↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/136

三年C組

 四月。私たちは三年になった。

 クラス替えの結果、私と土場我輝は、また同じクラスになった。三年C組である。

 教室は三階に上がった。窓から見える景色が、去年より少しだけ遠い。

 彼は初日から机に突っ伏していた。教室が変わったことに気づいているのかどうか、私にはわからなかった。


 三日目に、伊丹まゆが言った。

「このクラス、もう派閥できてるよね」

 三日である。彼女は牛乳を飲みながら、それを言った。

「三日でできるものかしら」

「できてる。三つある」

 彼女は、パックを机に置いた。

「窓側の五人と、後ろの六人と、あと廊下側の四人」

 私は教室を見回した。窓側の五人は、たしかに机をくっつけて弁当を食べていた。後ろの六人は、誰かの画面を囲んでいる。廊下側の四人は、四人とも立っていた。

 言われてみれば、そう見えた。

 そして、言われるまで、私にはまったく見えていなかった。三年間、この教室で、私は誰の席が誰の隣かを一度も気にしたことがない。


「クラス替えって、けっこう読めるんだよな」

 ドパガキが顔を上げた。珍しく、自分から喋った。

「読める?」

「オレ、これ毎年やってる」

 彼はノートを一枚破って、何か書きはじめた。破り方が雑で、端がぎざぎざになった。

「何してるの」

「二週間後の予想」


「一つめ、座席」

 彼は座席表を書き写した。字が汚い。四十人分を、五分で書き終えた。

「人間関係の八割は、距離と回数で決まる。近くて、よく会う奴と仲良くなる。それだけだ」

「そんな単純じゃないでしょう」

「単純だよ。おすすめ欄と同じだ」

 彼は、淡々と続けた。

「アプリは、あんたがよく見たものを出す。人間も、よく見た顔を好きになる。仕組みが同じなんだよ」

「二つめ、相互フォローの発生順」

 彼はスマホを出した。

「始業式の日から今日までに、このクラスで何件の相互フォローが発生したか。十九件だ」

「調べたの?」

「調べた。……で、その十九件、席が三つ以内の組み合わせが十四件」

 私は、座席表を見た。四十人の中の十四件が、たしかに近い場所で固まっていた。地図を見せられて初めて、道の形がわかるのに似ていた。

「残りの五件は」

「中学が同じ奴だ。距離の代わりに、回数がある」


「三つめ、時間帯」

 彼は、十九件の発生時刻を並べた。

「フォローが増えるのは、朝の八時二十分と、昼の十二時四十分と、夕方の十六時十分」

「休み時間ね」

「そう。顔を見た直後に押してる」

 彼は、書きあがった紙を折った。三つ折りにして、封筒に入れた。封筒は、生徒会室の備品である。

「二週間後のこのクラスの図だ。誰と誰がくっついて、誰が余るか」

「余る、って書いてあるの?」

「書いてある」

 私は、その封筒を受け取った。少し重かった。


 二週間後に、開けた。

 十六人の名前が、四つのかたまりに分かれて書いてあった。

 十四人が、当たっていた。


「気持ち悪いんだけど」

「だろ」

「あなた、これ毎年やってるの?」

「毎年やってる。中学からだから、六回目」

「当たるの?」

「だいたい当たる。八割五分くらい」

 彼はノートを閉じた。

「外れるのは、毎年二人か三人」


「外れるのは、どういう人?」

 彼は、少し考えた。

「理由がない奴だな」

「理由?」

「席が近いわけでも、中学が同じわけでも、部活が同じわけでもない。なのにくっついてる。……予想できない」

 彼はスマホを取り出した。

「そういうのは、たいてい長く続く」

「なんで」

「距離と回数でくっついた関係は、距離と回数が無くなると終わるからだよ」

 彼はスワイプした。

「クラス替えで消えるだろ、毎年。あれだ」


 私は、そこでひとつ気になった。

「じゃあ、私とあなたは?」

 彼は、画面から目を離さずに答えた。

「あんたは外れるほうだ」

「え」

「オレら、席が近かったこと、一回もねえよ」

 私は、思い返した。

 一年のときも、二年のときも、三年になってからも。彼の席は、いつも教室の後ろの端で、私の席は、いつも前から三番目である。

「中学も違うし、部活も入ってねえし、成績も真逆だ」

 彼は、そこで一度だけ画面から目を上げた。

「予想できねえよ、あんたは」


 十四人が当たって、二人が外れた。

 外れた二人は、席が教室の対角にあった。中学も違う。部活も違う。五月の連休明けから、二人はいつも一緒にいる。

 いまも仲がいい。私はその紙を、いまも持っている。


 帰り道、彼が珍しく先に喋った。

「あのさ。予想の紙な」

「うん」

「毎年書いて、毎年捨ててた」

「そうなの」

「うん。……人に渡したの、初めてだ」

「なんで渡したの」

 彼は、少し黙った。三歩ぶんくらい黙った。

「知らね」


 彼は自販機の前で止まった。

「うわ」

「今度は」

「猫が二匹くっついてる」

「かわいいわね」

「席が近いだけだぞ、これ」

「そういう見方やめたら?」

「無理」

 彼は十四分動かなかった。十四分を、私は数えていた。四月の風がまだ冷たいことを、そこで思い出した。


 なお彼は、翌週にはこの予想のことを、きれいさっぱり忘れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。