お嬢様と魔物の群れ
# 第16話 お嬢様と魔物の群れ
「魔物の群れだ!」
集会所に飛び込んできた男が叫んだ。
村人たちが一斉に立ち上がる。
「何匹だ!?」
「分からん! 十匹以上はいる!」
「また畑の方か!」
男が頷いた。
「東の柵を破られた! 今、見張りが食い止めてる!」
ニーナが立ち上がった。
「案内してくださいませ!」
「お嬢様!?」
「早く!」
ニーナは剣を掴み、入口へ向かう。
その背中を、カズキが呼び止めた。
「おい、ニーナ!」
「何ですの!?」
「俺たちも行くぞ」
「……え?」
カズキはレナとサクラを見る。
「いいよな?」
「当たり前でしょ」
「はい。放ってはおけません」
ニーナは三人を見た。
そして、小さく頷いた。
「……お願いしますわ!」
---
村の東側。
畑を囲む木の柵が、何か所も壊されていた。
その向こうから、狼に似た魔物が次々と入り込んでくる。
「ウルフか!」
カズキが声を上げる。
レナが周囲を確認した。
「十二……いや、もっといる!」
「俺がやる!」
カズキが一歩前へ出る。
「待ちなさい!」
レナに襟を掴まれた。
「なんで!?」
「畑!」
「畑?」
「アンタが殴ったら全部なくなるでしょ!」
カズキは周囲を見る。
畑。
家。
柵。
村人。
確かに。
ここで森と同じように戦ったら、魔物より被害を出しかねない。
「じゃあどうすんだよ!」
「考えなさい!」
「またそれか!」
ニーナが剣を抜いた。
「わたくしが前に出ますわ!」
「一人じゃ無理よ!」
「一人ではありませんでしょう!」
ニーナが振り返る。
「あなたたちがいますもの!」
レナが一瞬、目を丸くした。
それから笑う。
「……言うじゃない」
サクラが杖を掲げた。
「では、私が動きを止めます」
「私は横から仕留める!」
レナが短剣を構える。
カズキも拳を握った。
「俺は?」
三人が同時に答えた。
「待機!」
「なんでだよ!!」
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最初の一匹が飛びかかってきた。
「来ます!」
サクラの杖から光が伸びる。
魔物の足に絡みつき、動きを止めた。
そこへレナが走る。
短剣が閃いた。
一匹目。
ニーナも前へ出る。
狼の攻撃をかわし、剣で受け流す。
そのまま、柄で頭を打った。
二匹目が倒れる。
「やるな!」
カズキが声を上げる。
「感心している場合ですの!?」
三匹目。
四匹目。
次々と現れる。
レナとニーナが前に立ち、サクラが後ろから支援する。
だが。
「……多いわね!」
レナが息を吐いた。
森の奥から、さらに魔物が現れた。
「増えてるぞ!」
「見れば分かる!」
「俺、そろそろ何かした方がよくない?」
「村を壊さない方法があるならね!」
カズキは周囲を見る。
畑。
家。
柵。
村人。
そして。
魔物たち。
「……あ」
一つ、思いついた。
「レナ!」
「何!?」
「俺、村の外に出る!」
「は!?」
「魔物を外に集めればいいんだろ?」
レナが動きを止めた。
「……どうやって?」
「俺が囮になる」
「アンタが?」
「攻撃しなければ補正も出ないだろ」
レナは少し考えた。
「……それなら」
「よし!」
「でも勝手に走らないで!」
「分かってる!」
カズキは村の外へ向かった。
普通に。
走らずに。
---
「おーい!」
カズキが叫んだ。
村の外。
畑から少し離れた、開けた草地。
「こっちだ!」
魔物が振り返る。
一匹。
二匹。
三匹。
「ほら、来い!」
カズキは両手を広げた。
魔物たちが一斉に走り出す。
「おお、来た来た!」
そのまま。
飛びかかってきた一匹を受け止めた。
「よし」
二匹目。
足に噛みつく。
「痛くないな」
三匹目。
背中へ飛びかかる。
「ちょっと重いぞ」
四匹目。
五匹目。
「…………」
気づけば。
カズキは魔物に埋もれていた。
「カズキさん!?」
サクラの声が聞こえる。
「大丈夫!」
魔物の山から手を上げた。
「全然痛くない!」
「そういう問題じゃないでしょう!!」
レナの声が響いた。
カズキは魔物たちを見た。
噛みついている。
引っかいている。
必死だ。
だが。
こちらには傷一つつかない。
「……なんか、かわいそうになってきたな」
「何を言っていますの!?」
ニーナが駆けつけた。
その後ろにはレナとサクラもいる。
「おい、これどうする?」
カズキが聞いた。
「どうするって……」
レナが魔物の山を見る。
「……どうしようかしら」
「考えてなかったのかよ!」
「アンタが勝手に始めたんでしょ!」
「囮になるって言っただろ!」
「囮が全部受け止めるとは思わないわよ!」
サクラが小さく笑った。
「でも、村からは離せましたね」
確かに。
畑の方には、もう魔物の姿がない。
ニーナが村を振り返る。
「……本当ですわ」
村人たちが、壊れた柵の向こうからこちらを見ていた。
「これなら……」
ニーナが剣を握り直す。
「一匹ずつ、倒せますわ!」
「いや」
カズキが言った。
「もう少し簡単な方法がある」
「何ですの?」
カズキは自分に噛みついている狼を見る。
そして。
その首の後ろを掴んだ。
「こうして」
持ち上げる。
「こう」
少し離れた草地へ置いた。
「…………」
狼が唸る。
また飛びかかってくる。
「戻ってくるなよ!」
カズキが受け止める。
「……駄目か」
レナが額を押さえた。
「何やってるのよ……」
「逃がそうと思って」
「逃げるわけないでしょ!」
サクラが魔物たちを見た。
「……カズキさん」
「何?」
「少しだけ、威嚇してみてはどうでしょう?」
「威嚇?」
「はい。攻撃ではなく、怖がらせるだけです」
カズキは考えた。
倒す。
殴る。
吹き飛ばす。
それは駄目だ。
でも。
「追い払う、なら?」
サクラが頷いた。
「試してみましょう」
カズキは魔物を一匹ずつ身体から引き離した。
そして。
立ち上がる。
「お前ら」
魔物たちが唸る。
カズキは一歩前へ出た。
「もう村に来るなよ」
強く。
そう思った。
その瞬間。
ドンッ!!
足元の草が、一斉になぎ倒された。
「うわっ!?」
カズキ自身が驚いた。
魔物たちが硬直する。
一匹が尻尾を巻いた。
そして。
逃げた。
二匹目。
三匹目。
次々と森へ走っていく。
あっという間に。
草地には、誰もいなくなった。
「…………」
「…………」
「…………」
カズキは自分の足元を見る。
草が、きれいに倒れている。
「……威嚇、できた?」
レナがゆっくり近づいてきた。
「できたわね」
「だろ?」
「地面がちょっとへこんでるけど」
「ちょっとだろ」
「ちょっとね」
サクラが微笑んだ。
「今回は、村も無事です」
ニーナも剣を鞘へ戻した。
「……ええ」
そして。
カズキを見る。
「あなた、やっぱりおかしいですわ」
「褒めてる?」
「褒めていません!」
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村へ戻ると。
村人たちが一斉に駆け寄ってきた。
「お嬢様!」
「ニーナお嬢様!」
「助かったよ!」
ニーナが目を丸くする。
「わ、わたくしだけではありませんわ!」
「分かってるさ!」
老人が笑う。
「みんな、ありがとうな!」
レナが軽く手を振る。
サクラも頭を下げた。
カズキは。
「畑、大丈夫だった?」
「少し荒れたが、何とかなる!」
「よかった」
本当に。
よかった。
今回は、森も割っていない。
街道も壊していない。
村も消していない。
「……成長したな、俺」
「基準が低いのよ!」
レナに突っ込まれた。
ニーナは、そのやり取りを見ていた。
そして。
村人たちへ向き直る。
「皆さん」
声が少し震えていた。
「わたくしは……」
村人たちが静かになる。
「アルセリア家の娘として、この村を守らなければならないと思っていました」
ニーナは一度、目を閉じた。
「ですが」
ゆっくりと。
顔を上げる。
「今日は、わたくし自身が守りたいと思ったから、剣を取りました」
老人が笑った。
「それでいいんだよ、お嬢様」
ニーナの目が少し潤んだ。
「……ありがとうございます」
そのとき。
カズキが口を開いた。
「じゃあ、冒険者になる?」
「どうしてそうなりますの!?」
「いや、剣使えるし」
「昨日も聞きましたわ!」
「向いてると思うけどな」
ニーナが黙った。
レナを見る。
サクラを見る。
そして。
カズキを見る。
「……あなたたちと?」
「そう」
「…………」
ニーナは少し考えた。
そして。
胸を張った。
「仕方ありませんわね!」
「お?」
「あなたたちだけでは、危なっかしくて見ていられませんもの!」
レナがカズキを見る。
「それは確かに」
「俺?」
サクラが微笑む。
「賑やかになりそうですね」
ニーナは手を差し出した。
「ニーナ・アルセリアですわ。改めて、よろしくお願いします」
カズキはその手を握った。
「カズキだ。よろしく!」
レナも手を重ねる。
「レナよ」
サクラも。
「サクラです」
四人の手が重なった。
こうして。
カズキたちのパーティーに、新しい仲間が加わった。
ただし。
「ところで」
レナが言った。
「ニーナ、冒険者登録は?」
「…………」
「してる?」
「…………」
ニーナが顔を逸らした。
「……これからですわ」
「してないの!?」
カズキが笑った。
「じゃあ、俺と同じFランクだな!」
「一緒にしないでくださいませ!!」
村に、四人の声が響いた。




