没落貴族、Fランクになる
「冒険者登録をしますわ!」
翌朝。
冒険者ギルドの受付に、ニーナの声が響いた。
受付嬢が顔を上げる。
「おはようございます。登録ですね」
「ええ!」
ニーナは胸を張った。
「ニーナ・アルセリアですわ!」
「はい。では、こちらに必要事項をご記入ください」
「…………」
「どうされました?」
「……それだけですの?」
「はい?」
ニーナが受付台に手を置いた。
「アルセリア家の長女ですわよ?」
「はい」
「剣術の心得もありますわ!」
「はい」
「昨日は村を襲った魔物の群れとも戦いましたのよ!」
「それは大変でしたね」
「……もう少し驚いてくださらない!?」
受付嬢が困ったように笑った。
「申し訳ありません。冒険者登録は、皆さん同じ手続きですので」
「まあ!」
少し離れた場所で、カズキはその様子を眺めていた。
「大変そうだな」
「アンタもあんな感じだったわよ」
レナが言った。
「俺は普通だっただろ」
「鉄剣折った」
「あれは登録の後だろ!」
「大して変わらないわよ」
サクラが微笑む。
「ニーナさん、頑張ってください」
「何を頑張ればよろしいんですの!?」
まずは書類らしい。
---
しばらくして。
ニーナは登録用の水晶の前に立っていた。
「こちらに手を置いてください」
「分かりましたわ」
ニーナが水晶に触れる。
淡い光が広がった。
受付嬢が表示を確認する。
「はい。問題ありませんね」
「どうですの?」
「剣術の適性があります。魔力も平均より少し高いですね」
「当然ですわ!」
ニーナが得意げに笑う。
「幼い頃から鍛えてきましたもの!」
「では、冒険者ランクはFからの開始となります」
「…………」
「…………」
「…………」
ニーナの笑顔が止まった。
「……えふ?」
「Fランクです」
「一番下の?」
「はい」
ニーナがゆっくり振り返る。
カズキを見る。
「あなたは?」
「Fランク」
「レナさんは?」
「私はEランクよ」
「サクラさんは?」
「私もEランクです」
ニーナは再び受付嬢を見る。
「つまり」
「はい」
「わたくしは、この方と同じランクですの?」
カズキを指さした。
「そうなりますね」
「納得できませんわ!!」
ギルド中に声が響いた。
「なんでだよ!」
カズキも叫ぶ。
「俺だってゴーレム倒したぞ!」
「ゴーレム!?」
ニーナが振り返る。
「昨日、ダンジョンで」
「あなたが!?」
「三人でな」
ニーナはレナを見る。
レナは頷いた。
「本当よ」
サクラも頷く。
「核を壊したのはカズキさんです」
「…………」
ニーナがカズキを見る。
「どうやって?」
「指で押した」
「…………」
「そっと」
「…………」
ニーナは受付嬢へ向き直った。
「この方、本当にFランクですの?」
「現在、討伐報告の確認中です」
「確認中!?」
「確認が済めば、ランクの再審査も検討されます」
「…………」
ニーナは少し考えた。
そして。
「では、わたくしもゴーレムを倒せばよろしいんですのね!」
「やめなさい!」
レナが即座に止めた。
---
登録を終えたニーナは、真新しい冒険者証を眺めていた。
「……Fランク」
「俺とお揃いだな」
「お揃いではありませんわ!」
「同じ文字だぞ」
「見れば分かります!」
カズキは自分の冒険者証を取り出した。
二枚を並べる。
「ほら」
「並べないでくださいませ!」
レナがため息をついた。
「ランクなんて、依頼をこなせば上がるわよ」
「そうですわね」
ニーナが顔を上げる。
「では、さっそく依頼を受けましょう!」
「切り替え早いな」
「当然ですわ!」
ニーナは掲示板へ向かった。
カズキもついていく。
「ドラゴン討伐とかあるかな」
「ドラゴン!?」
ニーナの目が輝いた。
「ありますの!?」
「ないわよ!」
レナが二人の襟を掴んだ。
「なんで!?」
「なんでですの!?」
「アンタたちを自由にしたら、ギルドが何個あっても足りないわ!」
サクラがくすくす笑う。
「レナさん、大変ですね」
「他人事みたいに言わないで!」
---
結局。
四人が選んだのは、街の外にある草原での討伐依頼だった。
【フェザーバード討伐・羽の採集】
「鳥?」
カズキが依頼書を見る。
「そうよ」
レナが頷く。
「尾羽が装飾品に使われるの。傷のないものなら高く売れるわ」
「へえ」
「だから、羽を傷つけないように倒すのよ」
「なるほど」
カズキは自分の拳を見る。
「……俺、向いてなくない?」
「やっと自覚したのね」
ニーナが依頼書を覗き込む。
「でしたら、わたくしにお任せくださいませ!」
「ニーナが?」
「剣術には自信がありますもの!」
「羽に傷をつけないで倒せる?」
「…………」
ニーナが黙った。
レナがため息をつく。
「だから、今回は私が仕留める。サクラが動きを止めて、ニーナは逃げ道を塞いで」
「俺は?」
「荷物持ち」
「また!?」
「アンタが一番向いてるでしょ」
否定できなかった。
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街から歩いて三十分。
草原に到着した。
風が気持ちいい。
遠くには森が見える。
そして。
「あ、いた」
草の間から、鮮やかな青い尾羽が飛び出していた。
フェザーバードだ。
大きさはニワトリほど。
丸々とした身体に、長い尾羽。
見た目は少しかわいらしい。
「きれいだな」
カズキが呟く。
「見た目だけね」
レナが短剣を抜いた。
「くちばしで突かれると結構痛いわよ」
サクラが杖を構える。
「では、動きを止めますね」
淡い光が伸びる。
フェザーバードの足元を包んだ。
動きが止まる。
「今!」
レナが走る。
一撃。
フェザーバードが倒れた。
「おお!」
カズキが拍手する。
「きれいに倒したな!」
「当然よ」
レナが得意げに笑う。
ニーナも頷いた。
「見事ですわ!」
「ありがと」
レナは獲物を持ち上げる。
長い尾羽は、傷一つない。
「ほら。これなら高く売れる」
「なるほどな」
カズキは頷いた。
一撃で倒す。
余計な傷をつけない。
素材採集も、なかなか奥が深い。
「よし」
「何がよしなの?」
「俺もやってみる」
レナの顔が変わった。
「待って」
「大丈夫だって」
「待ちなさい!」
だが。
すでにカズキは、次のフェザーバードを見つけていた。
「いた!」
草むらから飛び出したフェザーバードが、鋭いくちばしを向けて突進してくる。
カズキは拳を握った。
《手加減 Lv.2》
千八百四十倍から、百を引く。
千七百四十倍。
「そっと……」
拳を出す。
ポン。
軽く触れた。
その瞬間。
ボフッ!!
「…………」
「…………」
「…………」
青い羽が、空へ舞い上がった。
ふわふわ。
ふわふわ。
風に乗って。
草原いっぱいに広がっていく。
陽の光を受けて、羽がきらきらと輝いた。
「……きれいだな」
カズキが呟く。
レナがゆっくり振り返った。
「カズキ」
「はい」
「尾羽は?」
「…………」
カズキは空を見る。
青い羽が舞っていた。
「……あそこ?」
「採集できる状態で残しなさいよ!!」
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「だから言ったでしょ!」
「手加減したんだよ!」
「千七百四十倍のどこが手加減なのよ!」
「百も減ってるだろ!」
「元が大きすぎるの!」
ニーナが草原に舞う羽を眺めている。
「……すごいですわね」
「だろ?」
「褒めていませんわ!」
サクラがしゃがみ込んだ。
地面に落ちている羽を一枚拾う。
先端が細かく裂けていた。
「これでは、買い取っていただけませんね」
「やっぱり?」
「はい」
カズキは肩を落とした。
「……俺の報酬が」
「自分で粉々にしたんでしょ!」
レナが再び草むらを見た。
「もういい。アンタは絶対に攻撃しないで」
「分かったよ」
「絶対よ」
「分かったって」
ニーナも剣を抜いた。
「今度はわたくしも挑戦しますわ!」
「だから、羽に傷をつけないようにね」
「心得ています!」
サクラが微笑む。
「では、次の一羽を探しましょう」
四人は再び草原を歩き始めた。
カズキは最後尾。
両手には、最初に仕留めたフェザーバード。
「……俺、冒険者だよな?」
レナが振り返る。
「そうよ」
「討伐依頼だよな?」
「そうよ」
「なのに、荷物持ち?」
「素材を残せるようになったら考えてあげる」
「厳しい世界だな……」
ニーナが胸を張った。
「冒険者とは、そういうものですわ!」
「今日登録したばっかりだろ!」
サクラの笑い声が、草原に響いた。
こうして。
四人で初めて受けた討伐依頼は、順調に進んでいった。
ただし。
カズキの討伐数は一羽。
素材の回収数は――。
ゼロだった。




