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第4話「王子の名」

夜空の下、勝利の歓声が満ちていた。


魔獣を倒した鋼鉄の巨人――アーク・ギガントは、月明かりの中にそびえ立つ。

村人たちは奇跡を目の当たりにした興奮に包まれていた。


泣きながら抱き合う者。

地に額をつけて祈る者。

子どもたちは「巨人さま!」と叫びながら飛び跳ねている。


だが、その胸の中にいるノアの顔だけは青ざめていた。

光板に浮かぶ文字列。


――個体名:ノア・アステリオン

――権限階位:第一王位継承者

――敵性反応多数接近。推定到着まで約三時間


「ノア……アステリオン……」


自分の名。

いや、“本当の名”なのかもしれない。


「……ミリアがつけてくれた名前と同じだ」


本名であり、今の名でもある。

偶然か、それとも何か理由があるのか。


だが、今はそれどころではない。

ノアは最後の警告を思い出し、気を引き締めた。


森の奥に無数の赤い点。

今倒した魔獣と同じような敵性反応か、また別の敵か。

いずれにしても、それが群れを成してこちらへ迫っている。


「みんなを……逃がさないと」


ノアは震える手で、浮かぶ光の紋様に触れた。

すると視界の一部が切り替わり、外へ声を届けられると直感で理解する。


「みんな聞いてくれ! すぐにこの場を離れて逃げるんだ!」


巨人の口元から、増幅されたノアの声が轟いた。

歓声がぴたりと止む。

村人たちは見上げ、互いに顔を見合わせる。


「ノア?」

「巨人の中にあの坊主が……?」


ミリアが真っ先に叫んだ。


「ノア! どうしたの!?」

「森からまた来る! たくさんだ! ここにいたら危ない!」


ざわめきが広がる。

村長ガラムは一歩前へ出て、怒鳴るように問い返した。


「たくさんってのは何匹だ!」


ノアは光点の数を見て、息を呑んだ。


「……わからない。でも十や二十じゃない」


広場の空気が凍りついた。

今の一体ですら村は壊滅寸前だった。それが群れとなって来る。


誰もが絶望しかけたそのとき、ガラムが杖で地面を叩いた。


「なら決まってる。逃げるぞ!」

「じ、爺さん!?」

「荷車に食糧積め! 子どもと年寄りを先に乗せろ! 西の峡谷道へ向かう!」


村人たちは一瞬呆け、それから一斉に動き出した。

長年この村を率いてきた男の声には、それだけの力があった。


避難準備を始めた村人たち。

ノアはその様子を見て巨人を膝立ちさせると、胸部の搭乗口を開放した。


熱のこもった操縦席内に、心地よい夜風が入り込む。

だが、落ち着いていられる時ではなかった。

光板の端に、別の表示が点滅している。


――炉心出力:37%

――右腕駆動系損傷

――継戦能力:限定的


「……この巨人も無傷じゃない」


さきほどの戦闘で受けた損傷。

しかも長い眠りから目覚めたばかりなのだ。

二十を超える群れを相手に、どこまで戦えるかわからない。


そのとき、真正面から小さな声がした。


「ねえ」


ノアが光板から顔を上げると、いつの間にかミリアが目の前に顔を寄せていた。


「うわっ!?」

「うわっ、じゃない! 勝手に一人で閉じこもって!」

「なんでここに……!」

「登ってきた!」


胸を張るミリアに、ノアは言葉を失った。


「危ないよ!」

「危ないのはノアでしょ」


ミリアはずいと顔を近づけ、まじまじとノアの顔を眺める。


「顔、真っ青」

「……」

「怖いんだ?」


ノアは少し黙り、やがてうなずいた。


「怖いよ。急に王位継承者だなんて言われて、こいつの使い方だけなぜかわかって……」


うわごとのように呟く。


「王位継承者って、つまり王子様ってこと?」

「わからない……」


仮に王子だとして、一体どこのなんという国の王子なのか。

ノアには皆目見当もつかなかった。


「……もし、僕が本当はろくでもない奴だったらどうする?」


つい口からこぼれた言葉だった。

ミリアはきょとんとした顔をして、それから笑った。


「今さらそんなこと気にすると思う?」

「え?」

「鍬を逆さに持って、鶏に追いかけられて、パン焦がす王子様なんて聞いたことないよ」


思わずノアは吹き出した。


「……ひどいな」

「でも、村を助けたのは本当でしょ」


ミリアは真っ直ぐノアを見る。


「何者かなんて、あとで思い出せばいい。今のあなたは、アルナ村のノアだよ」


その言葉に、胸の奥で何かがほどけた気がした。



村では、避難の準備が大急ぎで進んでいた。

荷車に干し肉、麦袋、水樽。羊たちを追い立て、泣く子どもを抱え、女たちは手際よく荷をまとめる。

ガラムは巨人の足元まで来て叫んだ。


「坊主!」


ノアが巨人の胸部から顔を出す。


「お前はどうする!」

「僕は残ります」


ノアは即答した。


「ここで食い止める。少しでも時間を稼げば、みんなが逃げられる」


ガラムは険しい顔で黙り込む。


「……死ぬかもしれんぞ」

「それでも、残ります」


しばし沈黙。

やがて老人は深く息を吐いた。


「馬鹿者め」


だがその声は、どこか誇らしげだった。


「ならせめて勝て。村を助けた英雄が、こんなところで死んじゃつまらんだろう」


その頃、森の奥。

木々の間を、無数の赤い眼が進んでいた。


それは、先ほどの魔獣とは明らかに違う存在だった。


形そのものは、獣のそれと変わりはない。

だが、明らかにその身体は不自然だった。

金属のような皮膚。裂けた肉の奥に見える構造体。


まるで――生物と機械が混ざり合ったような存在。


そしてその中心を行くのは、ひときわ異質な影。

人の形をした、漆黒の影。


その頭部には、獣の角めいた兜。

そして胸部には――蒼ではなく紅い光が灯っていた。

低い機械音声が闇に響く。


――目標確認。微弱な王統反応を検出。


赤い瞳が、村の灯火を見据える。


――抹殺を開始する。


村の入口。

避難していく荷車の列を背に、アーク・ギガントがただ一機、構えていた。

右腕に展開した切断刃を構え、左腕の盾を掲げる。


その姿はまさしく、神話の巨人だった。

操縦席でノアは深く息を吸う。


「僕が王子でも、何者でもいい」


赤い光点が地平線を埋め尽くし始める。


「……この村だけは、守る!」


そして闇の中から、機械の獣たちの咆哮が一斉に響いた。


――第5話へつづく

※おことわり

本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。

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