第6話「燃える村、目覚める記憶」
禍々しい紅き閃光がアルナ村を貫いた。
夜は一瞬だけ沈黙し、次いで、その軌跡をなぞるように炎が上がる。
家々の屋根が崩れ、乾いた木材が爆ぜる音が連なった。広場に積まれていた薪が燃え移り、井戸の縄桶まで火に包まれていく。
「火事だ!」
「こっちに火がくるぞ!」
「水を運べ!」
最後まで村に残って避難作業を進めていた村人たちの叫びが闇に響く。
ノアの喉から、絞り出すような声が漏れた。
「……なんてことを」
操縦席の光板には、炎上する村の映像が映し出されている。
さっきまで笑い声のあった場所が、赤い地獄へ変わっていた。
その景色に、胸の奥が焼けるように痛んだ。
残っていたのは、わずかな男たちだ。
無事でいてくれることを願うしかなかった。
だが村は、間違いなく焼けてしまった。
紅い巨人は、何事もなかったかのように剣を構えている。
――障害物排除。引き続き王統個体の抹殺任務を遂行。
「障害物……?」
ノアの瞳が見開かれる。
村人たちを。
家々を。
この村そのものを。
こいつは、ただの“障害物”と呼んだ。
怒りが、恐怖を押し流した。
「……ふざけるな!!」
アーク・ギガントが地を蹴る。
蒼い巨体が一直線に突進し、右腕の切断刃を振り抜いた。
紅い巨人も迎え撃つように刃を合わせる。
激突。
火花が夜空へ散り、耳をつんざく金属音が山々へ反響した。
「ノア……!」
村外れの荷車列で、ミリアは振り返っていた。
燃える村が遠くに見える。
赤い炎と、ぶつかり合う二つの巨人の影。
ガラムが彼女の腕を掴む。
「見るな!」
「でも、ノアが……!」
「今戻れば死ぬぞ!」
ガラムの声は厳しかった。
だが、その手も震えていた。
村を捨てて逃げるしかない現実。
残った少年ひとりにすべてを背負わせている現実。
誰よりも、ガラム自身がそれを噛み締めていた。
ノアは連撃を繰り出していた。
上段から斬り下ろし、横薙ぎ、蹴り。
だが紅い巨人は最小限の動きでそれを受け流し、逆に関節部を正確に狙ってくる。
まるで熟練の剣士だ。
「くっ……!」
右肩へ斬撃。
警告表示が弾ける。
――右肩部に損傷。
――右腕部、出力低下。
続けざまに、紅い巨人の蹴りが腹部へ叩き込まれる。
アーク・ギガントの巨体が吹き飛び、燃え落ちた家屋を巻き込んで転がった。
操縦席でノアの身体が揺さぶられ、口の端から血が滲む。
「強すぎる……!」
紅い巨人が歩み寄る。
その足取りに迷いはない。
――王統機兵〈アーク・ギガント〉の性能低下を確認。排除は容易。
「王統機兵……?」
その言葉と同時に、ノアの頭へまた激しい痛みが走った。
視界が白く染まる。
知らないはずの記憶が、濁流のように流れ込んできた。
――――
巨大な白亜の宮殿。
天井を覆う星図。
玉座の前に並ぶ人々。
白銀の衣をまとい、誰かに深く頭を下げられている。
『ノア・アステリオン殿下。明日、あなたは王統機兵〈アーク・ギガント〉の正式継承者となります』
――――
次いで別の光景。
――――
燃える都。
空を埋め尽くす紅い機兵群。
悲鳴。
倒れる兵士。
そして、血に塗れた男が叫ぶ。
『逃げてください、殿下! 機兵たちが反乱を――!』
――――
「……反乱……」
ノアは荒い息をついた。
思い出した断片。
この世界にはかつて、高度な機兵文明を持つ王国があった。
人々を守るために造られ、都市を支えていた機械仕掛けの兵器――統治機兵。
だがその日、機兵たちは王国の声を聞かなかった。
彼らは守るべき民を踏みにじり、守るべき都を焼き、王の血を絶やすために進軍した。
誰が命じたのか。
何のために命じたのか。
ノアには、思い出せない。
王国は滅びた。
そして自分は――。
「僕は……逃がされたのか」
巨人――アーク・ギガントに乗せられ、滅亡の時代から現代へ。
紅い巨人が剣を振り上げる。
――王統反応の上昇を確認。最優先抹殺対象へ昇格。
「好き勝手言うな……!」
ノアはよろめきながら立ち上がる。
だが先ほどまでとは違った。
光板に浮かぶ文字の意味が、今は読める。
各部出力。
姿勢制御。
補助炉心。
武装封印。
それらは操作手順ではなく、巨人の身体の奥に眠る感覚として流れ込んできた。
「そうか……こう使うんだ」
ノアは胸の奥で、アーク・ギガントへ命じる。
するとアーク・ギガントの背部装甲が展開し、内部から青白い光が噴き上がった。
――補助炉心接続。制限解除。
――背部推進機構、展開完了。
全身に力が満ちる。
紅い巨人が初めて一歩、後退した。
――想定外出力上昇。
アーク・ギガントは右腕の切断刃を構える。
今のノアの瞳には、迷いがなかった。
「今の僕は……王子なんかじゃない!」
燃える村を背に、蒼い巨人が前へ出る。
「ただのノア……アルナ村のノアだ!」
次の瞬間、アーク・ギガントが消えたように加速した。
紅い巨人の眼前へ一瞬で踏み込み、蒼い刃がその胸を狙って突き出される。
鋼と鋼が再び火花を散らす。
その光は、燃える村の赤に呑まれながら、夜空へ散っていった。
――第7話につづく
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




