十二月二十四日、十九時
十二月二十四日の十九時から二十時のあいだに、うちの学校の生徒は百六十二件の投稿をした。
一時間で百六十二件である。
四百八十人のうち、三分の一が、その一時間に何かを上げた。
私がそれを数えたのは、二十五日の朝だった。
風紀委員の仕事ではない。ただ、朝起きて、なんとなく画面をスクロールして、あまりに同じものが並んでいたので、数えてしまったのである。
数えているあいだ、私は自分が何をしているのかよくわからなかった。ノートに正の字を書いていた。三十三個目で、これは癖だと気づいた。彼の癖である。
私はそれをドパガキに見せた。
「……百六十二か」
彼は、ノートを机に置いたまま、二分見ていた。
「一つめ、時刻の分布」
彼はヒストグラムを作った。
「十九時ちょうどに三十一件。十九時十分に十四件。十九時三十分に二十二件」
「きりのいい時間ね」
「きりのいい時間だ。……で、十九時四十七分とか、そういう時刻は少ない」
彼は、山の頂点を三つ指した。
「人間は、きりのいい時間に上げる。何かが起きた瞬間じゃなくて、上げようと思った瞬間に上げる」
「二つめ、中身」
彼は百六十二件を分類した。
「ケーキの写真が四十一件。イルミネーションが二十九件。食卓が二十二件。手元だけが十八件」
「手元?」
「グラスとか、皿とか。……人が写ってないやつだ」
彼はスマホを置いた。
「で、二人以上が写ってるのは、十一件しかない」
「十一件」
「百六十二件のうち、十一件だ」
私は、その十一件を自分で数え直した。数え直しても十一件だった。百六十二件のうち、二人以上が写っているのが十一件である。残りは、ケーキと、光と、皿と、手だけだった。人が写らないように撮るというのは、たぶん意識してやることである。百五十一人が、同じ夜に同じ意識を持っていた。
「三つめ、位置情報」
彼は地図を出した。
「位置が出てるのは六十四件。……で、ばらけてる」
彼は点を打っていった。
市内に、六十四個の点が散らばった。同じ場所に二つある点は、三か所しかなかった。
「みんな、別々のところにいる」
「そう」
彼は、その紙をこちらに向けた。
「百六十二人が、別々の場所で、同じ時刻に、一人でいる」
私は、その地図をしばらく見ていた。点は、ただの点だった。だが、六十四個あると、ただの点ではなくなった。
「みんな一人なの?」
「一人とは限らねえよ。家族といるかもしれん」
彼は、点の一つを指で押さえた。
「でも、一人じゃないふりをしてるのは確かだ」
彼はスマホを置いた。
「みんな一人で、一人じゃないふりを、同じ時刻にやってる」
「で、ここからだ」
「え?」
「百六十二件のうち、一件だけ違う」
私は身を乗り出した。
「四つめ、文字数」
彼は、文章の長さを並べた。
「百六十一件が、四十文字以下だ。『メリークリスマス』とか、絵文字だけとか」
「一件は」
「三百八十文字」
彼はその一件を開いた。内容は、書かない。
読んで、私は立ち上がった。椅子が倒れた。倒れた音を、あとから思い出した。そのときは、聞こえていなかった。三百八十文字である。四十文字の投稿を百六十一件見たあとで読むと、長さだけで異物だった。異物だから飛ばされる。飛ばされるように書いてはいない。ただ長かった、というだけである。
「これ」
「うん」
「いつ上がったの」
「十九時二分」
彼は、ヒストグラムの一番高い山を指した。
「三十一件の中に埋まってる」
「決定打」
彼は、その一件の下を指した。
「この投稿、いいねが二件だ」
「二件」
「三百八十文字だぞ。……で、二件」
彼は、四十文字の投稿を一つ出して、隣に並べた。そちらには五十件近くついていた。
「みんな、読んでねえんだよ。四十文字のやつを見にきてるから、三百八十文字は飛ばす」
彼はスマホを閉じた。
「三十一件の中に、一件だけ本物が混ざってて、誰も気づいてない」
投稿した子は、一年生だった。私たちは、その日のうちに家に行った。二十五日である。
親は家にいなかった。彼女は、たぶん、二十四日の夜からずっと一人だった。ドアの前で、ドパガキはインターホンを押さなかった。
「押さないの?」
「押す」
彼の指は、もうボタンの上にあった。
「今日は押す」
彼は押した。
彼女は出てきた。何があったのかは、書かない。書かなくていいと思うし、書くべきでもないと思う。
私が書けるのは、彼女がその日、無事だったということだけである。
帰り道、私たちは長いこと黙っていた。
商店街のイルミネーションが、まだついていた。二十五日の夕方である。明日には外される。
「二件のいいね」
「うん」
「誰だったのかしら」
「調べた」
彼は、そこで初めて口を開いた。
「二件とも、投稿してから四時間後についてる。……深夜三時だ」
「深夜三時」
「寝てない人間だ」
彼は、歩幅を変えずに続けた。
「二人いたんだよ。……気づいてないけど、深夜三時に、三百八十文字を最後まで読んだ人間が二人いた」
私は、そのことをずっと考えている。百六十人が飛ばして、二人が読んだ。それは少ないのか、多いのか、私にはまだわからない。
「あのさ」
「うん」
「オレ、あの日、四十七本見てた。十九時から二十時まで。……たぶん、あの投稿も流れてきてた」
「見た?」
「見てない」
彼は、そこで初めて足を止めた。
「三秒で飛ばしてる」
彼は自販機の前で止まった。スマホを出さなかった。
「オレは、あの二人じゃなかった」
その夜、私は自分の投稿履歴を見た。十二月二十四日、十九時十四分。私も上げていた。三十二文字だった。




