第5話「紅き軍勢」
夜の平原に、異様な咆哮が満ちていた。
柵も畑も踏み荒らされた大地の向こうから、無数の赤い眼が押し寄せてくる。
外見は生き物のように見える。
だが、その動きの奥には、肉ではなく機械の律動があった。
牙も皮膚も、金属質でどこか歪んでいる。
まるで獣を模して"作られた"かのような、異質な存在。
「……来る」
操縦席の中で、ノアは喉を鳴らした。
光板には、赤い点がびっしりと表示されている。
数は三十を超えていた。さらに後方に、ひときわ大きな反応がひとつ。
それが、群れを率いる主だと直感した。
――敵性群体接近。
――迎撃行動を推奨。
「推奨って……他に選択肢はないでしょ」
自嘲気味に呟き、両手を握る。
アーク・ギガントの指が、ぎしりと音を立てて閉じた。
背後では、荷車の列が西の峡谷道へ続いている。
村人たちは必死に避難していた。
泣く子どもをあやす声、羊の鳴き声、車輪の軋む音。
その時間を稼がなければならない。
「ノア!」
操縦席の中にミリアの声が飛び込んだ。
振り向くと、彼女はまだ最後尾の荷車の上に立ち、こちらへ手を振っている。
「絶対戻ってきてよ!」
「君も早く行って!」
「約束! 破ったら鍬でひっぱたくからね!」
返事を待たず、荷車は闇の中へ去っていく。
ノアは苦笑した。
「……無茶苦茶だな」
だが、不思議と力が湧いた。
正面を見据える。
壊れた柵を飛び越え、村へと侵入した鋼鉄の獣が視界に映る。
「まず一体!」
先頭を走る一体が跳びかかる。
アーク・ギガントの右腕が唸り、切断刃が月光を裂く。
一閃。
狼を模した鋼鉄の体が真っ二つになり、黒く濁った体液をまき散らして転がった。
間髪入れず、左右から二体、三体と飛びかかってくる。
「多い……!」
左腕の盾で一体を受け止め、拳で叩き潰す。
だが別の一体が突進し、アーク・ギガントの膝へ激突した。
轟音。
機体が大きく揺れ、ノアの歯が鳴る。
――左脚部安定性低下。
――損傷軽微。
「くっ……!」
倒れかけたところへ、さらにもう一体が足元に迫る。
脚の装甲に牙が食い込み、火花が散る。
「離れろ!」
振りかぶった切断刃を足元の一体へ突き立てる。
胴体を深く刺された狼型はのたうちまわり、やがて動かなくなった。
だが一体倒しても、次が来る。
二体倒しても、三体来る。
群れは恐怖を知らぬ兵士のように、無言で押し寄せ続けた。
「こいつら……普通の獣じゃない」
息を切らしながら、ノアは歯を食いしばる。
そのとき、また頭の奥に映像が走った。
――――
白い塔。
無数の同じ獣。
鋼の兵団。
誰かの声。
『暴走機獣群、第三波接近!』
――――
「暴走……機獣……?」
言葉が自然に口をつく。
この獣たちの名。
暴走機獣。
そして、自分はそれを知っている。
「やっぱり僕は……何かを知ってるのか」
胸が冷たくなる。
そのときだった。
獣の群れが突然、左右へ割れた。
重い足音と共に中央の闇から現れたのは、黒き人影だった。
漆黒の鎧。獣角の兜。全身を覆う装甲。そして胸部中央には、紅い光。
それはアーク・ギガントと同じ、“巨人”。
だがその姿は禍々しく、まるで甲冑を纏う処刑人のようだった。
村の外れに立つ二体の巨人。
夜空に光る蒼と紅。
月光の下で対峙する。
「……お前も、巨人なのか」
ノアの問いに応えるように、相手の頭部がこちらを向く。
赤い双眸が灯る。
そして機械音声が響いた。
――対象確認。第一王位継承者、ノア・アステリオン。
ノアの心臓が跳ねる。
「僕を……知っている?」
――逃亡した王統個体を排除せよ。
「逃亡……?」
意味がわからない。
だが、次の言葉の意味は明白だった。
――処刑を開始する。
漆黒の巨人が地を蹴った。
速い。
一瞬で間合いを詰め、紅い刃がアーク・ギガントの胸部を狙って振り下ろされる。
「っ!」
咄嗟に右腕の切断刃で受ける。
激突。
凄まじい衝撃波が走り、周囲の土が吹き飛んだ。
アーク・ギガントが後方へ滑り、足元に深い溝を刻む。
「なんて力だ……!」
衝撃にノアの右腕が痺れる。
だが相手は止まらない。
二撃、三撃、連続する斬撃。
重く、速く、正確だった。
アーク・ギガントは防戦一方を強いられる。
「こいつ……誰かが操縦しているのか? それとも……!」
その瞬間、まるで問いに答えるかのように敵機の胸部が大きく開いた。
アーク・ギガントなら存在するはずの胸部搭乗口が、そこにはなかった。
「無人……!?」
驚愕するノアへ、紅い巨人が低く告げる。
――人類統治命令は継続中。王統個体は不要。
そして、開かれた胸部から紅い光が収束していく。
光学兵器。
本能が叫ぶ。
「まずい!」
アーク・ギガントが身体を横へ跳ばす。
次の瞬間、放たれた紅い閃光がアルナ村の中央広場を貫いた。
土と木が爆ぜ、家々が炎上する。
まだ村にわずかに残っていた者たちの逃げ惑う悲鳴が夜を裂いた。
「やめろぉぉぉ!」
ノアの叫びと共に、アーク・ギガントが再び刃を構える。
村を守るための戦いは、今、本当の地獄へ変わろうとしていた。
――第6話へつづく
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




