ダンジョンボス
## 第12話 ダンジョンボス
隠し階段を下りる。
一段。
また一段。
三人の足音が、地下深くへ響いていく。
「なあ」
カズキが口を開いた。
「何?」
「こういう隠し階段の先って、やっぱり宝箱だよな」
「まだ言ってるの?」
「だって隠し部屋だぞ」
「罠を踏んで開いた隠し部屋ね」
「結果的には見つけたんだからいいだろ」
「それを発見とは言わないのよ」
先頭を歩くレナが振り返る。
「それと、絶対に勝手に何か触らないでね」
「分かってる」
「絶対よ」
「分かってるって」
サクラが小さく笑った。
「信用されていませんね」
「なんでだろうな」
「なんででしょうね」
二人とも分かっていた。
---
階段を下りきる。
そこには、広い空間があった。
「……おお」
カズキが思わず声を漏らす。
鉱山とは明らかに違う。
床も壁も、巨大な石を隙間なく組み上げて造られている。
壁には読めない文字。
そして部屋の中央には――。
巨大な石像が座っていた。
人の形をしている。
だが、大きい。
座っている状態でも、カズキたちの倍以上。
「ゴーレム?」
「たぶん」
レナが答える。
サクラは石像ではなく、その周囲を見ていた。
「嫌な気配は、ここからです」
「こいつが原因?」
「分かりません。ただ……」
サクラが杖を握る。
「何か、大きな力が動いています」
カズキは石像を見上げた。
動かない。
「寝てるのか?」
「起こさないでよ」
「触ってないだろ」
「アンタの場合、近づくだけで心配なの」
ひどい。
だが否定できない。
三人は石像を避けるように、部屋の中を調べ始めた。
壁。
床。
古い文字。
何に使われていた場所なのかは分からない。
「レナ」
サクラが呼んだ。
壁の一角。
そこには、大きな亀裂が走っていた。
亀裂の向こうから、わずかに風が流れ込んでいる。
「この先、どこかに繋がってます」
「山の中かもしれないわね」
レナがしゃがむ。
亀裂の近くには、いくつもの足跡が残っていた。
「魔物の足跡」
「ここを通ったのか?」
「たぶんね」
ゴブリン。
角ウサギ。
それより大きな足跡もある。
「じゃあ、最近魔物が増えてたのって」
「ここから逃げてきた可能性はあるわね」
「何から?」
三人が同時に振り返った。
石像は――。
まだ座っていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「まさかな」
カズキが言った。
その瞬間。
ゴゴゴゴゴ……。
地面が震えた。
「カズキ!」
「俺、何もしてないぞ!」
「今回はね!」
巨大な石像の頭が動いた。
ゆっくりと。
三人を見る。
目の部分に、赤い光が灯った。
「……起きた」
「見れば分かるわよ!」
ゴーレムが立ち上がる。
天井近くまで届く巨体。
石の腕だけで、カズキの身体より太い。
「でかいな」
「感想言ってる場合!?」
ゴーレムが一歩踏み出した。
ズンッ!
部屋全体が揺れる。
「来ます!」
サクラが叫ぶ。
巨大な腕が振り下ろされた。
三人が左右へ飛ぶ。
ドォン!!
床が砕けた。
「うわっ!」
石の破片が飛び散る。
カズキは起き上がる。
「こいつなら殴ってもいいよな?」
「待って!」
レナが叫んだ。
「なんで!?」
「周り見なさい!」
言われて見る。
ゴーレムが殴った場所。
床に大きな亀裂が入っていた。
天井からも、細かな砂が落ちてくる。
「……あ」
「ここ地下なのよ!」
カズキが殴る。
ゴーレムが吹き飛ぶ。
壁に激突する。
ダンジョンが崩れる。
容易に想像できた。
「じゃあどうすんだよ!」
「それを考えるの!」
ゴーレムが再び腕を振る。
今度はレナへ向かって。
「レナ!」
カズキが飛び出しかける。
「来ないで!」
レナは横へ転がり、攻撃をかわした。
石の拳が床を砕く。
「私は避けられる!」
「でも!」
「アンタが動く方が怖い!」
それはそれで傷つく。
---
「サクラ!」
「はい!」
杖から光が伸びる。
ゴーレムの足へ絡みついた。
動きが一瞬止まる。
「今!」
レナが走る。
ゴーレムの背後へ回り込む。
「……あった!」
「何が!?」
「背中!」
石でできた背中。
その中央に、青白く光る小さな石が埋め込まれていた。
「たぶん、あれが核!」
「じゃあ壊せばいいんだな!」
「だから殴るな!」
「どうしろっていうんだよ!」
ゴーレムが拘束を振りほどいた。
「きゃっ!」
サクラがよろめく。
「サクラ!」
「大丈夫です!」
ゴーレムが振り返る。
再び赤い目が三人を捉えた。
レナがカズキの横へ戻ってくる。
「核だけ壊せない?」
「やってみる」
「どうやって?」
「指で」
「嫌な予感しかしないんだけど」
カズキは自分の人差し指を見る。
小石を弾いた。
オークを貫通した。
「……弾くのはやめよう」
「絶対やめて」
だったら。
「押す」
「押す?」
「トロルの時も、押しただけだった」
「トロル飛んでったわよ」
「手加減する」
「岩砕けたわよ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
サクラが二人を見る。
「カズキさん」
「何?」
「《手加減》を使ってください」
「でも意味ないぞ?」
「それでも、使わないよりはいいです」
確かに。
十しか下がらない。
千八百四十が、千八百三十になるだけ。
でも。
ゼロではない。
「……分かった」
カズキは拳を開いた。
《手加減 Lv.1》
意識する。
力を抑える。
倒すんじゃない。
吹き飛ばすんじゃない。
壊すんじゃない。
必要なのは――。
「あの石だけ」
ゴーレムが突進してくる。
「レナ!」
「任せて!」
レナが走った。
正面からゴーレムへ向かう。
「おい!」
直前で横へ跳ぶ。
ゴーレムの身体がレナを追って向きを変える。
背中が見えた。
「今!」
カズキが走る。
普通に。
全力ではない。
一歩。
二歩。
ゴーレムの背後へ。
青白い核。
そこへ、人差し指を伸ばした。
「そっと」
触れる。
「そーっと……」
押す。
パキッ。
小さな音がした。
「…………」
「…………」
「…………」
青白い核に、一本の亀裂が入った。
「お?」
カズキが指を離す。
ゴーレムが止まった。
赤い目の光が消える。
「できた?」
レナが聞く。
「たぶん」
次の瞬間。
バキバキバキバキッ!!
核から無数の亀裂が広がった。
「え?」
ゴーレムの全身へ。
腕。
脚。
胸。
頭。
「ちょっと待って」
カズキが後ずさる。
「俺、押しただけ――」
ドガァァァン!!
ゴーレムが崩れ落ちた。
大量の石が床へ落ちる。
三人は慌てて頭を庇った。
轟音。
土煙。
しばらくして。
静かになった。
「…………」
カズキが顔を上げる。
そこには、巨大な石の山ができていた。
壁。
無事。
天井。
無事。
床。
……少しへこんでいる。
「やった?」
サクラが周囲を確認する。
「崩れてはいません」
「よし!」
カズキは拳を握った。
初めてだ。
初めて、自分の力で。
余計なものを壊さずに敵を倒した。
「できた!」
「ゴーレムは粉々だけどね」
「敵だからいいだろ!」
「まあ……」
レナも周囲を見る。
「今回は、いいか」
「だろ?」
「ちょっとだけ見直した」
「ちょっとかよ」
そのとき。
聞き慣れた音が頭の中に響いた。
――レベルが上がりました。
「来た!」
「また?」
カズキはすぐにステータスを開く。
レベル三。
能力値は――。
「……変わってない」
「でしょうね」
「もう期待してなかったけどさ」
そして。
スキル。
《手加減 Lv.2》
「おお!」
「上がった!」
レナも覗き込む。
カズキは詳細を開いた。
《手加減 Lv.2》
力を抑えて行動できる。
現在の補正値――百。
「百!」
「十から一気に十倍ですね」
サクラが嬉しそうに言う。
「これなら!」
カズキが計算する。
千八百四十。
そこから百を引く。
「千七百四十倍!」
「…………」
「…………」
「…………」
カズキは石の山を見る。
レナも見る。
サクラも見る。
「……まだゴーレムくらいなら壊せるな」
「全然手加減できてないじゃない!!」
レナの叫び声が、地下遺跡に響いた。




