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はじめての異世界転生、ステータス補正で無双する!  作者: 若菜みかん


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14/18

没落貴族のお嬢様

「護衛?」


レナが依頼書を見る。


「はい」


受付嬢が頷いた。


「街から北へ半日ほどの場所まで、依頼人を送り届けていただきたいんです」


「半日なら近いな」


カズキも横から依頼書を覗き込む。


目的地。


報酬。


危険度。


特に変わったところはない。


「普通の護衛依頼?」


「そうですね」


受付嬢は少しだけ言葉を濁した。


レナが顔を上げる。


「何?」


「いえ」


「何かあるでしょ」


「……依頼人が少々」


受付嬢が言い終えるより早く。


ギルドの入口が開いた。


「少々、なんですの?」


声がした。


三人が振り返る。


そこに、一人の少女が立っていた。


長い金色の髪。


上等そうな服。


背筋を真っ直ぐ伸ばし、こちらを見ている。


いかにも。


という言葉が、これほど似合う人間も珍しい。


カズキは思わず呟いた。


「お嬢様だ」


「聞こえていますわよ」


「すみません」


少女は三人の前まで歩いてきた。


「あなたたちが、わたくしの護衛ですの?」


「そうみたい」


レナが答える。


少女はレナを見る。


次にサクラ。


そして――。


カズキを見る。


「…………」


「何?」


「あなたも?」


「俺も」


「そうですの」


少女は少し考えた。


そして受付嬢を見る。


「ほかの方はいらっしゃらないの?」


「おい」


「カズキ」


レナに止められた。


受付嬢が困ったように笑う。


「こちらの三名でしたら問題ありません。昨日も地下迷宮の調査を――」


「三名?」


少女が首を傾げる。


「パーティーなのに三人ですの?」


「昨日組んだばっかりだからな」


「昨日!?」


一歩下がった。


「大丈夫ですの!?」


「たぶん」


「たぶん!?」


「カズキ、黙って」


怒られた。


少女は額に手を当てた。


「まったく……」


小さくため息をつく。


「仕方ありませんわね」


「なんか偉そうだな」


「カズキ」


「だって」


少女がカズキを見る。


「わたくしはニーナです」


「ニーナ?」


「ニーナ・アルセリア」


その名前を聞いた受付嬢が、わずかに表情を曇らせた。


ニーナは構わず続ける。


「アルセリア家の長女ですわ」


カズキはレナを見る。


「有名?」


「……昔はね」


ニーナの眉が動いた。


「昔ではありません!」


「じゃあ今は?」


「…………」


ニーナが黙った。


レナも黙った。


サクラが静かに微笑んでいる。


「なるほど」


「何がなるほどですの!?」


どうやら聞いてはいけないことだったらしい。


---


翌朝。


三人は街の北門に集まっていた。


「遅い」


レナが腕を組む。


「まだ時間前だぞ」


「依頼人より遅く来る護衛がどこにいるのよ」


見ると。


ニーナはすでに待っていた。


昨日と同じような服。


その横には、大きな鞄が一つ。


そして。


腰には細身の剣が下がっている。


「剣?」


カズキが聞いた。


ニーナは腰の剣に手を置く。


「当然ですわ」


「護衛されるんだろ?」


「護衛されることと、自分の身を守ることは別です」


「使えるの?」


ニーナの目が細くなる。


「試してみます?」


「やめなさい」


レナが即座に止めた。


「カズキも余計なこと言わない」


「聞いただけだろ」


「アンタが剣の話すると怖いのよ」


「なんで?」


「鉄剣」


「ああ」


納得した。


ニーナが怪訝そうな顔をする。


「鉄剣?」


「気にしないで」


レナは歩き始めた。


「じゃ、行くわよ」


「ちょっと待ちなさい」


「何?」


ニーナが大きな鞄を指さした。


「こちらを」


「こちらを?」


「持ってくださる?」


「…………」


レナがニーナを見る。


ニーナもレナを見る。


「護衛依頼よね?」


「ええ」


「荷物運びとは書いてなかったけど」


「護衛対象の負担を減らすのも仕事ではなくて?」


「違うと思う」


「まあ!」


早くも空気が悪い。


カズキは鞄を持ち上げた。


「俺が持つよ」


「カズキ」


「これくらいなら補正も出ないし」


普通に持つ。


少し重いが、問題ない。


ニーナが満足そうに頷いた。


「あなた、意外と気が利きますのね」


「そう?」


「ええ。見直しましたわ」


「じゃあ剣のこと聞いていい?」


「いいですわよ」


「ちょろいわね、この二人」


レナが呟いた。


---


街道を北へ進む。


天気もいい。


道も整備されている。


今のところ、護衛が必要とは思えないほど平和だった。


「で」


カズキは隣を歩くニーナを見る。


「どこまで行くんだ?」


「アルセリア領です」


「領地持ってるの?」


ニーナが胸を張る。


「当然ですわ」


「没落してるのに?」


「誰が没落したと言いましたの!?」


「レナ」


「私は言ってない!」


少し前を歩いていたレナが振り返る。


「昔は有名って言っただけ!」


「同じ意味ではありませんか!」


「じゃあ、没落してないの?」


「…………」


また黙った。


分かりやすい。


サクラが助け船を出す。


「ご実家へ戻られるんですか?」


「……ええ」


ニーナの声が少しだけ小さくなった。


「少し、確かめたいことがありまして」


「確かめたいこと?」


「あなたたちには関係ありませんわ」


ぴしゃりと言われた。


カズキはレナを見る。


「感じ悪くない?」


「依頼人よ」


「聞こえていますわよ!」


元気はある。


少なくとも、深刻そうには見えなかった。


---


昼を少し過ぎた頃。


道は次第に細くなっていった。


街道から外れ、森沿いの道へ入る。


レナが立ち止まった。


「……いる」


「何が?」


カズキが聞く。


「静かに」


レナが周囲を見る。


サクラも杖を握った。


少し遅れて。


茂みが揺れた。


「魔物です」


三匹。


四匹。


狼に似た魔物が、森から姿を現す。


「ウルフか」


レナが短剣を抜く。


サクラも構える。


カズキは二人を見る。


「ここなら俺がやっていい?」


「待って」


「また!?」


「街道壊すでしょ」


「手加減Lv2だぞ」


「千七百四十倍!」


「覚えてたのか」


「忘れるわけないでしょ!」


狼が低く唸る。


そのうち一匹が地面を蹴った。


狙いは――。


ニーナ。


「危ない!」


カズキが動こうとする。


だが。


ニーナの方が早かった。


剣を抜く。


一歩。


狼の攻撃をかわす。


身体を半歩だけ横へ。


そのまま。


剣が走った。


「ギャンッ!」


狼が地面を転がる。


「……おお」


カズキの足が止まった。


ニーナは剣を構え直す。


「言ったでしょう?」


金色の髪が揺れる。


「自分の身くらい、自分で守れますわ」


二匹目が飛びかかる。


ニーナは剣で受け流した。


「レナ!」


「分かってる!」


横からレナが入り、短剣を振るう。


三匹目。


サクラの光が足を止める。


「カズキ!」


「俺?」


「最後の一匹押さえて!」


「また押さえる係!?」


「道を消したいなら殴っていいわよ!」


「押さえます!」


狼が飛びかかってくる。


カズキはその身体を受け止めた。


攻撃しない。


倒そうとしない。


ただ押さえる。


「よし」


暴れる狼を抱えたまま、レナを見る。


「これどうする?」


「そのまま!」


ニーナが走った。


「え?」


剣の柄が狼の頭へ落ちる。


ゴンッ。


狼の身体から力が抜けた。


「殺さないの?」


カズキが聞く。


「必要ありませんわ」


ニーナは剣を鞘へ戻す。


「追い払えば済む相手でしょう?」


「へえ」


「何ですの?」


「いや」


てっきり。


偉そうで。


わがままで。


荷物を持たせて。


世間知らずのお嬢様だと思っていた。


「ちゃんと強いんだな」


「ちゃんと、とは何ですの!」


「褒めたんだけど」


「まったく褒められた気がしませんわ!」


レナが倒れた狼を確認しながら言う。


「でも、悪くない腕ね」


ニーナが止まった。


「…………」


「何?」


「別に」


「嬉しいなら嬉しいって言えば?」


「嬉しくありませんわ!」


顔は少し嬉しそうだった。


サクラが口元を隠して笑っている。


「何を笑っていますの?」


「いえ。賑やかになったと思いまして」


「まだ依頼人だぞ?」


カズキが言う。


「そうですね」


サクラは微笑んだまま答えた。


「今のところは」


「?」


ニーナが首を傾げる。


その先。


木々の隙間から、小さな村が見え始めていた。


ニーナの表情から笑みが消えた。


「……着きましたわ」


「ここが?」


「ええ」


ニーナは村を見つめる。


かつて。


アルセリア家が治めていた土地。


そして今は――。


「アルセリア家が、失った場所です」


初めて。


ニーナの声から、お嬢様らしい強気さが消えていた。


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