初ダンジョン
## 第11話 初ダンジョン
パーティーを結成した翌日。
三人は冒険者ギルドの掲示板の前に立っていた。
「せっかくパーティー組んだんだし、今日はそれっぽい依頼やろうぜ」
カズキが依頼書を眺めながら言った。
「それっぽいって何よ」
「冒険者っぽいやつ」
「だから何よ」
「ドラゴン討伐とか」
「死ぬわよ」
「俺が?」
「私たちが」
なるほど。
一人だけ強くても駄目らしい。
カズキが依頼書を眺めていると、レナが一枚を剥がした。
「じゃあ、これ」
「何?」
差し出された依頼書を見る。
そこには――。
【旧鉱山跡・地下迷宮調査】
と書かれていた。
「ダンジョン!」
カズキの声が弾んだ。
「うるさい」
「いや、ダンジョンだぞ!」
「見れば分かるわよ」
異世界。
冒険者。
パーティー。
そしてダンジョン。
ようやく全部揃った。
「行こう」
「まだ説明してないんだけど」
「行こう」
「子供か!」
レナに頭を叩かれた。
今度は普通に痛かった。
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街から歩いて一時間ほど。
山の麓に、その入口はあった。
崩れかけた石造りの入口。
その先には、地下へ続く階段が伸びている。
「昔は鉱山だったらしいわ」
レナがランタンに火を灯した。
「掘り進めているうちに、古い地下遺跡にぶつかったんだって」
「いいな」
「何が?」
「すごくダンジョンっぽい」
「だからダンジョンなのよ」
サクラが小さく笑った。
「カズキさん、楽しそうですね」
「そりゃそうだろ」
カズキは階段の奥を見る。
暗い。
何がいるか分からない。
それなのに、不思議と怖さより期待の方が大きかった。
「宝箱とかあるかな」
「あるかもしれないけど、勝手に触らないでね」
「なんで?」
「罠があるから」
「罠?」
レナがカズキを見る。
「昨日言ったでしょ」
――たぶん罠とかにも普通に引っかかる。
「……あれ、本気だったのか」
「本気よ」
三人は地下へ入った。
---
しばらく進むと、外の光は完全に届かなくなった。
頼りになるのは、レナの持つランタンだけ。
石造りの通路に、三人の足音が響く。
「暗いな」
「ダンジョンなんだから当たり前でしょ」
「サクラ、光の魔法とかないの?」
「ありますよ」
「あるの!?」
サクラが杖を掲げる。
小さな光の球が生まれ、ふわりと頭上へ浮かんだ。
通路が一気に明るくなる。
「おお!」
「最初から使ってよ」
レナがランタンを消した。
「すみません。必要ないかと思って」
「必要よ!」
この二人、意外と相性いいな。
そんなことを考えながら歩いていると。
レナが突然、手を上げた。
「止まって」
三人が止まる。
「どうした?」
レナは答えず、しゃがみ込んだ。
床を調べる。
「……ある」
「何が?」
「罠」
カズキは床を見る。
普通の石畳にしか見えない。
「どこ?」
「ここ」
レナが指さす。
「踏むと矢が飛んでくるタイプね」
「へえ」
カズキが顔を近づける。
確かに、壁に小さな穴が並んでいた。
「こういうの見つけるのも盗賊の仕事なのか」
「そうよ」
レナが少し得意げに笑う。
「だから、私が先頭を歩く。カズキは絶対に勝手に進まない」
「分かった」
「絶対よ」
「分かったって」
「絶対だからね」
「信用なさすぎない?」
「あると思う?」
ないらしい。
レナは罠を解除するため、床へ手を伸ばした。
その横を――。
何かが走った。
小さな影。
「うわっ」
カズキが反射的に足を引く。
カチッ。
「…………」
「…………」
「…………」
三人とも止まった。
レナがゆっくり顔を上げる。
「カズキ」
「はい」
「何踏んだ?」
「たぶん」
壁から音がした。
「罠」
シュババババッ!!
大量の矢が飛んできた。
「きゃっ!」
「危ない!」
カズキは反射的に二人の前へ出た。
矢が身体に当たる。
カン。
カン。
カン。
次々と矢が落ちた。
「…………」
「…………」
カズキは胸に当たった一本を拾う。
先端が曲がっていた。
「大丈夫だな」
「大丈夫じゃないわよ!!」
レナの声が地下迷宮に響いた。
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「だから勝手に動くなって言ったでしょ!」
「ネズミみたいなのがいたんだよ!」
「ネズミで罠踏むな!」
「びっくりしたんだから仕方ないだろ!」
「カズキさん」
サクラが間に入る。
「次からは、レナさんの後ろを歩きましょう」
「はい」
素直に従うことにした。
それからはレナを先頭に、慎重に進んだ。
罠。
分かれ道。
崩れた通路。
時折現れる魔物。
「来た!」
通路の奥から、三匹のゴブリンが走ってくる。
カズキが前へ出ようとする。
「待って」
レナに止められた。
「なんで?」
「ここ狭いの」
「ああ」
カズキが殴れば、ゴブリンだけでなく壁まで壊しかねない。
下手をすれば、生き埋めだ。
「じゃあ、どうする?」
「私がやる」
レナが短剣を抜いた。
一匹目の攻撃をかわす。
そのまま懐へ入り、短剣を振るう。
二匹目。
横から飛びかかってきたところを蹴り飛ばす。
「サクラ!」
「はい!」
杖の先から光が走った。
ゴブリンの足元に絡みつき、動きを止める。
レナが仕留める。
最後の一匹がカズキへ向かってきた。
「お、こっちは俺が――」
「壁!」
「分かってる!」
殴れない。
蹴れない。
小石も投げられない。
武器も持っていない。
「……どうすればいいんだ?」
「知らないわよ!」
ゴブリンが短剣を振り上げる。
カズキは仕方なく、その手首を掴んだ。
「ギッ!?」
「……これなら」
軽く止めるだけ。
攻撃ではない。
補正も働いていない。
そのままゴブリンの短剣を取り上げる。
「取れた」
「そのまま押さえてて!」
レナが走り込み、一撃。
ゴブリンが倒れた。
静かになる。
カズキは奪った短剣を見る。
「俺、何もしてなくない?」
「十分よ」
「でも倒してないぞ」
レナは短剣を拭きながら答えた。
「ダンジョンで壁ごと吹き飛ばされるより百倍マシ」
「俺の強さ、役に立ってないんだけど」
「そういう場所もあるってことよ」
カズキは周囲を見る。
狭い石の通路。
天井。
壁。
確かに、ここで森と同じように力を使えばどうなるか。
想像したくない。
「……ダンジョン、難しいな」
初めてだった。
敵が強いわけではない。
自分より遥かに弱い。
なのに――。
全力を出せない。
いや。
出してはいけない。
「強ければいいってわけじゃないんだな」
「やっと分かった?」
「ちょっとだけ」
「遅いわよ」
サクラが微笑む。
「でも、カズキさんにとっては良い訓練になるかもしれませんね」
「訓練?」
「力を使わずに戦う訓練です」
なるほど。
《手加減 Lv.1》
今のところ、ほとんど意味のないスキル。
だが、このダンジョンなら。
「もしかして、手加減のレベル上がるかな」
「上がるといいですね」
少しだけ目的が変わった。
宝箱。
冒険。
魔物。
それも楽しみだ。
だが、それ以上に。
このダンジョンなら、自分の力を扱う方法が見つかるかもしれない。
「よし。行こう」
カズキが一歩前へ出る。
カチッ。
「…………」
「…………」
「…………」
足元から音がした。
レナがゆっくり振り返る。
「カズキ」
「はい」
「私より前に出るなって言ったわよね?」
「……言いました」
壁の奥から、何かが動く音がした。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
今度は矢ではない。
かなり大きな音だった。
「これ、何の罠?」
「知らない」
「レナでも?」
「こんなの見たことない」
三人の前で。
石壁がゆっくりと開いていく。
その向こうには――。
さらに地下へ続く、古い階段が現れていた。
サクラの表情が変わる。
「……この場所」
「どうした?」
「嫌な気配がします」
以前、森で聞いた言葉だった。
最近、魔物が街の近くまで出てきている。
山の奥から、何かに押し出されるように。
カズキは暗い階段の先を見る。
「もしかして」
レナも短剣を握り直した。
「当たり引いたかもね」
「宝箱?」
「なんでそうなるのよ!」
三人の声が、地下深くへ響いていった。




