10歳--夏休み6
この回はとても重く、子どもに対する精神的な虐待の描写があります。
お気をつけください。
あのあとユミカが話してくれたこと。
ユミカは産まれてちょっとでここに連れてこられた。
お母さんのマユミさんが病気になって育てられなかったから。
なかなか病気も治らなくて、そのうちマリカちゃんが産まれてマリカちゃんの目のこともあって小学校に入るまで6年間ずっとここで過ごしてた。
おじさんおばさんをお父さんお母さんだって、お姉ちゃんたちを本当のお姉ちゃんだって、ユミカは一番下の妹なんだって思って暮らしてたって。
ユタカさんとマユミさんも時々会いに来たけど、親戚の人だと思っていたと。
小学校に入る少し前に2人が『お父さんお母さんだよ』って迎えに来て松崎の家に戻されたけど、わかんなくて怖くて『お家に帰りたい、お父さんお母さんは?』そう言ってたくさん泣いちゃったら『私の子じゃない。気持ち悪い』ってマユミさんに言われたって。
たくさんお願いしたけどここに帰ってこられなくて、ユミカはご飯も食べられなくて何もできなくなっちゃった。
何日かするとおじさんおばさんが慌てて来てユタカさんとマユミさんと何か話してたらしいけど、マユミさんがすごい怒って暴れて怖かったんだって。
ユミカはこれで一緒に帰れるって思ったんだけど、それはできなくて。
そのかわり夏休みと冬休みはずっとここにいていい約束が出来た。
ユタカさんに『ごめんな、イイコにしてたら夏休みと冬休みはお父さんお母さんの所に連れてってやるから』って言われたけど、何がイイコなのかわかんなかったって。
ユミカはお姉ちゃんが2人いる妹なのに、マリカちゃんって妹がいてお姉ちゃんだって言われたこと。
お父さんとお母さんはここにいるのに、ユタカさんとマユミさんを『おとうさん、おかあさん』と呼ばなきゃいけないこと。
でも頑張って『おとうさん、おかあさん』って言ってもマリカちゃんに『うそつき、マリカのお父さんとお母さんだよ!』と言われたこと。
ここを思い出して泣きたかったり悲しかったりでしょんぼりしてると『なんで?気持ち悪い』って言われること。
マリカちゃんに優しくしないと『お姉ちゃんなのに変』と言われること。
『イイコってなんだろう、このままだとお父さんお母さんに会えなくなっちゃうかもしれない』
ユミカは一生懸命考えたんだって。
家の手伝いをたくさんする。
マリカちゃんに優しくして、たくさん言う事を聞いてあげる。
悲しい顔はしない。
『おとうさんおかあさん』ってちゃんと言う。
泣かない。
『帰りたい』って言わない。
笑う。
『やっぱり本当の家族が一番よね。ユミちゃんも帰って来れて良かったわよね?』
笑え。
『はい。おかあさん』
『ユミちゃんはマリカの自慢のお姉ちゃんなの!いつも優しくて、困ったらすぐに助けてくれるの!ユミちゃんもマリカが大好きでしょ?』
笑え。
『うん、私もマリカちゃんがすきよ』
『ユミ、大丈夫か?無理してないか?』
笑え、泣くな、帰れなくなる。
『大丈夫、無理してないよ』
ずっとそうやって松崎の家にいるんだって。
頑張って頑張って頑張ってイイコでいるんだって。
おじさんおばさんの、お姉ちゃんたちのいるここに『ただいま!』をするために。
顔をぐちゃぐちゃにして話してくれたユミカの頭を撫でながら、俺はいろいろ考えてた。
『ユミ』『ユミちゃん』って言う松崎のみんな。
『ユミカ』って言うここのみんな。
【『ユミカって呼んでくれる人は特別だから』】
そっか。よし、俺も特別になる。




