12歳--9
入学前にいろいろあったものの、無事に中学校に入学して数ヶ月。
今は驚くほど穏やかな日々を送っている。
そう、今は。
最初は酷かった、入学式の時からザワザワされて、次の日から休み時間のたびに知らない女の子が見に来たり声をかけられたり。
廊下を歩いてれば見たこともない女の子に肩を叩かれる、背中を触られる、前に立ち塞がる。
帰り道は待ち伏せされてる。
朝は教室の前で待ってる。
どう考えてもわざと俺の席に座られてる。
いつでもどこでもかまわず話しかけられる。
『君が白沢先輩の弟くん?』『かわいいね』『違ったタイプでかっこいい』『白沢先輩の友達なの』『白沢先輩にお世話になったの』『彼女いるの?』『女の子のタイプは?』『家に遊びに行きたい』『ウチに遊びに来ない?』『遊びでもいいから付き合って?』『白沢君の席だったの?ごめん』『白沢君手伝ってもらえない?』『白沢君』『白沢君』『白沢君』・・・
猛獣だ。間違いなく猛獣。もう怖いを通り越して無心で、ただ駆除してやりたい。
何より辛いのが、そんな中ユミカを見つけてもいつも通りには近寄れないこと。
「ユミカ先輩、こんにちは〜」
「タダタカ君人気者だね〜。頑張って!」
駆け寄って抱きしめたくても、許されるのは通りすがるときに挨拶か、会話ができてもこれだけ。
これだけなのにユミカにも被害がいく。
『お互いに名前呼びしてる』『他の子より仲良さそう』『抜け駆けじゃない?』『自慢?』
『幼馴染だって』『だからって馴れ馴れしい』『釣り合ってない』『身の程知らず』『調子に乗ってる』
正直言って、俺もユミカもギリギリだったかもしれない。
お互いに庇えないのに、自分の方もどうにもできなくて。
特に俺は俺のせいでユミカまで巻き込んだって、どうしようもなくて、悔しくてもどうしようもなくて。
ナオとナオの彼女もこれを味わったのかって。
「ね〜ぇ?噂の白沢弟ってどいつ?いる〜?」
何かの集会のあと、移動してたらすごいでかい声が聞こえた。
周りが俺を見てる。
白沢弟って俺か!!
「はい・・・俺、ですけど・・・?」
ゆっくり声の方に歩いてく。
人の輪の中に、ユミカより少しだけ大きいくらいの、気の強そうなきっつい美人がダルそうに立ってた。
この人。
「はぁ??ガキっぽくない!?コレならまだアニキのほうが連れて歩くのに向いてたっしょ!!ユミちー!!コレがユミちーが言ってた幼馴染!?ガッカリなんだけど!」
「アヤノちゃん・・・声大きいよぉ、びっくりした。うん、その子が幼馴染のタダタカ君だよ。アヤノちゃんも仲良くしてくれたら嬉しいな」
「えぇえ〜?だるっ!期待してたのに!もう帰る!!」
呼び止めるユミカを振り返りもせずに帰ってった。
あれがアヤノさんか。
「ごめんねタダタカ君、アヤノちゃんめんどくさいの嫌いだから・・・大勢の人の前で恥ずかしかったよね」
ユミカの笑顔で気がついた。
めちゃくちゃなやり方だけど、馬鹿みたいに意味もなく上がった俺の価値を下げてくれたんだ。
その証拠に、周りからは。
『高橋さんが期待外れって』『確かに白沢先輩のほうが』『確かにカッコいいけど』『そこまでじゃないかも』
『やっぱり松崎さんと高橋先輩仲良かったんじゃん』『ユミちーって呼ばれてた』『やばくない?』『何もしてないじゃん』
「大丈夫です。逆に助かりました」
そう言って笑うと、頷いて背中を向けて足を軽く上げて上履きの爪先で床にトントンってやってから離れて行った。
『今日行くね』
今日はとにかくもう帰りたい。
早く帰りたい!




