすかに揺れた。


レナが指を口元に当てる。

草の間から白い耳、丸い顔、そして短い一本の角。


「あれが――」

言い終わる前に、レナがカズキの服を引いた。

白い塊が足元をすり抜け、そのまま背後の木に突き刺さる。コツンッ、と鈍い音がして角が抜けなくなった。


レナが素早く回り込み、短剣を一度だけ振るう。

角ウサギが動かなくなった。


「おお……ちゃんと冒険者なんだな」

「アンタ、私を何だと思ってたの?」

「よく怒る人」

「……」

「頼りになる人です」

「遅い」


短剣を拭いてから、レナは獲物を持ち上げた。

「これは持って帰るわよ。角も肉も売れるから」

「それ、俺が持つよ」

「……そっとね」

「分かってる」


両手で受け取る。

潰れない。飛ばない。ちゃんと持てた。

レナも、少しだけ肩の力を抜く。


「普通に荷物は持てるのね」

「今のところは」

「そこは言い切ってほしかったわ」


それから少し奥へ進んだところで。

地響きのような、低い音が聞こえてきた。


ドン。


二人とも足を止める。

風の音ではない。重い何かが、地面を踏みしめる音。


ドン。


レナの顔から、完全に血の気が引いた。


「……戻るわよ」

「何かいるのか?」

「いる」


レナがゆっくりと後ずさる。

その視線の先。大木の幹に、巨大な緑色の手がかかっていた。

指一本が、カズキの腕ほどもある。


木々を押し分け、現れたのは巨躯の怪物だった。

潰れた鼻に、突き出た下顎から伸びる二本の太い牙。

オークより遥かに巨大な体躯に、手には根のついた丸太をぶら下げている。


「……あれ、ゴブリンの親か?」

「トロルよ……! なんでこんな浅い場所に……!」


トロルがふいに鼻を鳴らし、目を向けた。

その視線は、カズキの手元――血の滴る角ウサギで止まる。


「グオオオオオッ!!」


森が震えるような咆哮。


「走って!」

レナが叫ぶ。


カズキは反射的に足へ力を込めかけた。

だが――街道でのことを思い出す。

ここで全力で走れば、自分だけが数十メートル先へ吹き飛ぶ。レナを置き去りにして。


(……逃げられない)


カズキは踏みとどまり、角ウサギを近くの切り株へそっと置いた。


「カズキ!?」

「俺だけ逃げたら、また怒るだろ」

「一緒に逃げればいいでしょ!」

「それがまだ難しいんだよ」


トロルが雄叫びを上げ、根付きの丸太を大きく振り上げた。

カズキは足元を見る。

枝がある。石もある。

だが、その向こうにはレナがいる。小石を弾いて外せば、余波でレナまで吹き飛ばしかねない。


カズキは何も拾わず、すっと両手を前に構えた。


「……何してるの?」

「武器、壊すと高いから」

「自分の心配をしなさいよ!!」


轟音とともに、巨大な丸太が頭上から振り下ろされた。

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