初ダンジョン、攻略完了
## 第13話 初ダンジョン、攻略完了
「全然手加減できてないじゃない!!」
レナの声が地下遺跡に響いた。
カズキは改めて、自分のステータスを見る。
《手加減 Lv.2》
現在の補正値――百。
「でも十から百だぞ?」
「元が千八百四十なのよ!」
「次は千とかになるかもしれない」
「それでも八百四十残るじゃない!」
「じゃあ、その次」
「いつになるのよ!」
サクラが二人の間で困ったように笑う。
「でも、少しずつ使えるようにはなっていますよ」
「ほら」
「サクラは甘やかさないで」
「甘やかしてはいません」
そう言いながらも、サクラは少し楽しそうだった。
カズキはステータスを閉じる。
とりあえず。
ゴーレムは倒した。
ダンジョンも崩れていない。
今回は上出来だ。
「で」
カズキは石の山を見る。
「宝箱は?」
「まだ言うの!?」
---
ゴーレムが崩れたあとを調べる。
幸い、部屋そのものに大きな損傷はなかった。
レナは床や壁を調べ、サクラは古い文字を眺めている。
カズキは――。
「触らない」
「まだ何もしてないぞ」
「宝箱探してるでしょ」
「なんで分かった?」
「顔」
そんなに分かりやすいだろうか。
仕方なく、カズキはゴーレムの残骸を眺めることにした。
「これ、持って帰ったら売れるかな」
「全部?」
「無理か」
石の山だ。
トロル以上に持って帰るのが面倒そうだった。
そのとき。
「カズキさん」
サクラに呼ばれた。
「どうした?」
「これを見てください」
壁の一部。
そこに、何かが刻まれている。
「読めるの?」
「全部は。ただ、神殿で見た古い文字に似ています」
サクラが指で文字をなぞる。
「封印……守護……」
「封印?」
「おそらく、このゴーレムは何かを守っていたんだと思います」
カズキは石の山を見る。
「じゃあ、壊しちゃまずかった?」
「襲ってきたんだから仕方ないでしょ」
レナが即答した。
それもそうだ。
「ただ」
サクラは壁の亀裂を見る。
「この遺跡自体が、かなり古くなっています。どこかが崩れて、山の中と繋がってしまったのかもしれません」
「それで魔物がこっちへ?」
「可能性はあります」
レナが足跡を確認する。
「ゴーレムが動き始めて、ここにいた魔物が逃げた。逃げた魔物に押されて、その先の魔物も山から下りてきた……」
「トロルも?」
「たぶんね」
カズキは頷いた。
ようやく話が繋がった。
最近、街の近くで魔物が増えていた。
森の浅い場所にトロルまで現れた。
原因の一つが、ここだったのかもしれない。
「じゃあ、俺たち結構すごいことした?」
「調査依頼でやることではないわね」
「報酬増えるかな」
「そこ?」
大事なところだと思う。
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帰り道。
今度はカズキも大人しく、レナの後ろを歩いた。
「止まって」
レナが言う。
止まる。
「ここ、罠」
「おお」
「こっち歩いて」
「はい」
「次、段差」
「はい」
サクラが後ろから見ている。
「カズキさん、ずいぶん素直になりましたね」
「学習したんだよ」
「矢が刺さらないのに?」
レナが聞く。
「俺には刺さらないけど、お前たちには刺さるだろ」
レナの足が止まった。
「……何?」
「いや」
レナはすぐに歩き出した。
「だったら最初から言うこと聞きなさいよ」
「聞いてただろ」
「二回踏んだ」
「一回はネズミのせい」
「二回目は?」
「……宝箱のこと考えてた」
「ほら!」
サクラの笑い声が聞こえた。
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ダンジョンを出た頃には、空が赤く染まり始めていた。
「外だ!」
カズキが大きく伸びをする。
空が広い。
それだけで妙に安心する。
「ダンジョンって疲れるな」
「ほとんど戦ってないでしょ」
「気疲れだよ。殴っちゃいけない、蹴っちゃいけない、石を投げちゃいけない」
「普通の冒険者は、そこまで我慢しないのよ」
「俺にとっては大変なんだ」
サクラも外へ出て、大きく息を吸った。
「でも、無事に帰れてよかったです」
「ああ」
初めてのダンジョン。
罠を踏んだ。
ゴブリンと戦った。
隠し階段を見つけた。
ゴーレムを倒した。
「宝箱はなかったけどな」
「まだ言ってる」
それだけが心残りだった。
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街へ戻ると、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
受付には、いつもの受付嬢がいる。
「お帰りなさい。地下迷宮の調査はいかがでしたか?」
「終わったわ」
レナが依頼書を出す。
「内部にゴブリンが数匹。罠も残ってる。そこまでは、いつも通り」
「はい」
「それから、未確認の隠し階層を見つけた」
受付嬢の手が止まった。
「隠し階層?」
「古い遺跡みたい。サクラが調べた方が詳しいわ」
サクラが一歩前へ出る。
「神殿で使われているものに近い古代文字がありました。詳しくは調査が必要だと思います」
受付嬢がメモを取る。
「分かりました。ギルドから調査隊を――」
「あと、ゴーレムがいた」
ペンが止まった。
「……ゴーレム?」
「うん」
カズキが頷く。
受付嬢が顔を上げる。
「遭遇したのですか?」
「ああ」
「それで、逃げて戻ってきたと」
「いや」
カズキは首を振る。
「倒した」
「…………」
受付嬢がレナを見る。
レナが頷く。
サクラも頷く。
受付嬢はもう一度カズキを見る。
「……どうやって?」
「指で押した」
「…………」
受付嬢の顔から表情が消えた。
「正確には、核を壊しました」
サクラが補足する。
「指で?」
「はい」
「押して?」
「はい」
受付嬢はペンを置いた。
「少々お待ちください」
奥へ消えていった。
「信じてもらえなかった?」
カズキが聞く。
「説明の仕方が悪いのよ」
「事実だぞ」
「事実だから困ってるの!」
しばらくして。
受付嬢が、年配の男を連れて戻ってきた。
胸元には、ギルドの紋章。
男は三人を見てから口を開く。
「話は聞いた」
「ゴーレムの?」
「ああ」
男はカズキを見る。
「君が倒したのか?」
「三人で」
カズキは答えた。
「レナが弱点を見つけて、サクラが動きを止めた。俺が最後に核を壊した」
レナが少しだけ目を丸くする。
サクラは微笑んだ。
男は頷いた。
「なるほど。現地の確認は必要だが、隠し階層の発見だけでも十分な成果だ」
「報酬増える?」
「アンタね……」
男は少し笑った。
「増える」
「よし!」
「そこだけ反応するのやめなさいよ!」
---
今回の調査報酬。
魔物の討伐分。
隠し階層の発見。
そして、ゴーレム討伐の仮報酬。
すべて合わせると、最初の依頼とは比べものにならない額になった。
カズキは受付台に置かれた硬貨を見る。
「……結構あるな」
「三人で分けるわよ」
「分かってる」
以前なら、ここで少し残念に思ったかもしれない。
でも。
今回は不思議と、そうは思わなかった。
三人で見つけた。
三人で戦った。
だったら三人で分ける。
それでいい。
「これで剣買えるかな」
レナが硬貨を分ける手を止めた。
「まだ買う気?」
「冒険者だぞ。剣くらい欲しいだろ」
「何本壊すつもりよ」
「今度は手加減Lv2がある」
「百しか下がらないでしょ!」
「前より十倍だぞ!」
「元が大きすぎるのよ!」
サクラが小さく笑う。
いつものやり取り。
でも昨日までとは、少し違う。
正式にパーティーを組んで。
初めて三人でダンジョンへ行って。
初めて三人で大きな敵を倒した。
カズキは自分の冒険者証を見る。
まだ、低ランク。
ステータスも普通。
手加減もまともにできない。
それでも。
少しずつ、この世界の冒険者になっている。
そんな気がした。
そのとき。
受付嬢が一枚の依頼書を持ってきた。
「カズキさんたち」
「ん?」
「こちらの依頼に興味はありませんか?」
「どんな依頼?」
レナが受け取る。
依頼書に目を通した途端。
その表情が少し変わった。
「……護衛?」
「はい」
受付嬢が頷く。
「街から少し離れた領地まで、ある方を送り届けていただきたいんです」
「ある方?」
「依頼人は――」
受付嬢が続ける。
「ニーナという女性です」
カズキはまだ知らなかった。
その名前が。
三人だったパーティーを、もう一度変えることになることを。




