異世界の銭湯
「あんた、血なまぐさいから寄らないでよ」
レナはカズキをにらみながら言った。
「えー、血まみれの棒を握っただけなのに?」
「そういえば、みんな血なまぐさいですね……」
カズキの返事に、サクラがかぶせた。
「しょうがないわね。早く宿に戻りましょう」
一行は帰路を急いだ。
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「申し訳ございません。お風呂が今日は使えませんので、銭湯へ行ってもらえますか?」
宿屋のお姉さんは申し訳なさそうに告げた。
「へー、この世界にも銭湯ってあるんだ」
「まあ、あるにはあるけどね」
「ええ、ありますわね」
「はい、あります」
「どうしたんだ、三人とも。歯切れが悪いなぁ」
「カズキ! あんた今日は外で水でも浴びてなさい」
「ひどい! 俺たちパーティーだろ! なんで風呂にも入れないんだよ!」
「もう、分かったわよ!」
三人は無言で銭湯へ向かった。
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「はい、四人ですね。どうぞごゆっくり」
受付のおばあさんにお金を渡すと、奥へ行くよう促された。
「あれ? 入口が一つ……もしかして」
「そのもしかしてよ! 近寄らないでよ!!」
「そうなんです。混浴なので、若い女性はあまり利用しないんですよ」
サクラから嬉しい情報が飛び出した。
「まったく、これだから庶民は」
「あんたも庶民でしょ」
ニーナのぼやきに、レナがすかさず突っ込む。
カズキはニヤニヤしながら、二人の会話を聞いていた。
「先に行きなさい」
「え、みんなで行こうよ」
「さ・き・に・い・け!!!」
「はい……」
レナの圧に負けて、カズキは先に風呂へ入った。
「はぁー。でかい湯船なんて久しぶりだな」
手足を伸ばす。
温かい湯が、戦いで疲れた身体に染み込んでいく。
しばらくすると、タオルを厳重に巻いた三人が入ってきた。
レナの目が『こっちを見たらコロス』と言っているようだったので、カズキはそっと目をそらした。
「はぁ、まったくしょうがないわね」
「そうですわね」
「まったくですね」
三人のぼやきは、湯気の中へ溶けていった。
やはり、大きなお風呂はいいものだ。
しばらく湯に浸かっていたカズキだったが、さすがに居心地が悪くなってきた。
「さて、俺はもう出るよ」
カズキは湯船から立ち上がった。
その瞬間。
「おっと……」
少しのぼせたのか、ふらりと身体が揺れた。
そこへ、ちょうど風呂場を走っていた子供がぶつかってくる。
「うわっ!」
よろける。
目の前には三人。
カズキは、とっさに何かを掴んだ。
「え?」
それは。
タオルだった。
「きゃああああああああ!!」
風呂場に、三人の悲鳴が響き渡った。
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「あんたね! 予想通りの展開じゃない! この馬鹿!」
「しょうがないですね、カズキさんは」
「と、殿方に触られた……」
三者三様の反応を味わったカズキは、
――異世界万歳。
と、心の中で叫んだ。
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銭湯からの帰り道。
「見たの?」
レナが短くカズキに尋ねた。
「バッチリ!」
ポカッ。
「この変態が!」
頭を押さえるカズキ。
二人のやり取りを微笑ましく見ていたサクラが、ふと何かに気づいたように足を止めた。
「……もしかして」
「ん?」
「ちょっとカズキさん。隠しステータスを確認しますね」
「え?」
サクラはカズキのステータスを確認する。
そして。
「ああ、やっぱりですね」
「何が?」
「隠しステータスが増えています」
「え!? また俺、強くなるの?」
「いえ。分かりませんが……」
サクラは首を傾げた。
「《お約束》とあります」
「お約束?」
レナも覗き込む。
「何よ、それ」
「補正値もレベルもありません。ただ、《お約束》とだけ……」
「…………」
カズキは考えた。
混浴。
立ちくらみ。
偶然ぶつかってきた子供。
そして。
掴んでしまったタオル。
「じゃあ……」
カズキの顔が、みるみる明るくなる。
「このラッキースケベ展開は、お約束だったのか!」
両手を突き上げる。
「異世界最高――!」
ポカッ!
「喜ぶな! この変態!」
「痛っ!」
レナは大きなため息をついた。
「はぁ……つくづく変なスキルね」
サクラは《お約束》の文字を眺めながら、首を傾げている。
ニーナは顔を真っ赤にしたまま、カズキから距離を取っていた。
「……最低ですわ」
「俺、何もしてないのに!?」
「バッチリ見たと言ったでしょう!!」
三人の声が、夜の街に響いた。
カズキの隠しステータスに、新たな謎が加わった。
《お約束》。
それが何を意味するのか。
この時のカズキは、まだ知らなかった。
「……次は何が起きるんだろうな」
「期待するんじゃない!!」




