第16話「輝ける星砲」
グラン・バルドの砲口に紅い燐光が集まっていく。
街に撃たれるのを、阻止しなければならない。
だが、どうやって?
操縦席の中で、ノアは歯を食いしばる。
正面には、背部砲塔を一斉展開したグラン・バルド。
無数の紅い光点が、フェルグラードへ照準を合わせていた。
一斉に放たれれば終わる。
街も、人も、築き上げてきた営みも――すべて灰になる。
「飛び込むしかない……!」
至近距離で受け止め射線を逸らす。これしか手はない。
全力で両脚を踏み込むと同時に、アーク・ギガントの胸部が蒼く輝く。
「――アイギス!」
ノアの声に呼応し、アーク・ギガントが続ける。
――王統認証確認。
――防衛権限兵装〈アイギス・シェル〉起動。
左腕装甲が変形し、巨大な円環状の紋章盾が展開する。
「……押し込むッ!!」
同時に背部推進機構を展開し、一気に加速する。
想定外の加速にグラン・バルドが身構えるより速く、アーク・ギガントが懐に飛び込む。
そのまま体当たりで両腕を背部砲塔の砲口に叩きつける。
耳をつんざく衝撃音。
ぶつかりあった装甲が激しい火花を散らす。
そのとき、背部砲塔の射線がフェルグラードから逸れた。
苛立つように発射直前の砲口をアーク・ギガントへ向けるグラン・バルド。
至近距離での最大出力砲撃。とても保つとは思えない。
――それでも。
「これ以上、やらせるわけにはいかない!」
ノアの声に呼応し、アーク・ギガントの星冠核炉心〈アストラル・コア〉が激しい唸りを上げる。
紋章盾の出力が最大に達し、膨れ上がった蒼白い光が二機の機兵の間を包み込む。
そして閃光。轟音。
零距離で炸裂した最大出力の砲撃により、あたりは大爆発を起こす。
門前や門上にいた者たちに土煙が降りかかる。
「ノア……!」
土煙に顔を覆いながら、門上のミリアが呻く。
それでも煙を振り払い、眼下で起きた爆発の中心を見やる。
――大丈夫。ノアは、きっとみんなを守ってくれる。
ぎゅっと両手を握りこみ、祈るように力を込めた。
やがて煙が晴れると、果たしてそこには二機の巨人が拮抗していた。
ギギギと軋むような音を立て、グラン・バルドがこちらを睨みつける。
至近距離での爆発は相手にもそれなりの衝撃を与えたようだ。
態勢を立て直すつもりか、両手を引き剥がして距離を取ろうと後退する。
「逃がすか!」
追撃しようと脚を踏ん張ったノア。
しかし、意に反してアーク・ギガントはがくんと膝を崩した。
――炉心出力急速低下。
――戦闘継続に支障あり。
「くそっ……!」
最大出力の砲撃を受け止めたアーク・ギガントは、すでに稼働限界に近い状態であった。
街への被害はどうにか食い止めたが、これでは――。
その時だった。
門の上から大声が響く。
「聞ぃこえるかぁぁぁ若いのぉぉぉぉ!!」
ドヴァンだった。
通信音声ではない。
とんでもなく大音量の肉声だった。
「親方……!?」
その隣には耳を塞いでこちらを見ているリークスと、工房の職人たち。
彼らは必死に何か巨大な台座を門上に持ち上げていた。
その台座に乗る鈍く蒼白い輝きを帯びた、長大な砲身。
古代の意匠を刻む機械兵装。
「あれは……!」
――王統機兵用権限兵装を確認。
――識別名:星冠光砲〈アストラ・ノヴァ〉。
アーク・ギガントの声が続く。
〈アイギス・シェル〉と同じ、王統認証によってのみ真価を発揮する武器に間違いなかった。
門上のドヴァンが怒鳴る。
「使えるかどうかは知らん! だが……使いこなしてみせろ!」
合わせるように、隣にいたリークスが叫ぶ。
「親方、固定完了!」
「よぉし、ぶっ放せぇ!」
巨大な砲が台座――射出台を滑り、蒼い光を放ちながら空高く打ち上げられる。
門の上に蒸気が立ち上り、ドヴァンたちの姿が見えなくなる。
ノアの瞳が見開く。
分かる。
どう使うか。
どう受け取るか。
身体が知っている。
「跳べ、アーク・ギガント!」
――同期補助、開始。
――補助炉心開放、出力最大。
今度こそ、蒼き巨人が空へ飛び上がる。
伸ばした右手が、落下してくる星冠光砲〈アストラ・ノヴァ〉をしっかりと掴む。
握った瞬間、全身を貫くような蒼白い光の奔流。
光板に警告表示が走る。
――主炉心出力上昇。
――操縦者負荷、増大。
右肩が熱い。
痛む。
だが、離さない。
落下しながらノアは砲口をグラン・バルドへ向ける。
向こうも砲門を向ける。
着地の衝撃で、石畳が砕ける。
それでも砲口は逸らさず、ノアが叫ぶ。
「貫けぇぇぇッ!!」
爆発的に光を増した蒼白の閃光が一直線に大地を駆ける。
次いで放たれる、紅蓮の砲撃。
荒れ狂う二つの光が正面から激突する。
大地が震え、空気が悲鳴を上げる。
そして――
蒼白い光の奔流が、紅を呑み込んだ。
グラン・バルドの装甲は蒼い光によって炉心もろとも貫かれ、その支えを失う。
核を撃ち抜かれた巨体がぐらりと傾き――
轟音とともに崩れ落ちた。
静寂。
次の瞬間。
フェルグラード中から歓声が沸き起こった。
「勝ったぁぁぁ!」
「やったぞ!」
「蒼い巨人が勝った!」
だが、操縦席の中でノアは荒い息を吐いていた。
右肩が焼けるように痛む。
光板に警告を示す赤い表示が灯る。
――高負荷接続終了。
――右腕出力、大幅低下。
アーク・ギガントの声が響く。
――目標、炉心停止を確認。
――周囲索敵、脅威目標なし。
油断なく周囲を見渡したアーク・ギガントが告げる。
――戦闘行動を終了。
――お疲れ様でした、ノア。
ノアは小さく笑った。
「……なんとか、守れた」
その視線の先。
蒸気が晴れた門上ではリークスが飛び跳ね、ミリアが満面の笑みで両手を振っていた。
ドヴァンは腕を組みながら、ふんと鼻を鳴らす。
街を覆った恐怖と騒乱は、少しずつ歓声の中へ溶けていった。
――第17話へつづく
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




